赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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第2章 王都編

2-15 神の武器、決意

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少し早めに目が覚めた。
なら今日こそとハルを背負い台所へ向かうがティダの気配はない。

どうやらもう出かけたようだ。
昨日も疲れていた。
気になるが、変な感情も伝わってこない。
王都を離れるのに依頼をこなしているのだろうと結論付けた。

冷蔵庫を確認する。
今日の夜までと言ったところ。

荷物を纏めておこうと思いたったがハルが目を覚ましたので先にハルの乳と着替えを済ます。

シャルも目を覚ましたようでおはようの挨拶をした。
私が作ろうか?と聞かれたが拒否した。
これは母の仕事だ、と。

苦笑いをして「じゃあコーヒーいれまーす」と台所に向かった。


朝食を終え、今日は何するの話になった。
よく考えたらオリハはギルドカードを作って一度も依頼を受けてない事に気がつく。

預けているが五百枚以上の金貨を持っているから生活費的に困る必要がなかったからだ。

村からの報酬で五十枚近くの金貨を貰った。
武器を買ったり主に食費で底が少し見えていたので、そういう意味ではシャルに感謝しなければならない。

なのでギルドに行こうかと思う。
その後は一人で挨拶回りをしておきたい、と伝えた。

「一人で変な事をしない?」

そう問われ自信なく「大丈夫だと思う」と答える。
少なくても今ではないから。


二人でギルドについた。
中に入るとティダがいないせいか罵倒がない。

がボソボソと声はする。
おいあれが四十人斬りか?ただの綺麗な姉ちゃんじゃねえか、など。
褒めたのだろう、と判断した者にウィンクで御礼をしてみた。
今の俺に、いや俺にだ、とやいやいしだす。

ふむ、男とは単純だな、と結論づけた。

S級には数枚の紙が付いている。
受けれる訳でもないのでそのうちの一枚を流し見る。

神の獣フェンリルの捕縛。

(最上位の魔獣で神の使徒ではないのだかな)

そんな事を思いながら依頼票を見渡す。
C級より上に護衛などの人命に関わる依頼があるようだ。
D級以下は魔物の討伐、魔物の素材、薬草採集依頼、などがメインだ。

明日出立の予定だ、受けることは無いが受けるとしたら、と思い依頼票を見ていた。

「ティダが言ってたけど魔物の討伐は無理ですよね」

「か、狩れなくはないぞ?追いかければ良いのだ」

と訂正をする。


そんな雑談をしてギルドを後にした。
出る時に手を振ると俺に、いや俺だと取っ組み合いが始まった。

シャルに怒られた。

昼食はパンケーキで意見は統一された。
ティダはあまり一緒に来てくれないそうだ。

今日はフワフワではない方を食す、そう決めていた。
パンケーキの仄かな甘味とハムや野菜にかかったマヨネーズの塩味が何とも絶妙だ、と舌鼓をうつ。
シャルはフワフワ一択だそうだ。

食後の茶を飲み雑談をした。
昨日の話じゃないんですけど、とシャルが前置きした。

「何で人族だけが他種族とでも子供ができるんですかね?」

「うーむ」

理論はわかるが言語化に悩むオリハ。

この世界では獣人を除く種族間で、人族と他種族は子が成せると認識されている。
ただエルフ族と魔人族、魔人族とドワーフ族などは子が成せないとされている。

産まれてくる子供は人族の因子が劣性のため他種族が産まれる確率が圧倒的に高い。

尚、獣人は獣人としか子が産まれない。

少し悩んでオリハは答えた。

「魂とは器でそれぞれ魂の形が違うのだ」と。

ティーグラスを指してエルフの魂とした。
コーヒーカップを指して魔人の魂とした。

「鍵と鍵穴のようなものなのだ、形が添わなければ子は成せない」

そして空中に拳大の水を作った。

「これが人族の魂、水風船のようなものだ、言い方を変えると弱いとも言える」

そしてその水をティーグラスとコーヒーカップと移してみせた。

「獣人は凄く口が小さい容器のようなものだ、人族の魂でも入り口を通れず弾ける」

口頭でそう説明した。
シャルはなんか凄いしっくりきた、と言う。

ついでだ、と「Color」で火の形を作ってティーグラスの中に入れる。

「主により生命力の火を灯され肉体で蓋をして地へ降りる、これが生命だ」

と火の入ったグラスに手を乗せた。
正確には酸素ではないが、と前置きして言う。

「手という肉体で密封された生命力はどうなる?」

「・・・酸素ではない何かを燃やし尽くすと消える?」

「そうだな、これが寿命だ」

「じゃあ推論上、その何かを注ぎ足せれば火は消えないって事ですか?」

「我の知る限りその何かの代償になり得るのは信仰心、に近いものだけだ」

シャルは疑問符を浮かべ首を傾げる。

「ヒトから柱になったとされる神代の時代の話は知っておるか?」

「はい・・・ああわかりました、そういう事ですね」

英雄と崇められた者が魂の器の中にその何かに代わるものが注がれ肉体を失っても柱として存在出来る、いわゆる神となる。

ふとオリハは思った。
己はどうなのだろう?と。

ある日目覚めた意識が生命力になるのか?
その生命力は故意に産まれたのか?
無意識の元に産まれたのか?

