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最終章
最終章-12 神の武器、二年
しおりを挟む「・・・今、何と言った?」
ナツとフユの旅立ちから二年が経とうとしていた。
もうすぐ春を迎える。
そしてここはサウセント王国、ここは王城の謁見の間。
キレ気味にオリハが問いかけた先は、この国の王であるオリバー・パウエル・サウセントだ。
「いやいやいや、今回はダメだからね、ハルちゃんとエリーちゃんとオスカーくんには春から王都の学園に、寮に入ってもらうからね?」
「成る程、我から子を奪おうと?そう言うのだな?」
「奪わないよ?!その殺気やめて?!寿命縮んじゃうから!アルベルトくんの所の子みたいに寮に入ってもらうだけだからね?!」
荒れ狂う殺気の中、兵士達は身動き一つ取れない。
椅子に座ったままだが、手を振りその殺気を拒絶するオリバーは流石、歳経たとはいえ一介の王なのだろう。
「だがナツとフユの時は!」
「かなり無理やりだったよねえ?新しい国を興したついでに、法律でギルドの未成年者登録を可能にさせたとか、ホント無茶もいいところだよ」
保護者同意の元、という前提はつく。
働いている、既に手に職があるという建前と、日頃の学習過程の報告により不要だと蹴ったのだ。
「だが!他の子らの学習課程は報告書に上げてあるだろう!?態々、学園に通う必要などないではないかっ!?」
「・・・聖母オリハ基金」
「!?」
「お陰様でね?寒村の貧しい子供も働かなきゃいけないような村でもね?学園に通えるようになったの」
寧ろ寮費も食費もそれで賄えるとあれば、将来の為、未来の為と親は喜んで送り出すだろう。
「・・・良い事ではないか」
「そう、だから大事なのは通ったという過程と卒業したという実績なの、だからそれを制度化する事にしたの・・・宰相?」
そして宰相は売られる馬のような目をした。
オリバーは諦めろと首を横に振った。
宰相は涙目で震える唇で説明を始める。
それは就学率を100%にする事によって起こり得る経済成長率から始まる。
先に述べられた貧しい世帯の助けになる事も、ここに含まれる。
学問を通し知識を得る事で、低賃金などの不法就労を防ぐ役割も担う。
学習のある時間に学園におらず、外にいる子供は違法就労、犯罪に巻き込まれている可能性があり、防犯率の上昇すら見込まれる。
覚えてろ、と涙目で自国の王を睨みつける。
かなり収まっているとはいえ、オリハの殺気は只人にはかなりの影響を浴びせるのだから。
その視線を、肩を竦め受け止めてオリハに問う。
「・・・どう?」
「・・・」
その無言を半ば折れていると判断。
最後の駄目押しをする。
「この法案ね、元々は獣王国から上がってきたのよ、何でも院生が卒業論文として、直接獣王殿に上奏したんだってさ」
「・・・っ!?」
「でもそれだけじゃ夢物語だった、それを聖母オリハ財団がバックアップすると・・・可能になっちゃったの、凄いよねえ?」
これでもう逃げ道はない。
そしてオリハもフユからの手紙に、その様な事が書いてあった事を思い出していた。
「少し名前借りるにゃ」と。
ああ、オリハは誰を責めれば良いのだろうか?
