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第4章 魔人国、前編
4-13 神の武器、出発
しおりを挟むその夜オリハは宿への道を歩いていた。
思いに耽り夢を見ながら歩いていた。
ハルや子供達がくれる蜂蜜のような甘露とはまた味わいが違う。
叩きつけられた芳醇な肉を思わせるその感情は、至極の喜びをオリハに与えてくれた。
それがあの変態であるエインであってもだ。
むしろ傑物たる雄から向けられた事で、雌として自惚れと優越感すらもたらした。
だがエインに限らずそれを受け止めるつもりも、持つつもりもオリハにはない。
(我は・・・ヒトではないのだ)
寿命も子も成せるかもわからない。
神の武器としていつ役目が終えたと、天に戻るかも分からない。
だから喜びと共に痛みを伴った。
応えられる事のない感情は喜びと痛みを与えた。
オリハに抱きつき眠る我が子を見る。
神の武器には存在証明というのがある。
所有者が天に召される。
またはその地でオリハルコンとして成す事を終えた時、必要がなくなった時点で100%となり天へと送還される。
降臨させた以上は柱や主でもその数字を触る事は出来ない。
当然オリハ自身もだ。
ハルが存在証明に関わっていない事は分かっている。
もしハルの存在が関わるのなら一日一日と成長に合わせて、存在証明の数字が上がるからだ。
ギュストの残留思念を食べる事が使命であるならあの時に針が動いた筈だ。
そんな思いに耽っていた。
そして夢を見た。
神の武器としてではなくただの女であったのなら。
その時点で有り得ないとオリハは思っている。
エインがオリハにその感情を向けたのは会議の後からだ。
つまり神の武器としてのオリハに向けたものだと。
だが良いだろう、夢の中で弄ぶくらい。
と笑みをこぼし免罪符を持ち出した。
我がただのダークエルフの女であったなら?
物件としてみれば雄として問題はない。
子供が成せないのは辛いな。
教会の子らを引き取る前提なら良いかも知れん。
変態は・・・矯正出来ぬのだろうか?
やはり鞭で打つのは・・・嫌だな。
精神的に虐めるのは楽しそうだ。
だが・・・出来るなら惚れた男が良い。
己があの激しい芳醇な感情を抱く相手に抱かれたい。
その者と子を成したい、と。
思わず自嘲してしまう。
なんとさもしい、なんと女々しいのだ。
だが良いであろう?これは夢なのだ。
決して叶わぬ夢なのだから。
「ああ!オリハ様!ありがとう御座います!私共の業界ではご褒美でございます!」
「くっ!」
「では早速取り掛かりますゆえ!」
そう言い肉塊が転がっていった。
オリハはただ呆然とした。
今日ここに来たのはただ暇だったからだ。
昨晩の事は詮なき事と一蹴した。
あれは変態で友人だから良いのだと。
研究所に入ってきたエインにも気がついた。
怒りの感情を珍しく露わにしていた。
オリハに気がついて喜びと悲しみと恐怖の感情を宿した。
そして笑い出しいきなり「好きです」と言われた。
昨晩の芳醇な感情が一気に溢れた。
だが昨晩の様な叩きつけるモノとは違い、まとわりつく様な包み込む様なモノに変わっていた。
同じ感情なのに違いがある事に戸惑った。
そして変態が跪いた瞬間、背後に薔薇の花が咲いた。
幻視魔法か?!とオリハが勘違いするくらい咲き乱れた。
そして芳醇な肉を思わせる感情が一変する。
その高級肉をさらに薔薇で燻製にしだしたのだ。
聴覚には神の武器ではないオリハを褒め称える音がして、視覚には薔薇の花と微笑む変態、嗅覚には薔薇で燻製された芳醇な肉。
そして侘しい触覚と味覚を残して去っていった。
(な、何だというのだっ!変態のくせにっ!)
顔を真っ赤にして内心取り乱す事しか出来ない。
何といっても見た目は大人、知識は老人、心は三ヶ月後に一歳だ。
(・・・鞭で打ってやるか、いや!何を!)
しかも感情が分かるという特殊能力のせいで効果は抜群だ。
(鞭で打つくらいならまだ股をひ・・・ひっ!?いかん!何を考えておるっ!初めてをあの変態にっ?!絶対嫌だっ!)
