赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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最終章

最終章-13 神の武器、えらい人

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あの日、教会でオリハの帰りを待っていたのは愛しの子供達とエインだった。
何事もなかったように「お帰りなさいませ」と口髭の乗った丸盆が口にしたので耳を引っ張っておいた。

フユの件を報告もせずに黙っていた罰だ。

そのエインだが2年前からサウセント王国にいる。
役職としては魔人国外交官、サウセント王国駐在大使との事。
屋敷はサテライトの街ではなく王都にあり、何故か週の半分は孤児院にいる。
オリハにとっては邪魔なのだが、来る際にはお土産を何かしら用意しており、子供達からの人気は高い。

そのエインは、オリハが王宮に呼び出されたと聞き、孤児院で待っていたらしい。
オリハから国王からの要件を聞き「そうなりましたか・・・」などと口にしたので、もう一度強目に耳を引っ張っておいた。
この街に新しく学園を作ると国王をやり込めた所を話すと、大変嬉しそうに悪い笑みを浮かべていた。

そこからはオーウェンに説明を頼んだ。

建物の建設や講師、職員の手配などオリハの専門外だ。
理事長職とてそうだ。
分からないならば任せれば良い。
暴走しないように見ていれば良い。

エインから見てもオーウェンの采配は申し分ないようだった。
話を聞きながら口も挟まず渋い顔をしていたからそれが分かった。
基金からのお金を使わない事だけはやや反対されたが「まあ20年・・・いえ15年あれば減価償却出来るでしょう」と言われて、職員の賃金を高めにするように伝えた。


その日からオリハが携わった事といえば指を折る程度だ。

冒険者ギルドへの工夫の手配。
オリハを「マム」と慕う連中の殆どが参加を表明してくれた。
何せ力自慢の連中だ。
建築の知識などなくても、材木を運ぶなど役に立ってくれる筈だ。

教師、職員の面接と面談。
これには思っていたよりも数が湧いた。
そう表現したのは面談の結果、早々にお帰り頂いた数が多かったからだ。
予想外だったのは、教会関係者からも申し出があった事だ。
知らなかったが、オリハは一部からは評判がとてもよろしいらしい。
そんなオリハの作る学園ならば!と両手を上げたのだとか。
彼らの語るような崇高な理由などない。
ただ子供達と離れたくなかった、とは言えず硬い笑顔で冷や汗をかいていた。

学食担当の料理人達との打ち合わせ。
これは言うまでもなくオリハの趣味である。
直前まで施策を重ねる事だろう。
試食職人のエインには頑張ってもらった。

クラス分け。
各国から生徒を集める都合上、学園は完全実力主義とならざるを得ない。
それ故に難問だった。
入学時から学力に大きく差があるのだ。
言うなればハルなどはここでの3年分の学習を既に終えている。
だが反対に算数も出来ない、字が読めない生徒もいる。

これは急遽始めた政策の弊害とも言えるだろう。

これは新設学園だけの話ではなく、どの学園でも言える事だった。
初期案は他校を参考にしたA、B、Cと学力ごとにクラス分けをする案だったが、これをオリハが反対した。
AはBを見下しCはDを見下すだろう。
実力主義ならば当然なのでは?それを励みに頑張るのでは?という意見もあったが決してそれを認めなかった。
それはあくまで大人の意見であり、子供達には当て嵌まらないのだと。

だが学力ごとにクラスを分けるのは必須だが、上と下を作るのは反対。

そして選ばれたのが、学ぶ教室の並び順をクジ引きで決める、という原始的な方法だった。
クラス名はアルファベットでもなく数字でもなく、星座の名前を付けた。
それに伴い、成績ではなく良い事をした、模範的な行動を行った生徒を見かけたら星型の飴を配らせる事にした。
これは教師からだけではなく職員からもだ。

これは流石に意見が割れた。
幼稚過ぎるのではないか?と。
だが幼稚と言われ、オリハが独りごちた言葉がその反対意見を抑える事になる。

「・・・そうか、幼稚だったのか、我が子らには皆そうしていたのだが・・・」

少なくともここにいる教師陣は知っている。
その子供の中に獣王国で名を知らしめたフユという娘と、同年主席で卒業したナツという息子がいる事を。
ならば何かしらの効果があるのだろうか?
そしてやるだけやってみよう、となったのだ。

取り敢えず子供達に飴玉を上げる事が出来ると胸を撫で下ろす。
最早、飴玉はオリハにとってライフワークなのだから。


おおよそオリハが関わったといえばこの程度である。
学園の学び舎も白を基調とした外観は仕上がり、細かな調整や備品の配備が残るだけ。
オリハから見ても、これだけの学び舎をよく拵えた。
よく間に合わせたと思った。
少なくとも王都にある学園にも引けは取らないだろう。
始業してからは、飴玉も毎日新品が届くように手配もした。
料理人達ともこれでもか、と打ち合わせは済んでいる。

学園が始まれば理事長職に就く事になる。
主な仕事は金銭面と対外的なものが主になるのだとか。
学園経営が上手くいけば、学園間交流などもあるだろう。

それをつまらないと思わなくもない。
そんな時間より子供達と交流を測りたいのだ。
それに教師達とも情報交換をしなければならない。
司祭の職を辞した訳でもなく、母をやめる気は毛頭ない。
これからは忙しくなるだろう。

