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第4章 魔人国、前編
4-7 神の武器、業界
しおりを挟むオリハはハルをしがみつかせ両手で抱きかかえて草原を走っていた。
何故いつも我から魔獣は逃げ出すのだ?!と幾度目かの同じ疑問を己に投げかけながら走った。
だが全力で走るわけにはいかない。
ハルを抱っこしているからだ。
ゴブリンにすれ違いざまにジャンピングニーをかましながら走った。
魔物の反応のある沼地を飛び越えながら走った。
二百メートルあった距離を百メートルまでなんとか縮め、瞳に魔力を灯した。
土系高位魔法「Crag Wall」を無詠唱で発動させファイアボア二匹の進路を阻もうとした。
「・・・なっ!?」
だがタイミングが少し合わなかった。
流石にハルを抱きかかえながら走りつつ、まだ距離があり、逃げる魔物の目の前に岩山のような壁をタイミングよく派生させるのは難しかったようだ。
二匹のファイアボアは派生する岩山の先端に見事に引っかかり激しく宙を舞った。
擬音をつけるならポーーーンといったところか。
だが運良く二頭の内一頭はオリハの方へ舞い上がった。
もう一頭は岩山の向こうだ。
ファイアボアは空中で「プギィィイ!」と鳴き四肢をバタバタと暴れさせている。
両足を踏み込み地面でブレーキをかけた。
舞い起こった砂煙は体の周りに魔法で風を纏いかからぬようにした。
ちょうど落下点になりそうだ、と暴れるファイアボアを魔力を込めた瞳で見つめた。
氷系獄級魔法「Hell Frozen」を圧縮し無詠唱で発動させる。
ピキピキと音を立て背中の炎もそのままに氷塊と化した。
落下してくる氷塊を見て「・・・このままでは砕け散るな」と呟きハルを降ろした。
全身に魔力を通して全身強化と部分強化を重ね掛ける。
「ヌンっ!!!」
ドスン!と響く音がしてオリハの両足が地面にめり込み両の掌に氷塊を受け止めた。
ふぅ、と息を吐きポイっとファイアボアだった物を前に投げ捨てた。
ハルはスタンディングオベーションしてくれた。
オリハは両手を挙げ胡散臭い笑顔でそれに応えた。
今日は街の西側の野原に向かった。
少し歩くと二百メートル先に近寄ろうとしない反応が二つあった。
魔獣だ、そう思ったオリハは街道添いに戻り弁当入りの巾着袋を置き、屈伸をして勢いよく走り始めこの結果に至った。
凍っているのに触ると何故か熱いファイアボアを削っていく。
腿と背の部分だけ残して粉末にして、肉を真空膜で覆い魔法障壁を逆さに貼り付けた。
それを浮遊させたまま来た道を戻る。
魔物の反応があった沼をオリハは忘れていない。
術式で糸状に魔力を変化させ沼に滑らせる。
サンダーイールの胴体にそれを巻きつけ睡眠魔法で眠らせる。
それを引っ張り上げ、頭を落とし皮を剥ぎ骨を取って身を洗ってから凍らせる。
同じように魔法障壁を逆さに貼り付け巾着袋の元まで戻った。
巾着袋からお弁当を出して肉を詰め込みそのまま二人は朝食にした。
食糧確保に安堵しつつ食べる魔物肉サンドの味は格別であった。
食後に自家製飴玉を舐めながら街道を歩いた。
宿に戻り温泉に浸かり魔物肉サンドを大量に作り教会に向かう。
ギリギリ昼食に間に合ったようで、全員に魔物肉サンドを配れた。
エインが焼肉の時に「美味しい」という言葉を広めたのか食卓からおいしい、おしいーと声が上がりオリハを喜ばせた。
少し早いが手が空いているとの事で訓練を始めることにした。
木剣を取りに部屋に戻っている間にエインとマリアがやって来た。
二人も時間ができたので見学に来たらしい。
地面に正座して長時間に渡る変なプレイを始められても困るので椅子を用意した。
訓練三日目。
復習として短めに六種の型を行わせる。
ゆっくりとした型に最初は驚いていたが「成る程」と呟きメモを取りだした。
新兵の訓練に取り入れるそうだ。
てっきり混ぜさせろと言い出すかと思ったが、腐っても公爵だった。
その後は連撃へと移った。
まずは一通りやって見せる。
振り下ろしからの振り上げ。
袈裟斬りからの逆薙。
逆袈裟からの横薙。
それぞれの足運びと繋ぎの際の筋肉の動きを教える。
そして慣れればこんな事も出来ると、九種の剣舞を見せた。
スタンディングオベーションが巻き起こる。
両手を挙げ胡散臭い笑顔でそれに応えた。
