赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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最終章

最終章-23 神の武器、本戦、決勝

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予選とは違い、一際立派な競技場コロシアム
円形状で見る側と見せる側を配慮した形になっている。
歓声が湧き起こり勝ち名乗りが搔き消える中、若い鎧姿の3人が通路へと退がった。
空気を欲するように面当てを跳ね上げ、そして沈黙を厭い声を出した。

「いやあ、強かったな」

残りの2人はそれに答えない。
不甲斐ない試合結果に声を出せないでいた。

「・・・何か言えよ」

男もその気持ちは分かっていたが、それ以上に沈黙が堪えた。
言い訳も聞かずに人を励ませる程の人生経験など持ち合わせていないからだ。

「・・・すまなかった」

「せめてオレ達で1人でも勝てて、いや、疲れさせていれば・・・」

始まる前から足が震え膝が笑っていた。
観衆という目の前で緊張から身体を固くしてしまった。

「・・・俺だって後がなくなって緊張どころじゃなくなっただけだ」

ただ大将にいたから。
本戦初戦、その先鋒だったら自分だって。
何も出来ないままに負けた先鋒を見て副将はより身を固くした。
2人が負けたのを見て、カストロはようやくそれが解けた。
ただそれだけの事だった。

「だ、だがっ・・・それでも・・・」

カストロは相手の先鋒と副将を破り大将戦までもつれ込ませた。
それにより失われた体力は戻らない。
そして初手の緊張により流出した体力も。

「強かったって言っただろ?万全でも結果は変わらなかったさ」

何回も言わせるな、そう言って兜をコツンと押すように殴った。
万全であれば押し勝てた。
万全であれば躊躇なく踏み込めた。
だが体力不足も実力の内。
不足していたのは自分の実力だとカストロは考えていた。

強いて挙げれば責任はオリハにある。

観衆の前で戦うという経験を積ませなかったのだから。
その頃、観戦していたオリハは臍を噛んでいた。
そこまでの考えに至らなかったと激しく後悔していた。
オリハの横にいた王都の学園長が慌ててフォローする。
本音が入り混じるその言葉に幾許かの落ち着きを取り戻す事が出来た。

高等部の騎士科に混じり、本戦に出場出来た事自体がそれを示した。
他の学園の高等部からの出場者はカストロ達以外にはいない。
武のみを求め研鑽してきた経験の開きは、初等部の比ではないのだから。

「本戦は初戦でもベスト16だろ?・・・な、胸を張ろう」

不甲斐なく思わない訳がない。
悔しくない訳がない。
この敗戦を糧にカストロは更なる研鑽を求め努める事になる。

「さあ、同輩達を応援しに行こう」

意欲的に学び、笑顔で反吐を吐くまで剣を振った遊んだ
その成果かカストロは卒業後、一足飛びに見習いとはいえ近衛に入団を果たす事になるのだが、それはまた別のお話。


他者から見れば番狂わせ。
ハル達は、いや、アルは順当に駒を進める。
疲労から支えとして剣を地に刺しながらも、胸を張り堂に入る姿を見せるのは王族としての覚悟と意地。
黄色い声援に手を振りながらも視線と微笑みはハルのみに向けられた。

控え室でも互いに口数は少ない。

聞く耳を持たないアルに、掛ける言葉をハルは思い至らなかった。
剣は刃を潰してはある。
急所は確かに鎧で守られてはいる。
来賓室にオリハもいるので、回復手段に心配はない。

それでも疲労は思わぬ怪我を生む。

握力のなくなった様子のアルを見る。
何かが起こるという確証がある訳ではない。
嫌な予感がする訳でもない。

それでも不意の事故が起こり得るなら負けても良い。
ただ無事に終わる事を、その笑顔が最後まで崩れないで、と祈る事しかハルには出来なかった。


その祈りの甲斐か、とうとう決勝の舞台までアルは勝ち続けた。
オスカーは調子良く「だんなぁ、後三戦ですぜぇ?」などとアルの肩を揉んでいる。
周りから見れば王族に群がる金魚の糞にしか見えないだろう。
当人もその気が満々であり、アルは苦笑いを浮かべている。

「腕」

「うん?」

察しの悪いアルの腕を掴み、籠手を外してマッサージを始める。

「・・・楽しみにしてるから」

「・・・ああ」

ここまで来て「もういい」など言える筈がない。
だったらやりたいようにやれば良い。
悲しめたい訳ではない。
苦しめたい訳ではない。
ハルとてアルに笑っていて欲しいから。
自分の胸が痛むとも、その笑顔を向けていて欲しいのだから。


少しばかりの休憩を挟み、アル達は競技場へと足を踏み入れる。
歓声が湧く。
黄色い声援が飛び交う。
その全ては当然アルに向けられている。
ここまで来れば、誰しもが見てみたく思う。
団体戦を予選からただ1人で勝ち抜き、そして優勝する様を。

オスカーは初志貫徹、負けるつもりではいるが、ここまで来れば応援したくもある。
それは友の勝利であり、そして友の恋でもあった。

ハルにすれば、ここに何をしに来たのか分からないとも言える。
完全に王子殿下のオマケでしかない。
もうそれで良い。
自分の出番なんてなくて良い。

「頑張ってねー!」

「オレまで回さないでくれよっ、と」

そう言いながら、それぞれがアルの背中を叩いて押した。
その痛みは疲れ果てた足を前へと踏み出させてくれる。

剣を握る腕はまだ重い。
足を上げる事すら億劫である。
だがそれを負ける言い訳にはしたくはない。

勝つ。

その心算で中央へと足を進めた。


コロシアムを騒めきが包む。
その喧騒はアルに向かってではない。
相手側の先鋒である。
ルール上、なんら問題ではない。

ただ大将が先鋒に変更になっただけなのだから。
ただその大将が初等部卒業後、鳴り物入りで騎士団への入隊が決まっていた、という猛者なだけなのだから。

変更した理由は明らかである。
アルというポイントゲッターを潰して、早々に決着をつけるつもりなのだ。
ここまで出番のない、ハル、オスカーをその位置に合う実力ではないとの判断からだ。
それに実力があるのであれば、王子殿下を先鋒のまま酷使し続ける理由はない。

常識に基づいた的確な判断といえる。

これはアルにとっては僥倖であった。

先鋒、副将と疲労を重ねてから実質の大将戦を行うよりは、失礼ではあるが奮戦して先鋒戦を収め、惰性で副将、大将戦を行う方が勝率は高まると思えた。

「始めっ!」

その合図でアルは駆け出す。
ただ約束を守る。
その為だけに。


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