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第5章 魔人国、後編
5-1 神の武器、ガタゴト
しおりを挟むガタゴトガタゴト車は進む。
ひたすら続く道の上。
ガタゴトガタゴト車は進む。
次の街までなんのその。
「マリア、何の歌だ?それは」
「何となく、でございます」
眼鏡をクイっと上げてマリアが答える。
四小節を延々と繰り返されて思わず聞いてしまった。
その小気味良い口調にハルが合わせて「ガタゴト」と首を振る。
だが実際には車はガタゴトなどしていない。
驚くほど揺れはなかった。
むしろ今まで乗っていた車の方が揺れていた気がする。
「それが私のスキルの効果でございます」
と眼鏡の縁をキラッと光らせマリアが答えた。
初めて見た乗り物でもどんな乗り物でも、乗り物と認識出来れば限界を超える性能で自在に扱えるそうだ。
「後ろの二台は揺れていると思います」
そう言うと眼鏡の光がスッと横切った。
なんと芸達者な眼鏡なのかと思ったが、それは侍女の嗜みらしかった。
ハルが「ガタゴトガタゴト」と首を振り繰り返すのでそれに合わせて四小節を三人で暫く繰り返した。
屋敷を出発した朝からその日は二つ目の町まで進んだ。
休憩として車を止めたのは食事の時だけだ。
女性の料理人も大変腕が良く、オリハも昼と夜の料理を手伝った。
到着したのは真っ暗になってからだ。
エインはずっと眠らされたままだ。
臓器にも影響を与えるよう術式で調整したので、寝小便などはないように配慮済みだ。
たまに寝言で「お、オリハ様ぁ」と魘されていた。
「良い夢を」とは言ったが勝手に出演させて欲しくはない。
せめて悪夢である事を願った。
いびきと寝言があまりにうるさいので途中から風魔法で結界を張っていた。
それからは音がしないので気にもならない。
町の中なので火の番もない。
その日は全員で就寝した。
日も開けぬ内から車は動き出した。
そして先程のガタゴトの歌に繋がる。
まだ女性料理人は寝ている。
歌がうるさくないように結界を張ったので迷惑にはならない筈だ。
当然エインと結界は分けた。
いびきで起きたら可哀想だ。
運転席の横でゆっくりと昇ぼる朝日を見た。
揺れないのに「ガタゴト」と音がしながら車は進んだ。
日が昇りきった頃に後ろで気配がした。
料理人が起きたようだ。
シャワーを浴びてから朝食を作ってくれるそうだ。
時間的にはエインもそろそろのはずだ。
二十四時間寝させて更に持続型回復魔法つきだ。
これで数ヶ月に及び無茶をした分はある程度回復するだろう。
シャワーから料理人が出てきて調理を始めた頃、気配を感じ後ろを見た。
ガバッとエインが飛び起きた。
音は聞こえなかったが何かを叫んで起きたように見えたので「良かった、悪夢であったな」とオリハは喜んだ。
ベットで身体は起こしているが、やや両膝を立て片手で頭を支え難しい顔をしている。
漏らしてはいないはずだが、と結界を解き声をかけた。
「エインおはよう、どうした具合が悪いのか?」
マリアも前を見ながら「おはようございます」と声をあげた。
「あ、お、オリハ様おはようございます、大丈夫です、何でもありません」
と近寄るのを手で制された。
「疲れているだろうと回復魔法の効果をかなり強めにして、二十四時間持たせるようにしたのだが足りなかったか?」
「そ、それでですかっ!い、いえ、よく効きました、本当によく効きました、ありがとうございます」
「シャワーを浴びてまいります」とヒョコヒョコと歩いていった。
術式の操作を誤ったのだろうか?