だが二連撃とはいえ難易度は跳ね上がる。
どうしても疎かになる場所が増えてくる。
オリハが子供達に注意を促す度に、それをエインがメモに控えている。
予想外で何故か苛立つ。
その後は単撃の素振りに戻させた。
そして今度は素早く行わせた。
あえて注意を促さずに動きを止めさせない。
一通りやらせて「ヤメ!」と号令をかけた。
へたり込んだ三人に「よく頑張ったな」と飴玉を口に放り込んだ。
それを見てエインは「しまった!混ざればよかった!」と悔やんでいた。
やはりただの豚であったか、と安堵した。
休憩の後「Color」による術式を行った。
エインが子供達の詠唱を真似てあっさり成功させていた。
さすがに王子だけあって英才教育を受けていたのだろう。
癪だったので口髭をピンク色にしておいた。
子供達とマリアが噴き出したが一刻もすれば戻るので問題ないはずだ。
「オリハ様、少し頼み事がありますので訓練が終わった後、屋敷にお越し頂いて宜しいですか?」
「準備がありますので」と席を立った。
「ま、待たれよ、鞭ではぶたぬぞ?!」
「普通のお願い事ですから」
と笑顔で一礼して去っていった。
・・・仮にも王族で公爵である。
しかも元王位継承権第一位である。
流石にオリハでもわかる、これは不敬だと。
(落ち着け、大丈夫だ、あれはただの変態だ、領民達もまた変なことをしている、と思うだけに違いない)
大丈夫だと深く息を吐き無理やり納得するオリハ。
立ち去る背中を見ながら上書きすれば済んだ事に今更ながら思い至った。
「Color」の形状変化や術式による魔力の放出などを行い、少なくなった魔力操作をさせて飴玉を口に放り込み訓練を終えた。
今日は魔法で体力と筋肉痛を回復させた。
痛みによる補助はもう充分だろうと判断したからだ。
ハルと子供達をキレイにしてから宿に戻ろうとするオリハを子供達と神父、シスターが見送ってくれた。
手を振り立ち去ろうとするオリハの目の前には公爵家の執事が車で迎えに来ていた。
逃す気はないようだ。
執事に「用とは何であろうか?」と聞いたが「申し訳ありません、私は存じておりません」と返ってきた。
訝しげなオリハに「恐らくですが」と前置きをして「食事の研究に関する事だと思います」「ここ数日、その件で動いてらっしゃいましたので」と。
頭の中に魔化した野菜が浮かんできた。
野菜には飢えているので、あの脚が見えなければ食べられる気がした。
それでも生脚の炒め物だけは断固断るつもりだ。
屋敷に着き食堂へ案内された。
すでにエインが椅子に座って待っていた。
社交辞令を述べる丸盆は、その上の三本線がことさら薄く長く見える。
つまりご機嫌なのだ。
嫌な予感がして横のマリアを見た。
黙って悔しそうに頷く。
「・・・いつから気がついた?」
「一体いつから・・・私が気がついていないと錯覚していたのですか?」
「・・・なん・・・だと・・・?」
「流石はオリハ様です・・・どうやって魔法を使役されたのか未だに分かりません」
椅子から立ち上がり悪意の欠片もなく微笑んだ。
「分かりませんでしたが、子供達とマリアが噴き出してオリハ様だけが真顔であれば何が起こったのかくらい検討はつきます」
靴を鳴らしながら近寄ってくる。
その音はさも福音を表すかのように。
「オリハ様が私の為に何かをして下さった!・・・と」
諸手を振り上げ感極まる顔で天を仰いだ。
姿勢が凄く良いところに腹が立つ。
「私め・・・未だに何をされたのかは存じておりません」
やれやれと言わんばかりに首を振り両手をあげた。
余りにワザとらしい態度に余計に腹が立つ。
「ただ子供達とっ!このマリアがっ!噴き出すような事をされたのかと思うとっ!」
悲しげな顔で丸い肉体を捻る。
喜劇にしか見えず更に腹が立つ。
「・・・思わず街中を散歩してしまいました」
歪みのない満面の笑みを浮かべ首を傾げた。
オリハは堪え切れなかった。
「このっ・・・変態めっ!」
はっ!と息を飲んだ。
ついに言わされてしまったのだ。
「私共の業界ではご褒美でございます」
深々と一礼をされてしまう。
「ぐぬぬぬぬっ!」
「おっと、忘れておりました、御礼にもなりませんが試食をお願いしたかったのです」
パンパンと手を叩いた。
そして侍女が料理を運んできた。
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