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第6章 獣王国編
6-2 神の武器、看病
しおりを挟む歳は6.7歳くらいに見える。
白い塊は猫の獣人の子、赤茶けた塊が犬の獣人の子であった。
様々な可能性がオリハの頭をよぎるが、少なくともフェンリルに害意は感じない。
ならば今は、と子供達の様子を見た。
横になり息苦しそうにしている。
この時点で感染症を疑ったオリハは、己とハルとアキに浄化魔法の付与を行い、空気感染の対策をした。
次に子供達の耳を触った。
元々、獣人は他の種族に比べて体温は高い。
だが伝わる温度は明らかに高かった。
その上、犬の獣人の子は口を開け舌を出している。
明らかに放熱作用だ。
オリハは子供と熱、この二つから思い至り毛をかき分け皮膚を見る。
猫の子も犬の子も赤い発疹が見受けられた。
恐らく麻疹だ、そう予測した。
息苦しそうにしている所から、肺炎の併発もあり得る、と。
因みに病気に対して浄化魔法は使えない。
対象になる菌がどの様な形で、どの様に働くのかわからないからだ。
菌、ウィルスを特定せずに浄化すると、体内に必要な菌まで浄化してしまう。
なのでまず、体表、体毛を浄化魔法で清潔にした。
次に肺と身体に軽度の持続型回復魔法をかける。
これは肺炎による炎症と、体力の消耗を抑える為だ。
エインから借り受けた異次元収納の腰袋より、塩と砂糖を取り出して、生活魔法で出した水に混ぜた。
それを口から少しずつ飲ませる。
空中に小さな氷を浮かべ、タオルで包んだ。
それを子供達の首筋に当てる。
薬はない、直ぐに出来るのはこの辺りだろう、と息を吐いた。
ここまでの症状の把握と処置は「侍女の心得」全三十巻の効果だ。
引き続き、洞穴内と大狼に浄化魔法をかける。
そして換気を良くするために、土属性魔法で外に繋がる穴を開けた。
最後の仕上げは・・・
「フェンリル、お主は・・・布団だ」
「ワウ?」
「ゴワゴワの毛を・・・ふわっふわにせねばならぬ」
「ワ、ワウ!ガウゥ」
「大狼聞きの悪い事を申すな、子供らの為だ、子供らの」
「バウッ!ガウガウガウッ」
「・・・もう諦めろ、優しくしてやる・・・ふふ、ふふふ・・・」
「ヒャイン、ヒャインッ!」
そうして成り立ったのかわからない会話を終えて、オリハは目を怪しく光らせ、大狼を引きずり外に連れ出していった。
・・・その後、獣王国の東の森に一つの悲鳴がこだましたという。
ふかふかでふわっふわの大狼布団を作成した後、獣人の子供らをそこに寝かせた。
ハルやアキも寝かせて、己もそこでもふもふとしたかったのだが、まだやる事があった。
獣人の子らに関しては、体調が戻ってから直接本人に聞けばいいだろう、と考えた。
そして悪意は感じないとはいえ、相手は魔獣だ。
ハルやアキには貴重なもふもふを前に、申し訳ないが付き合ってもらう。
大狼に大事な子らを預けられるほどの信用はまだない。
出来る事なら、薬草でも採取して錬金術で薬を作れれば一番なのだが、知識はあってもその技術も道具もオリハにはない。
特に薬の調合はデリケートだ。
配合を少量違えるだけで毒にもなる。
だが、オリハにはアレがあった。
「侍女の心得」には不可能の文字はないらしい。
侍女の嗜みによる民間療法だ。
洞穴で火を使うわけにはいかないので、まず外に竃を作った。
亜熱帯地方、熱帯雨林を彷彿させる獣王国の夏の森では、枯れ木は期待出来ない。
木を伐採して魔法で乾燥させて薪を作った。
腰袋から米を取り出して、宙に浮かせ洗う。
更に鍋を取り出して米をいれ、かなり多目に水を注ぎ火を点けた。
後は蓋をしてコトコトとお粥を作る。
だが、お粥を作るのが目的ではない。
出来上がったお粥の上澄みだけを掬う。
俗に言う重湯だ。
尚、「侍女の心得」の二十四巻、他国の歩き方、第三章の急に具合が悪くなったら?の項目で「お米の力は偉大です」というタイトルで重湯は紹介されている。
白い猫の子はやはり猫舌だろう、とかなり冷ました。
赤茶けた犬の子には軽く冷まして持っていった。
それをスプーンで少量づつ口に運んであげる。
犬の子にあげる際に鼻が長いのもあり、多少こぼしてしまった。
「これはまた洗わなくてはならんな」
そう呟いたオリハの言葉に、大狼は身を震わせたとか。
オリハとハルは残ったお粥に塩を振り、後は野菜を炒めて食べた。
アキはまだ母乳だ。
「完全に治るまで早くとも一週間はかかるだろう、大変だが頑張ってくれ」
そう大狼に告げ、魔物の肉を焼いて食べさせた。
後は氷を包んだタオルを当て直したり、水分をしっかりと取らせる。
そして大狼にハルとアキを寝かせた。
ハルはふわふわのふっかふかを大変お気に召したご様子。
大狼は複雑な表情を浮かべつつも、満更でもないご様子。
流石に子供四人とオリハまで眠れるほどスペースはない。
だがオリハは既に大狼を洗った後「布団に相応しいか確認せねば」とこれでもかという程ふわふわの首元で、散々もふもふを堪能していた。
そうしてオリハの念願は叶ったが、大狼は首を捩じ切られる思いがしたとか。
そうして三日が過ぎた頃、オリハは頭を抱えていた。
獣人の子らはちゃんと回復してきている。
大狼も立派に布団をしてくれている。
そこは問題なかった。
ただ獣人の子らは喋れなかった。
正確には大狼とは意思疎通しているようだった。
獣人の子らは、看病をしていたオリハに気が付いて、最初は唸り声をあげた。
それに、大狼が一声鳴くと大人しくなった。
オリハは獣人が己に対するいつもの反応のアレなんだろう、と悲しく思っていた。
だが、それからも何を聞いても首を傾げる。
口を開けば大狼と同じで「ワン」「ガウ」で猫の子でさえ「ワン」で「ガウ」だった。
つまり、ヒトの言葉がわからないのだ。
「フェンリル・・・この子らがいくつの時から一緒におるのだ?」
「ワン」
そう言い大狼は・・・アキを見た。
そうしてオリハは頭を抱えた。
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