エインから羞恥心を感じたので後で謝った方が良いのだろうか?と訝しげにしていると、マリアが「どうかなされましたか?」と聞いてきたので説明したら「何も言わないであげて下さい」と言われた。
その後マリア先生による、エインがパンツと寝巻きを手洗いしている時間を利用して、思春期における夢精のメカニズムの性教育の授業を受けた。
「それにオリハ様は強めに持続型回復魔法をかけられたのですよね?」
「うむ、疲れているだろうとかなり強くかけた」
「恐らく・・・何度も夢精したのではないでしょうか?」
「・・・それはご褒美ではないのか?」
「故意に辱められるのと、生理現象で恥ずかしいのは別物なのです」
「違うのか?」
「そうですね・・・椅子に縛り上げられて見られながらするお漏らしと、朝起きたら布団にお漏らしをしていた差と申しましょうか」
と眼鏡全体が白く鈍く光り教えられた。
分かり易い、さすがは本職だと舌を巻いた。
しかし魘された回数が夢精だとしたら申し訳ない気にもなる。
だがその都度夢に出演させられたかもしれないと思うとその気も失せた。
これからは持続型回復魔法を強く長時間かける時は袋は避けようと思う。
その日は夕方に男爵領に入った所で休息を取ることになった。
町はまだ先なのでここで夜営をする事になった。
マリアはスキルの影響なのか負担はあまりないようだ。
ただ工房車と運搬車の運転手はキツイらしい。
エイン曰く「明日からはペースを落とします」との事。
運転手の休みという名目で護衛の仕事がようやく出来た。
高額で依頼を受けた以上、何もしないのはやはり心苦しい。
提供される御食事も美味しいからだ。
オリハを含め三人の護衛がいるので一人が休憩する三交代となった。
護衛はいざとなれば日中休めるので問題はない。
エインが三人の最大警戒距離を聞いてきた。
二人とも50メートルと答えた。
差があり過ぎてもと100メートルと控え目に答えた。
「周りに合わせよう」とはシャルとティダの教えだ。
エインが口では褒め称えながらも目だけが訝しげだったので嘘なのはバレていそうだ。
「負担になりますが出来るだけ広範囲で警戒をお願いします」
と三人に頭を下げた。
下げながらもこっちをジーっと見てきたのでプイっと顔を背けておいた。
まあ仕方あるまい友人だからな、と最大直径400メートルでちゃんと警戒してあげた。
だが街道沿いは魔物避けも有り寄ってくる事はなかった。
警戒しているのは別のものだろうか?とふと思ったが、何か変わった様子も感じられなかった。
困ったのは「公爵様の恋人なのか?」とか「女王様なのか?」と交代の度に質問された事だ。
やはり市井では噂になっているらしい。
出来る限り否定してもらうよう頼んだ。
あれからエインは褒め称えるだけで求婚もされない。
この場合怪しいのはマリアかもしれない。
一度膝を詰めて話し合う必要性を感じる。
その翌日からはエインの指示で休憩も増えた。
気分転換と称して車から降りて身体をほぐす。
運転手としては有難いのだろうがやはり何らかの意図を感じる。
案の定その日も村ではなく街道で夜営となった。
そしてまた広範囲での警戒を頼まれる。
仕事が出来るのだから文句も問題もない。
だが魔物を警戒するのか、それ以外を警戒するのかくらいは聞いておきたい。
変態の手の平の上はやはり癪だ。
朝起きてからエインに確認してみる。
言わないのであれば聞かれたくないのだろう。
料理人が調理をしている間に声をかけた。
「警戒しているのは魔物以外でよいな?」
「はい、仰る通りにございます」
(くっ!やはり手のひらの上か!)
驚きもせずそう答えるエインに砂を噛む思いを味合わせられる。
思惑を超えてやろうと思案を巡らす。
(ならやはりヒトであろう、原理主義者とか言う者共?だが襲われるのであれば魔物と変わらぬ)
「怪しげな気配があれば・・・そこに助けに向かってよいのだな?」
「!?さすがオリハ様です!申し訳ございませんが是非に」
ピクリと片眉をあげた。
よし、と心の中でガッツポーズを決めるオリハだった。
「それでオリハ様、実際いかほどの距離で警戒出来るのでしょうか?」
「直径で・・・四百だ」
「!?予想以上でした!このエインめ敬服致しました」
「なんだ、今度は疑わんのか?」
「・・・オリハ様は嘘が下手に御座いますので」
運転しているマリアがウンウンと頷いている。
「あと言葉に熱を込め過ぎでございます、いつも意図が見え隠れ致しております」
ニコニコと微笑みそう述べた。
運転しているマリアがウンウンと頷いている。
「ぐぬぬぬっ!」
手の平の上から這い出たと思ったがズルズルと引き戻された気がした。
ハルに助けを求めるオリハの耳には「事前に読み解けた事など御座いませんが」と小さく呟いたエインの声は届かなかった。
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