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第4章 魔人国、前編
4-6 神の武器、訓練
しおりを挟む「はあぁ~」
オリハは思わず声を上げてしまう。
身体の毒気を抜かれているような、辺りを立ち込める湯気と一緒に舞い散っていくような、そんな感じがする。
空が見えるのも良い、開放感がたまらない。
お湯から手を出してもう片方の手の指でなぞる。
肌の手触りが不快ではなくヌルっとする。
「これは癖になるな・・・」
ハルもオリハの真似をしてはしゃいでいる。
そして広い風呂は良い、手足を伸ばして入る風呂というのは格別なものだ、と変態に感謝する。
二人は露天風呂、温泉宿に来ていた。
日本酒とワインと肉の相性をエインと神父と検証している時に宿の場所を尋ねられた。
「そういえばオリハ様の宿はどちらで?」
「昨日変態と出会った近くの宿だ」
「私めでございますか?このエインめを今、変態と罵られましたか?!」
「罵ってなどおらぬ、客観的に申したまでだ」
「ぐぬぬっ」
とあしらう事も覚えた。
そんなやり取りの中で、この温泉宿を紹介された。
依頼の報酬も兼ねてこの街の滞在中の費用は当家で負担しますと。
依頼に鞭で叩く事が入っていないのを確認して好意に甘えた。
湯に浸かりながら明日の段取りを考える。
日程は一週間、剣の訓練では日数も足りない。
基礎と心構えだな。
魔法は魔力の解析をしてからの術式操作で良いだろう。
魔人ゆえに魔法の素養も高いはずだ。
「おかあしゃん」
と少し離れた水風呂を指差す。
「足の届くところだけだぞ?」
コクリと頷きペタペタと向かう。
足を突っ込んで固まり慌てて戻ってきた。
「つめた!つめた!」とはしゃぐ天使を風呂のヘリに座らせた。
湯をパチャパチャと叩いて蹴って遊んでいる。
そして予定に思案を戻す。
合間に魔物肉を確保しに行って、ああ!ハルの服を買いに行かねばっ!調味料も買い足さねばな。
「よし」とハルを抱えて水風呂に突入した。
二人の悲鳴と笑い声がこだました。
翌日、午前中に買い物を済ませて昼過ぎに教会へ行った。
二人かと思ったが、三人いた。
もう一人の十四歳の少年も参加するそうだ。
昨日の焼肉の際にオリハが肉を一人で狩ったと知った三人の目は憧れに満ちている。
少女ニコは前衛を、少年ミゲルは魔道師になりたいそうだ。
十四歳の少年トムは冒険者希望ではないそうだが「教えてもらって損はないと思った」という商人希望だった。
訓練一日目。
まず剣を教える。
魔道士希望のミゲルは不服そうだったが「剣を携える魔道士」とボソっと耳元で囁くとやる気になったようだ。
子供の喜ぶツボは押さえている。
オリハは実際にも近接も行える魔道士の方が良いと思っている。
愛弟子のシャルにも近接を勧めた事があったが「私にはコレがありますから」と腕立てと拳立てで鍛えた腕と拳を見せてきた。
仕方なく砂を突く貫手の練習を教えておいた。
オリハの剣の教えは座学から始まる。
剣はどのようにして物を切るのか?から始まり、その為に身体をどう動かすのか?を教える。
「理解と腕が有ればこのような事も出来る」
と教会の奥にあった林の木を斬り倒した。
やってみせるのも大事なことだ。
ついでにその木から魔法でショートソードの大きさで三本の木剣を作った。
ディテールにもかなりこだわった。
モチベーションはとても大事だ。
武器の好みや得手不得手はあっても全ての基礎はショートソードだそうだ。
後は徹底した素振りだ。
だが普通の素振りではない。
ゆっくりと一箇所ずつ力の伝導を意識させ、振り下ろす先に対象を想像させて剣の何処に対象を這わせるのかを思い浮かべるのが一セットだ。
それを正眼からの振り下ろしと袈裟斬りと横薙ぎの三種だ。
力の伝導が疎かになったり剣の這わせ方に問題があればその都度注意を促す。
これを二刻程続けた。
そして休憩として飴玉を口に放り込んだ。
ゆっくりなのに汗をかき息も絶え絶えなのは真面目に取り組んでいる証拠だ。
飴玉が溶けたら訓練再開だ。
魔力の解析から始める。
ニコは前衛希望なのは魔法が不得意だと自覚があるからのようだ。
