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第5章 魔人国、後編
5-2 神の武器、金色
しおりを挟むオリハはクルクルと気配探査魔法を回していた。
気配探査魔法は脳内に地図を描くような魔法だ。
地図といっても地形や障害物は表示されない。
ただ黒い効果範囲という地図があるだけだ。
その地図に生物の気配があればそこに点が現れる。
術式で対象を組み込みヒトであれば反応が他と異なる様にしてみた。
だがヒトの反応は相変わらず見当たらない。
見当たるのはハルも含めて十個の点だけだ。
あの後エインが金色の髪の赤子の話をしてくれた。
伯爵領でその赤子を見かけたという情報があったと。
魔人族にとって金色の髪とは特別な意味を持つのだと、金色の髪と口髭を乗せた丸盆が言う。
王族にしか発現しないらしい。
「エインの子か?」と冗談で聞いてみたら「私め、童貞にございますっ!」とプンプンしながら言い放った。
聞きたくもない藪蛇を突いてしまった。
ただ黄色がかった金髪もある。
かなり遠縁の者が先祖返りを起こして発現した事もあるという。
そして目撃情報が勘違いや間違いである可能性があると言葉強く言った。
そこからはもう聞かなかった。
あの手練手管に長けた変態が言葉強く言ったのだ。
探す行動をしているのに否定の可能性を言葉強く言ったのだ。
だからオリハにはそれで充分だった。
見つけてやれば良いのだと。
オリハは目眩と倦怠感を感じていた。
回復魔法も何故か効果がなかった。
ここまで長時間使用した事はなかった。
同時に見える視覚と脳内の地図の所為なのだろうか?
だがここで止める選択肢はない。
もうすぐ男爵領を抜ける。
伯爵領との間にあるのは子爵領だけだ。
伯爵領から男爵領までは大地の幅も狭く、街道は一本道だ。
街道の周りには草原や森があり、そこには魔物が徘徊している。
赤子を連れて街道以外の道を抜ける術はない。
そんな事が出来るのは、ハルを抱きかかえたまま魔物と戦えるオリハくらいなものだろう。
だから運転席の横でオリハはクルクルと回し続けた。
見逃してはならぬと。
ヒトの反応があった。
だが視界には町が映っていた。
そして子爵領の町に着いた。
反応の数が一気に脳に負荷をかける。
目眩が酷くなり吐き気がしてくる。
堪らず魔法を解除して大きく息を吐いた。
「大丈夫で御座いますか?」
そう言い心配そうにエインが水を差し出した。
大丈夫でなかろうが止めるつもりはない。
だからオリハは「些事だ、問題ない」とだけ答えた。
友人が怒りを露わにしたのだ。
王族で公爵で変態だが友人なのだ。
ただ己に出来ることをやっているだけだ。
だから目眩や倦怠感など些事でしかない。
オリハは癒しを膝の上に乗せる。
その温もりと重さが身体の気怠さを和らげる。
母となったオリハに怖いものなどない。
だから休憩中に町へと姿を消したエインとマリアの後を半径の地図で追う事ができる。
周りに不審な動向をする者がいないか確認できる。
ハルと「ガタゴト」の歌を歌いながら。
帽子を被った豚がいる。
髪と髭は「Color」で黒く染めた。
それでも体型のせいで目立ってしまうので
眼鏡を外したマリアから離れた所にいる。
二人は噂を聞いて回っていた。
種類や内容は問わない。
精査するのは後でいい。
拗らせてはいるがマリアは見目麗しい。
主人として自慢出来る程に。
「何か面白い話ないかしら?」
グラスを片手にそう聞かれれば、男は口をいくらでも滑らせる。
下心から興味を引こうと必死になる。
聞いた後は袖にして店を出るだけだ。
だが中にはしつこい男もいる。
だから離れた所から見守っていた。
「はぁ・・・貴方じゃ物足りないわ」
そう言われた男は肩を落としている。
仲間に肩を叩かれ励まされている。
問題はなさそうだ。
エインからすれば眼鏡のないマリアは物足りない。
切れ長の目で眼鏡越しに蔑むように見られるからこそ美しいのだと思っている。
マリアがSでないのが本気で悔やまれる。
そんな事を考えていると眼鏡をかけたマリアがそこにいた。
「何か面白い話はありましたか?」
「・・・原理主義者共に動きがあるみたいです」
敢えて端的に述べられた言葉で全てを把握する。
片手で項垂れた頭を抱えながらエインは深く溜息をつく。
エインはオリハが無理をしてくれている事は理解している。
そして名も知らず見たことも無い金色の髪の赤子に心を砕いている事を理解している。
我が想いびと、麗しの君がだ。
心の中にあった汚泥の様な澱が嵩を増していくのを感じる。
そしてその元凶となった者共の素っ首を思い浮かべるも、その思いは晴らされる事はなくむしろ更なる澱を降らせる。
「エインリッヒ様」
とマリアが声を掛ける。
そして両手の指で自分の口角をクイッとあげ笑みを作った。
(・・・ああ、いけませんね)
食肉を柔らかくするように平手で顔を叩く。
その様を眺めながらマリアは溜息をついた。
その尊大で醜悪な御顔で罵って下さったのならと。
マリアは本人が毛嫌いするその素質こそがエインリッヒの最大の魅力なのに、と思っている。
それはドMとしてではなく、生きとし生けるもの全ての中にある服従心。
それを満たせる事の出来る唯一無二の素質を。
ここ最近のエインリッヒの様子を思う。
オリハを僅かながらも弄る事が増えた。
しかも楽し気に。
そのままSに目覚めて欲しいと願わずにはいられなかった。
「どぅえは赤ぐぅおの情ほぉうは?」
顔を両手でムニムニとしながらそう言った。
主人が何を言ってるのかわからなくても理解するのは侍女の嗜みだ。
マリアはその事には首を横に振り口を開く。
「私はエインリッヒ様の庇護を求めてこちらに向かっている可能性はやはり高いと思います」
とエインの考えを肯定した。
元々は王都にいたはずだ。
北東へ進み国境を目指さずに南西にある伯爵領で噂があった。
それは追っ手の可能性を示唆する。
それは原理主義者共なのか王家なのか。
それとも両方なのか。
どこかの町で身を隠してくれていればいいが・・・
心の汚泥の嵩増しに合わせてムニムニの速度を上げる。
ムニムニ・・・
最後の仕上げと頬肉を叩いた。
「よしっ・・・では行きましょう」
「はい、エインリッヒ様」
いつの間にか髭と髪は輝く金色に戻っていた。
オリハは戻ってくる点を確認して魔法を解除した。
そして軽く息を吐くために「ガタゴト」の歌を中断した。
半径の固定された地図であった事とハルのおかげで乗り切れた。
遊びまわりたいハルには申し訳ないが暫く固定席になるだろう。
エインが差し出してくれた水を一気に呷った。
(大丈夫だ、些事だ、問題はない)
口元からこぼした水を手で拭い、そう言い聞かせた。
「お待たせ致しました、出発いたしましょう」
ニコニコとエインが戻ってきた。
表情を変えない変態ではなくマリアの表情を見た。
あまり状況は良くないと察した。
楽しいお歌の時間が止まったからだろうか、ハルが大きく欠伸をした。
胸に抱きながら軽く背中を叩く。
オリハの胸に身体を埋めながら気がつけば寝息を立て始めた。
その様子を眺めていたエインが「はっ!?」と何かを思い出したかの様にブルブルと顔と脂肪を横に振っていた。
魔人特有の肌の色のお陰で顔色がわかりにくい事に感謝をしながら。
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