赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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第6章 獣王国編

6-9 神の武器、神無月

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ナツとフユの修行は暫くの間中断を余儀なくされた。
集中せずに形だけでは意味がない。
魔物の処理もオリハがやっていた。

ナツは母、フェンリルの事を引きずっていたからだ。
捨てられたわけではない。
それは解っている。
それでも恋しくて泣いていた。
夜は眠る前に何時も泣いていた。
歩いていても、思い出したかのように泣き出した。
ハルが頭を撫で、フユが背中を叩いた。

フユは・・・強がっていたのだと思う。
よく動き、よく騒いだ。
雰囲気を良くしようと頑張っていた。
だが、ふと儚げな表情を浮かべた。

二人がそういう時は、撫でて抱きしめた。
まだ母としての宣言はしていない。
フェンリルの事もあるが、二人が獣王国で生きる選択をした時のことを慮った。

二度も母と別れる必要はない、と。

置いていってあげれるお金もある。
有難い事に山の様に有る。
未だに怖くて残高は確認していない。

深まる秋を前に、冬支度を始めていく。
その為に町々を巡り出す頃には、少しづつだが表情が明るくなってきた。
湧き上がるやる気に合わせて、言葉や数字の勉強、生活の知識を教えていった。
獣人と目を合わせないよう、気をつけていたオリハだが、偶然だがガラス越しだと怯えられない事に気がついた。

なので、獣王国では伊達眼鏡がデフォになった。

二人が片言でヒトの言葉を話せるようになった頃に、獣王国の中央にある王都に辿り着いた。
暦はもう十月を示していた。


王都は祭りの様な賑わいを見せた。
いや、実際に祭りだった。
露天が立ち並び、獣人や他の種族も溢れかえっていた。
大きな垂れ幕に[第八十七回 獣王国武闘大会]の文字がある。
「これはなんだ?」と買い食いのために寄った露天の店主にそれとなく聞いてみた。
三年に一度行われる、武器有り魔法有りの武闘大会らしい。
優勝者には国王への挑戦権が手に入り、勝てたら望みの褒賞があると、親切に教えてくれた。

[王の座すら望みとあらばくれてやる!]

そう置いてあるチラシに斜め書きで書いてあった。
実際に勝てた者はいないそうだ。
そして勝てたとしても、王の座を望む者もいないだろうと。

獣王国も王政で、貴族による領地管理により統治されている。
人族の貴族と違うのは、単に言えば別段偉くないのだ。
国民の意識としては、面倒な事を管理してくれている、その程度の認識でしかない。
ここに至る途中の町で、シルクハットを被りステッキを持って胸を張って歩く、小綺麗なまん丸い兎の獣人を見た。
熊の獣人の子が「伯爵さま、今日も可愛いねー」と軽々と持ち上げていた。
「や、やめなさい」と咎めるが熊の子は止めることはない。
そして町の人々も笑って眺めているだけで、それを止めることもない。
不敬にならないのだろうか?と町の人に尋ねてみたところ、もし警備を呼んだ所で喜んで喧嘩を始めるだけだ、と答えられた。

獣人達にとって王や貴族とは、面倒な事をやってくれる有り難い人という職業でしかないそうだ。

ただ、聞いた話では貴族達は純血主義と、血にはうるさいらしい。
例えば、兎獣人は兎獣人と子を成す。
他種獣人と混ざってはいけないと。
だが、あくまでそれは貴族間のみの話だ。
領民や国民にそれを押し付けることはないのだとか。

そして獣人同士であれば、種族に関係なく子を成せる。
例えば犬獣人と云えども、見た目には差がある。
狼犬の様な獣人もいれば、愛玩犬のような小型の獣人もいる。
その子供は二人の特徴を足して割った様な子が産まれる。
これが他種の獣人になると、少し変わる。
産まれる子は半々でどちらかになるらしい。
狐の獣人と狸の獣人なら子供は狐か狸という具合だ。
なので、ナツとフユは双子ではないか?とオリハは思っていた。


武闘大会は戦い好きの獣人が、戦が無くなって暇を持て余した末の余興なのだろうと思う。
ここに至るまでの町でも「北の谷の魔澱みでブラッドタイガーが出た」「南の村のタゴサク爺さんがレッサーキマイラをやったらしい」など、似た様な会話がよく耳に飛び込んできた。
なので、冒険者ギルドにも滅多に討伐依頼はない。
討伐依頼を出すなら、自分達で狩るからだ。