とどのつまりチョロインなのかも知れない。
そして思考に振り回されて疲れ果てた。
「ハルよ・・・母はもう一度温泉に入りたい」
「おんしぇん!はいるっ!」
「・・・そうか・・・帰ろう」
温泉と御食事に癒された翌日、明朝出発する事になったと伝言があった。
性癖だけではなく行動力も変態だ。
だが教会にお別れを言いに行き「ヒマではなくなった!」と豪語するオリハがそこにはあった。
その後ビクつきながら公爵家に行き、同行する事になる魔道具師を見つけた。
明日以降の予定を聞いてみた。
三組ではなく一組だけ先に出発するらしい。
二組は農作物が間に合わないそうだ。
先行して東の男爵領、子爵領を抜け伯爵領まで出る、と聞いた。
後発組がこの公爵領と男爵領と子爵領の町々を回るらしい。
先発隊がエイン、マリア、オリハ、魔道具師三人、料理人二人、護衛二人の十人との事。
明日からエインと顔を合わせる事になる。
これ以上、醜態を見せるわけにはいかない。
少し落ち着いて考えればただ薔薇を背負っただけだ。
薔薇を背負おうがエインは変態だ。
王族ならきっとよくある話に違いない。
そうオリハは己に言い聞かせた。
明朝早めに起きて温泉に入った。
オリハはお風呂は面倒と感じていた。
だが温泉は格別だ。
時間帯さえ気をつければ貸切だ。
利用客は旅の者か冒険者くらいだ。
今は赤字だろうが、エインならいつか黒字に変えるだろう。
温泉から上がってサッパリとしてから食堂に向かう。
そこにコッテリとしたエインがいた。
・・・大丈夫だ薔薇は背負っていない。
「おおっ!オリハ様の湯上り姿とは何と神々しい事でしょうか!」
・・・くっやりにくい。
先に御食事を済ませていてこれから温泉に入ってから屋敷に向かうとの事。
オリハとハルが御食事を終える頃、出汁を取り終えたエインがいた。
多少のコッテリ感は消えたようだ。
相対しても問題はなかった。
やはり薔薇の特殊効果がなければこんなものなのだと納得をした。
まあ、あの時の芳醇な薔薇の燻製肉を思わせる感情の御礼はいつかしてやってもいい。
屋敷に向かいながら簡単に説明してくれた。
出立を早めたのはオリハの為だけではなかった。
エイン自身の所用だと言う。
所用が何か聞いたがおいおいと話すそうだ。
あの時の怒りが原因なのだろう。
まあ困ったら助けてやろうとは思う。
積極的に関わろうと思わないのは、それがエインだからだ。
少なくとも手練手管の面ではオリハでも敵わない。
実際に飼い殺しにされかけたのだ。
必要ならその時に話すだろう。
屋敷の前には大型の車が三台並んでいた。
外観の見た目は特に違いはない。
馬車の様に入り口がある。
面白いのは全体が片側から上にパカっと開くところだ。
これで農作物の積み下ろしが楽な様にしてあるらしい。
人用や工房用もパカっとなるそうだが使うことはないらしい。
なるのは作る際に共通化したからだそうだ。
ただ内装は車ごとに違っていた。
運搬用は主に荷台でベットが折りたたみ式で四台ついていた。
工房用も作業台と折りたたみ式のベットが四台ついていた。
人用、今回は公爵様用と言うべきか。
内装もこだわりがあり派手にならない程度に装飾が施されている。
調理場、シャワー室は公爵様用、工房用にある。
全車に手洗いを完備してあるそうだ。
いざ乗り込もうと工房用に向かうがマリアに捕まった。
公爵様用の護衛役なのだとか。
他の護衛役は既に別の車に乗り込んでおり逃げ道がなかった。
公爵様用にエイン、マリア、オリハ、ハル、女性の料理人との事。
流石に宿の料理人の御方ではなかったがそれに準ずる人だとか。
車の運転手はマリアだ。
[特級運転者]とかいうスキル持ちだとか。
車は緩やかに出発した。
このまま公爵領を抜けて男爵領、子爵領と抜けるらしい。
「エイン」
「はい、なんでございましょう」
「今日はお主はもうする事は無いか?」
「今のところは特にはございませんが?」
「よし、ではそこに寝ろ」
とベットを指差す。
「えっ?いっ?なっ!そ、そんなこの様な時間に・・・は、ハル様もいらっしゃっいますればっ!」
「大丈夫だ、優しくしてやる」
優しく微笑みエインにジリジリと歩み寄る。
その分エインは後ろに後退り、いつの間にかベットまで辿り着いた。
そして足を引っ掛けベットにドスンと座り込む。
「お、お、お、オリハ様?!」
「早く寝転べ」
「は、はいっ!」
ピシッと寝転びながら直立する。
ベットの横にオリハも腰掛ける。
マリアが前とこちらを交互に見やる。
女性の料理人は手で顔を隠しながらも目の所が空いている。
オリハは壁ドンならぬベットドンをした。
ベットの上で跳ね慌てるエインに妖艶に微笑む。
エインはムギュッと目を閉じた。
そして片手を頭においてから強力な睡眠魔法と持続型の回復魔法をかける。
直後、大きないびきが車内にこだました。
「よし、これで朝まで起きぬ」
パンパンと手を払う。
「どうせこの二日も無茶をしておったのだろう?」
これまでの積み重ねもある。
顔に疲れがはっきりと出ていた。
「いい夢を見るのだぞ」
なにせ旅は始まったばかりなのだから。
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