この段階で推論が多く結論は出そうにはなかった。
軽く目を閉じ意識を切り替えた。

「勉強になりました」

そういうシャルの頭を撫でた。

「無茶しちゃダメですよ」と言うシャルと別れて帯剣している武器の親の所へ向かった。



「すまぬ、邪魔をする」

老人は片眉を上げる。

「・・・おう」

そう言うと老人は身体をオリハへと向き直した。
ティダが見たら何と言ったであろうか。

「この間はティダの件で迷惑をかけた」

「何・・・儂の娯楽の為だ」

そう言うとニヤッと笑みを浮かべた。

(この火は燃やしちゃいけねえ)

と、胸に灯る火を制する。
声にしたらもう止まることは出来ない。

「恐らく数ヶ月はティダと行動を共にする事になる、研ぎは我が責任を持つ」

老人は恐らく、と言う言葉に引っ掛かりを覚えたが問いただしはしない。

そしてこの火が小さくても胸に灯っていればまだ数年は生きていられる、そう確信している。

「儂に合う棺が探しても見当たらねえんだ、ゆっくりしてくれ・・・無茶はするなよ」

この問いにオリハは笑みで答えた。
嘘はつけないしつく気もない、それが答えだ。

店から去るオリハに声が出かけた。
胸の火が揺らめく。
風を受け燃え上がり、身を焦がしたい!と。

(あんたのためだけの剣を・・・!)

何とかその言葉を飲み込んで代わりの言葉をかけた。

「・・・ガキを頼んだ」と。



家に戻り荷造りを終わらせた。
日持ちのする食糧はシャルが購入した。

シャルとお茶をし雑談をする。
恋バナ的なのではなく不思議と学術的なものになるが。

そろそろ夕刻だ食事の支度にかかろう。
残った食材を調理するだけだ。

「ただいま~終わった~ダメだ眠い~」

顔色悪くフラフラと帰ってきた。
ちょっと寝る、起きたら食べる、と言い寝息を立て始めた。

シャルがドアを閉めた。
ゆっくり寝かせときましょ、と。
明日ゆっくり出発してもいいし、と。

むう、とムクれながら調理を始める。
もしかしたら最後になるかもしれない声かけをしたかった、話しをしたかった。

・・・最後?大丈夫、大丈夫だ。

今度は何も残す必要はない。

所持品も骨も肉も皮も血の一滴さえも残さず灰にすれば良い。

何の問題もない、我なら容易い。

いずれは違える道だとしても、その時までは一緒にいるのだ。

ああ、明日おはようと声をかけ一緒に旅に出るのだ。

何事も無かったように。


そしてオリハは身体をベッドから起こす。
服を着て剣を帯びリュックを背負う。
寝ているハルを抱き気配を消し部屋を出る。

リビングにはカバーを掛け食べられていない夕食がある。

ふとティダが気になるが聞こえてくるのは寝息のみ。
シャルの部屋からも寝息が聞こえ起きている感情もない。

音も立てず家を出る。

そしてゆっくりと歩みを進める。

酷く漂うのは不思議と何時もの臭いではない。
研ぎ澄まされた鉄のような臭い、殺気だ。

捕まえ嬲り売るのではなく殺すつもりのようだ。

(何のつもりだ・・・まあどうでも良い)

慌てずゆっくり歩みを進める。
大丈夫だ逃げはしない、一人でも多く仲間を掻き集めろ。

そうして王都を出て、数百メートル進んだ所で歩みを止めた。

(ここなら囲められる)

リュックを降ろし腰を下ろす。
ハルを撫でる、不思議な子だ、こういう時に泣いたのを見たことはない。

シャルやティダと一緒にいて襲われる。
そして難癖をつけられ巻き込むのだけは嫌だった。

万が一、そのままこの場を去ることになったとしたら怒こられるだろうな、と二人を思う。

誰も見る事のないその顔は悲しみにも似た。
そして目を閉じその時を待つ。

(・・・さあ、我はここだ!殺しにこい!)


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