だからこんな夜があっても良い。

風呂から上がり、ハルの髪の毛を優しく梳いてやる。
濡れた後でもふんわりと広がる癖のある銀の髪。
今は肩まで伸ばしている。

「あーあ、私もお母さんみたいな髪が良かったなー」

色が同じだからだろうか。
ハルは良くオリハの髪と比較した。

「ふふっ、母はハルの髪が好きだぞ?」

そしていつものように答えた。
今日はむくれるハルに聞きたい事があった。
言っておかなければならない事があった。

「ハルは・・・将来なりたいものはあるか?」

「んー、まだ分かんないかな、でも・・・」

「でも?」

「んふふー、ないしょー」

可愛い笑顔で誤魔化さずに教えて欲しいとオリハは思う。
その将来を応援してやりたいから。
だが無理には聞き出せそうもない。
こんな嬉しそうに内緒にされてしまっては。

「そうか、では言いたくなったら教えてくれるか?・・・母はハルを応援してやりたいのだからな」

出来ればこの世界に存在していられる間に。

「うん!」

せめて望むものは与えてやりたい。
それが叶わぬなら何かを残してやりたい。

「・・・学園は楽しみか?」

「うーん・・・年の近い友達ってアルしかいたことないから少し不安、かなぁ」

この答えにほんわりと好相を崩す。
エリーやオスカーはハルにとっては家族なのだ。
その下のイリナやアルト、アキは勿論、その下も当然。
ミシェルの事はおそらく姉扱いだ。
ハルの産まれにも育ちにも、血という意識がない故の考え方なのだろう。

「年の離れた友などいたか?」

配達を頼んでいるパン屋の小倅や冒険者見習いの者達を思い出す。
だがそれ程親しくしている記憶がない。

「エイン!それとマリア!」

友人は選べ、と言いかけて言葉を飲み込んだ。
それは諸刃の刃、極大のブーメランだったからだ。

「なあ、ハル」

なので感想を述べずに話を変えることにした。

「もしかしたら母の所為で嫌な思いをさせるかも知れない」

「・・・なんで?」

これはエリーやオスカーにも話すつもりだ。

「母は学園で一番えらい人になるのだ」

「知ってる!おめでとー!」

「あ、ああ、ありがとう・・・それでだ、学園に通う子達の中には、まだ文字を習っていない子もいる、ハル達が入るクラスは同じように予習をしている子達が集まっているが・・・それでも最初は授業がつまらないと感じるだろう、もう母が教えたところだからな」

オリハの言葉に黙ってコクコクと頷く。
青い澄んだ空のような瞳の色は、その真意を探るように母を眺める。
初等部で学ぶべき範囲は既に履修させてあった。
3年目になれば、真新しい学習内容に移れる知れない。
そこまではどうしても復習となってしまう。
全てオリハの所為ともいえた。

「定期的に行われる試験でもそうだ、3人なら満点も取れてしまうだろう」

学習指導要領は把握しているので、その辺りは容易に想定出来た。

「それ故に心無い言葉を投げつけられるかも知れない」

「こころないことばって?」

「・・・贔屓だ、とかズルをしてる、とかだな」

「えー、お母さんがー?私たちにも甘いけど、よその子にもすっごーく甘いのにー?」

「ぐぬっ!な、何か棘がないか?!」

「気のせいだよー」

その様子を気にもかけずにハルは笑った。
オリハに心当たりはなくはない。

「・・・じゃあ私、そのクラスじゃない方がいいなー」

「いや、絶対そうなるとは限らないのだぞ?」

「じゃなくてー、んー?」

そして両手を前に組み頭を捻る。
伝える言葉を思いついたのか、オリハに向き直る。

「あのね、私もイリナやワルン達もそうなんだけどね?」

「うむ」

「お母さんには聞けないことってあるの」

「なっ!なんだとっ?!」

慌てて言葉を継ぎ足すハル。

「む、難しいこととかじゃなくて!・・・ちょっと勉強で分からなかったところとか・・・そ、そう、すっごく簡単なこととか!」

忙しいのを知っているから煩わせたくない。
ハルはそう言いたかった。
そうだとしても寂しいと思うのはオリハの我儘だろうか?

「・・・たぶん先生にもそうじゃないかなーって・・・だから聞きやすい友達がいたらいいかなって思ったの!」

納得はいかないが言いたい事は分かった。

「・・・だがそれではハル自身の勉強が疎かになるではないか」

母として少しでも良い環境で学んで欲しい。
当然の親心だろう。
復習とて決して無駄にはならないのだから。

「どうせつまらないって言ったもん」

「ぐぬっ?!」

「復習なら家でも出来るし、それに・・・お母さんなら?」

「母か?」

「お母さんが私だったらどうする?」

そして蕩けるような満面の笑みを浮かべた。
オリハを一番長く、一番近くで見てきたのはハルだ。
聞くまでもなく、どうやらかすのか知っている、という顔だった。

「・・・勉強が一番遅れているクラスに入って・・・」

「入って?」

「同級生全員で勉強が一番出来るクラスに追い付く」

「だけ?」

「・・・追い抜く」

「んっふっふっー、ぜえーったいその方が面白そうだよね!」

指を一本立て天井を指差す。
オリハは反対だ。
だがハルの現在がそれを望むのなら。

「聞くだけ聞いてみるが・・・絶対そう出来るとは限らんぞ」

消極的ではあった。

「なんで?」

「な、何でと言ってもだな・・・」

反対だからとは言えない。

「だって学園で一番えらいのはお母さんなんだよねえ?」

目的の為には手段を問うな。
それを怠るのは強者の驕りである。
奇しくもオリハからの教えであった。

正しくoとrとzの体現者となったオリハは思う。
一番えらいのは我が子ではないだろうか?と。



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