だが身体強化など属性を必要としない魔法もあるので修練の重要性を説いた。
強いて言うなら幻惑系の才があったが「師として側に居続けられなければ扱いが危うくここでは教えられない」と伝えた。
だが基礎さえ出来ていれば「師が出来た時にいつでも学べる」と言うとやる気になった。
魔法の訓練はシャルがレポートにまとめていた「Color」による術式訓練法を採用した。
愛弟子は有能である。
「Color」を覚えさせてから遊びの中で術式を覚えさせようというもので、オリハが教えシャルが実践したものをわかりやすくしたものだ。
離れて他の子供達と遊んでいるハルに久し振りのロバを飛ばして、引き寄せてから人形を作って渡して見せた。
今日は「Color」の修得だけで時間を使った。
魔力の底が見えた者から魔力操作の修練を行って飴玉を口に放り込んだ。
帰りにギルドに寄り討伐依頼でも受けようかと思ったが、職員から「公爵家の依頼を終わらせてからにして下さい」と断られた。
万が一オリハに何かあれば未達成になるからだろう。
受けなくても野原には出られるので渋々諦めた。
宿での食事はパンとスープのみ提供してもらっている。
領主経営の宿らしくスープの味はエイン監修でオリハが手直しした物に近かった。
後は調理場を借りて魔物の肉を焼き味付けをしてパンに挟んだ。
そして温泉に浸かり早目に就寝した。
翌朝日も昇らぬ内に起きて街の外の野原へ行く。
沼地があればサンダーイール、後はパラダイムバードかファイアボア辺りが目的だ。
サンダーイールの蒲焼きはハルが好んで食べる。
パラダイムバードの身は柔らかく美味しいのだが捕まえにくい。
別名、概念鳥と呼ばれ認識していないと姿が見えないという特性がある。
だが気配探査で認識出来ているオリハには風魔法を使う只の魔物に過ぎない。
ファイアボアは焼肉にしたが、赤身が多くローストにした方が美味しい気がしたので試してみたいからだ。
だが探している時に限って見当たらない。
食べられない魔物ばかりだ。
変わったものではアースワームと呼ばれる地面の中に生息する亜龍が出たが見た目が悪く食べる気がしなかった。
ギルドに討伐証明部位を持ち込めば金になるが、昨日討伐を止められたばかりので諦めた。
冒険者界隈で言われる物欲感知器が働いているのかもしれない。
オリハの気配探査魔法は半径で200、直径で400メートルに及ぶ。
直径の状態で辺りを見回せば早々見落としはない。
ハルも起きて日も昇ったので街道に戻り朝食にする。
気分はピクニックだ。
昨日の夜に作った魔物肉のサンドだ。
食事を終えてハルと手を繋ぎ街に戻る。
収穫は残念ながら無かった。
宿に戻り温泉に浸かり昼食を食べ教会に向かう。
訓練二日目。
素振りから始める。
筋肉痛が酷いらしいが必要な事なので敢えて回復させなかった。
痛みが身体の筋肉の動きを把握させてくれるからだ。
今日は説明がないのでその分、斬りあげと逆袈裟、逆薙を追加させた。
当然ゆっくりとだ。
オリハの中では一週間でこの近辺にいる何と遭遇しても、逃げ帰れる実力をつけるのが目標だった。
つまり完全なスパルタだ。
多分依頼したエインも予測していなかったレベルだろう。
むしろ鞭を渡して喜んで参加したかもしれない。
飴玉を舐めさせ休憩を挟んでから、子供達も楽しみな魔法の時間が始まる。
だが魔法の訓練は遊びながらに見えるが魔力を枯渇する寸前まで追い詰めているので、やはりかなりのスパルタだ。
子供達がそれに気づかないのはシャルの術式訓練法によるものだろう。
三人とも今日で普通に「Color」を使えるようになった。
明日から応用編だ。
「「「ありがとうございました!」」」
そう言う子供達の視線と感情が心地良い。
目を離すわけにもいかず、年少の子供らと遊べないのは少し寂しい。
だがこれはこれでオリハは満足している。
早く美味しい魔物を狩って差し入れしたくて仕方ないオリハだった。
宿に戻って温泉に浸かり食事を食べて朝の準備をして今日も早目の就寝をする。
明日こそ美味しい魔物が狩れるように願いながら。
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