何せフユに遠慮なく使えと言ったのはオリハなのだから。
寧ろ褒めてやりたい。
流石だと撫で回してやりたい。
「・・・ああ、そうだな」
だからそう答えるしかない筈だ。
その言葉にオリバーは胸を撫で下ろす。
そして次の言葉で息を詰める。
「ならば我が学園を作ろう・・・場所はサテライトだ」
「・・・っ!え?い、いやいや」
今からじゃ間に合わない。
その言葉も飲み込まされた。
「オーウェン!」
「はっ!」
「いや、君の王はボクだよねえ?何さ、その「はっ!」って」
「3ヶ月で国を興すのと・・・2ヶ月で学園を作るのならば、どちらが簡単だ?」
これは一概には言えない。
形態と枠組みを整えて、後は丸投げしたのだから。
エルフ達の混乱と混沌の後にようやく平定を成したのだ。
だがこの提案は領主としても大変、魅力的であった。
そして工程を頭に描く。
カチカチと大小様々な歯車が脳内で組み合わさる。
「・・・学園、ですね」
「アルベルトくん?!君の才能、そんな所で無駄に使わないでっ!」
「という訳だ、命令通り学園には通わせる・・・これで良いな?」
「ち、ちょっと待って!」
「待たぬ、時間が惜しいのでな」
やり込んでやった。
オリハは高笑いをしながら気分良く退席をする。
声にならない声を出し、去る姿を見送る事しか出来なかった。
オリバーにはオリバーなりの理由と思惑があったのだ。
仲間に裏切られたゴブリンのような目でキッ!とオーウェンを睨む。
オリバーの思惑は理解出来る。
だが国に不利益を与える訳ではない。
ならば領主としてこの判断は、決して間違いではない。
大きく肩を竦め首を横に振り「諦めて下さい」とオーウェンも退席した。
オリハをここに案内した以上、当然送る義務があるからだ。
それに仕方なかったのだ。
これにはオーウェンの個人的な思惑も大きく加味されているのだから。
「・・・はあ、どうしようかなあ、このままじゃアルに怒られちゃうなあ」
椅子に沈み独りごちる。
つまりはただの爺馬鹿なだけであった。
帰りの馬車の中、オーウェンは組み込んだ歯車を公開していく。
それはオリハの思惑とは大きく異なっていた。
「聖母オ、んんっ・・・財団の方に学園設立の為の援助金申し込みをしておいてよろしいですか?」
「いや我が全額出す、あの金は我の我儘で使って良い金ではない、それにこういう機会がなければ貯まる一方だ」
「分かりました、工夫ですがギルドにも依頼します、多少高くは付きますが避けられない出費です、期日までに箱が出来ていなければ学園の体も為せませんからね」
「ん?・・・確かにそうだな?」
「講師ですが、オリハさんの名前を利用して集めます、研究の片手間でも教えられるような面子が揃えられる筈です」
「ま、待てオーウェン、我は1クラスや2クラス程度のささやかな学園で構わないのだが?」
それに首を振って否定する。
「・・・申し訳ないですが、それではまず認可は降りません」
「・・・そうなのか?」
「はい、生徒数が少なければそれ幸いと王都の学園に吸収されるだけです」
建物もそうだ。
ただの掘っ立て小屋では容易に買い取られてしまう。
短い期間であったとしても、買取り切れない箱を用意する必要がある。
これは正しい。
オリバーが現段階で試算しているのはその状態なのだ。
下手をすれば建築資材すら売りを控えさせるに違いない、とオーウェンは読んでいる。
「生徒は数を揃える為に、国内だけてはなく国外からも募集します、なので大きな寮も作る必要があるでしょう・・・その人数に対応する為の講師、職員もです」
オリハとしては森の中の掘っ立て小屋で、子供達とキャッハウフフする姿しか想像していなかった。
何を言われても、今は実感も湧かなければ現実味すらない。
「・・・我の名を利用とは?」
フユの件で少し慎重になっている。
別段、問題もないし自重して欲しい訳でもない。
ただ用途は詳しく聞いておくべきだったと反省しているだけだ。
「オリハルコン物語の著者、失われた歴史を正しく知る唯一の者としての名前です」
これがエインの言っていた副次効果であった。
絵本の販売から数ヶ月後、読み通りにオーウェンの元に問い合わせが殺到したのだ。
会議の中でレオンパルドに口を挟まれなければ出ていた言葉は「童話ではない童話」だった。