ナツとフユが、聞き取れなかった会話の補足説明を求めてきた。
既にワクワクしているようで、目が輝いている。
説明の後「明日が最終日のようだ、見たいか?」と聞くと、ナツは通行人の邪魔になりそうなほど尻尾を振り、フユは瞳孔を小さくして喜んだ。
その様子をハルが嬉しそうに眺めている。
二人が気落ちしていた時、心を砕いたのはハルも同じだ。
まるで、世話のかかる兄と姉を持った妹のようだ。
まだ三歳くらいだが、その母性で立派な母になるだろう、嫁にはやらんが、とオリハ談だ。

宿場通りの外れの寂れた宿を、なんとか見つけた。
祭りの時期なので、どこも一杯だったのだ。
ネズミの歳経た獣人の店主が一人でやっていた。
手をふるふるとさせていたので、大変だろうと食事は遠慮した。
その代わりに台所を借りた。
掃除も思うままに出来ていないだろう台所を、まず徹底的に洗浄した。
家事は基本魔法頼りのオリハには簡単な話だ。

子供達に特に好き嫌いはない。
強いて言えばナツとフユの野菜嫌いくらいか。
ただ生野菜が嫌いなので、味付けして温野菜にすれば問題はない。
最近は温野菜の付け合わせと野菜スープが定番だった。
ネズミの老人にも食べやすいだろうと、ハンバーグにした。
「美味しい」そう言ってもらえれば老人相手とて嬉しいものだ。

「君達のお母さんは料理が上手なんだね」

そう言われて頷いた子らに涙腺が緩む思いをする。
ナツとフユを子供認定する日も遠くないかもしれない。
アキも離乳食に漸く手をつけてくれた。
これにはオリハはホッとした。
もう歯が生えてきて痛かったのだ。
だが、アキは諦めてくれない。
離乳食は離乳食、母乳は母乳、別腹だと泣き縋る。
そしてスキルの効果のせいで、求められる限り母乳は出てきてしまう。
溜息をつき持続型回復魔法をかけて、今日も母乳を与えるのだった。

ベッドは二つあったが、いつも外で眠る時のように固まって寝た。
真ん中にオリハ、手を伸ばして左側にハルとフユ。
右手側にアキとナツ。
寝返りも出来ないが、いつも心地よい睡眠と温もりを与えてくれる四人には感謝しかなかった。

オリハとて葛藤はあった。
ヒトの世での存在価値にまで思いが至ったのだ。
何もかもが吹っ切れるほど、脳筋とはいえ簡単な話ではない。
だがそこに光明がある。
主に気づかされた光明があった。
フェンリルに託された光明があった。

足は未だ重いままだ。
臓腑が抉られるような思いもある。
だがそれは止まってしまう事とは別の話だ。
そんなモノはただの些事だ。
だから悩みながらでもいい。
ただ懸命に母となる、ただそれだけでいい。
ヒトじゃなくとも立派な母はいた。
子らの為に命を賭した母がいた。
無理やりであろうとも、強引であろうとも想いを受け継いだのだ。
己の針が止まる時まで、懸命に生きるだけだ。

フェンリルから女である事を諦めるな、そう言われた気がした。
あの時は、思わず涙した。
なんとなしに、横で寝息を立てる子らを見た。

・・・慌てる必要はない。

そう自嘲した。
まだ己は一歳と半年なのだから。


翌朝、ヒト混みを掻き分けて闘技場に出向いた。
五万人は収容出来そうな、それは大きな闘技場だった。
漂う感情を匂う必要もない。
歓声が熱狂と興奮を伝えてくれる。
観客席も満員で五人は立ち見をした。

露天で食べ物と飲み物を買った。
それを飲み食いしながら観戦した。
飛び交う魔法をそして斬撃を、興奮冷めやらぬ状態でナツとフユは見ていた。
やはり獣人の子だな、とオリハは微笑ましく見ていた。
ハルは闘いには興味を示さず、はしゃぐ兄と姉に合わせてキャッキャッと楽しんでいた。


そして獣王国武闘大会は、虎獣人の剣士を素手で組み伏せた、王たる獅子の咆哮にて閉会を迎えた。

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