神が近しい世界であるが故に、神の武器たる逸話は現実として捉えられている。
つまりは実際にあった事なのだと。
そして失われた歴史とはその名の示す通り、国のお抱えの歴史学者や考古学者達が追い求める秘宝である。
だが500年前の動乱により、多くの書は失われており、その殆どが口伝に頼るばかりであったのだ。
見る者が見れば分かる。
その絵本の結末が示す価値が。
都合よく捻じ曲げられた過去ではない。
道徳を説いたようなその結末が、史実であるという可能性の高さを。
当然、その話を疑う声もあった。
だがエルフという長寿の種であった事。
オリハ自身の高名な武の高さがオリハルコンを求めた結果の研究成果だった、と言えばそれを裏付けるに充分だった。
そして取材の御礼としての費用。
講習会の御礼としての費用。
真新しく派生する歴史書の売り上げの一部などが「聖母オリハ財団」へと流れる仕組みであった。
その資産はそれなりに膨らんだ。
これはエインから見てのそれなりである。
そしてそれなりの資本があれば、増やすだけなら片手間でやってしまえるのがエインという男だ。
非営利財団として活動するに充分な資産を2年で作り上げたのだった。
閑話休題。
未だ教えを請いたいという申し出は尽きない。
一度だけでは飽き足らず、二度、三度と取材の申し込みがあるのだ。
とはいえオリハも忙しい。
定期的には引き受けるようにしているものの、断る件数の方が圧倒的に多い。
ナツとフユが卒院したが、それでも9人の我が子がいる。
それは何においても優先度される事柄だからだ。
そのオリハが学園を設立する。
そこの講師になれば、いつでも話が聞けるのではないだろうか?
それを餌にする、とオーウェンは告げる。
「・・・オリハさんに負担が掛かるのは重々承知の上、ですが・・・」
「ふむ、講師共が子供達を優先した上であれば問題はない・・・ん?では我は?」
「勿論、学園理事長、ですよ?」
ニコリと首を傾げる。
口髭を剃った童顔な美中年の笑顔は眩しかった。
暗に講師には出来ませんしさせません、とその笑顔が伝えてくる。
旗を現場に刺す訳にはいかないのだ。
「・・・残念だが仕方ない、だがそこまでする理由はそれだけか?」
そう聞いたのは、オリハは上等な箱だけでも済むのではないか?と思ったからだ。
生徒数が少なかろうとも、建物を無駄にする事は出来ない筈だ。
それ以外に理由がある。
そう思ったのだ。
「・・・設立初年度は、初等部と高等部の1学年のみを想定しています」
「妥当だ、それ以上は到底対応出来ないだろう?」
「はい、そしてミシェルを高等部に」
ああ、そういう事か、と納得する。
王都の寮から自宅へと移らせる気なのだ。
いくらオリハとてアルベルト子爵家の事情まで首は突っ込めない。
王の臣下であるオーウェンは、王都の学園に入学させるしかなかったのだ。
「ならば仕方ないな」
「はい」
子供の関わる事柄は何においても優先される。
それは間違いなく二人の共通項であった。
「建築資材は・・・癪ですがエインリッヒ殿に頼りましょう、恐らく王が妨害しようと手を回す筈ですから」
「ああ、任せる」
こうなったらもうやる事は少ない。
オリハには何故王が手を回すのか、その理由までは分からないが、オーウェンがそう言うのであればきっとそうなのだろう。
だからオリハは空返事をしながら、説明を続けるオーウェンを見る。
あの夜、自分を凡人だと卑下した男を見ていた。
(・・・これのどこが平凡だというのだ?)
ただ才能の方向性、ベクトルが異なるだけだ。
破壊し支配する者と平定し治める者。
オーウェンは間違いなく後者だ。
過去の所有者達のソレに近しい。
それは決して誰にも劣るものではない。
側で見ているオリハがそれを一番良く知っている。
「・・・聞いてますか?」
「あ、ああ、ちゃんと聞いている・・・で我は何をすれば良いのだ?」
「聞いてないじゃないですか・・・」
呆れ顔には苦笑いで返した。
まだ肌寒い時期だ。
厚手の白い司祭服はまだ脱げそうにない。
だが時期に明るい陽気がやってくるだろう。
オリハは12回目の春を間も無く迎える。
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