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2 ハッグ
しおりを挟む森の中で大きな溜息をついた。
「・・・はあ、何と張り合いもない」
工作兵の前方に位置していた一団を蹴散らすと、そそくさと撤退を始めおった。
しかも資材を置いて。
「ヒードル、8番隊に資材を運び出す指示を出しておいてくれ、迷惑料だ、有り難く使わせてもらおう」
「畏まりました」
そう言うとニヤリと悪そうな笑みを浮かべた。
儂もその様な顔をしておるのだろう、と愉悦に浸ってしまう。
「フォルグは最後尾に追撃をかけろ!尻から嚙みつけっ!」
「了解っ・・・っ!将軍右方から敵兵です!」
言うが早く儂を目掛けて火の玉が飛んできた。
「構わぬっ!行けっ!」
その言葉に合わせて火の玉を槍で斬り裂いた。
口笛を器用に吹き帝国軍の尻目掛けて追撃を始めた。
「なっ!?き、切り裂いた?!」
魔法師団の伏兵か、魔法とは言え火ならば斬り裂けるのは当たり前だろうが?
・・・まあその顔を見るのは楽しみなのだがなっ!
「ぐがああおおぉぉぉぉっ!!!」
「「「ひぃっ!」」」
咆哮一つで腰を抜かし隊列を崩して逃げ惑う。
ああ、良い、スッキリとする。
「3番隊っ4番隊っ!そこを片しておけっ!・・・後の者は儂に続けっ!皆殺しだっ!!!」
「「「オーーっ!」」」
退屈な戦だがあれだけの資材があれば・・・まあ赤字にはなるまい。
それだけが救いだな。
そうして追撃部隊の後を追った。
「ハッグ将軍!伝令です」
「どうしたっ!」
「帝国の殿部隊にフォルグ隊が誘導されたようです!敵本隊と引き剥がされました」
ほう、あのフォルグが尻を噛み損なっただと?
・・・くっくっくっ面白いっ!
「ヒードル!2番隊と儂に続けっ!・・・残りの全軍は帝国本隊を追えっ!森の中までだっ!それ以上深追いはするなっ!よいなっ!!!」
「「「オーーっ!」」」
噛み甲斐があれば良いが・・・
そう愉悦を覚えながら追撃部隊の後を追った。
「将軍、楽しそうですね?」
そうヒードルが聞いてきた。
確かにいつもとは違う感覚を感じている。
「そうだな・・・何故か胸が踊るのだ」
儂は狩りで獲物を見つけた様な高揚感に心を躍らせた。
何せフォルグが釣られた相手だ。
不足はあるまい。
頬の肉が不自然に釣り上がっていた。
遠くに追撃部隊の炎の矢が見えた。
それを防御結界が防ぐのが見えた。
「ヒードル!撤退と追撃の手筈を伝令に出せっ!2番隊っ四方から囲え!巻き添えを喰らうなよ!」
指示を出した後、愛馬のランカスから降りた。
伝令を出したヒードルが此方を見て息を呑んだ。
・・・そういえば久方振りに使うな。
我がベアード家に代々伝わる極大魔法だ。
その名に相応しい量の魔力を練る。
戦も終劇だ、幕を降ろすには丁度良いだろう。
そう思い更に魔力を込めた。
遠目からも惨劇があった事がハッキリと解るように。
権限せよっ!我が化身っ!肉球落下っ!
天空に巨大な儂が現れる。
振り下ろす手に合わせて勢いよく落下を始める。
肉球と地上の間に巨大な防御結界が現れた。
接触と同時に魔力が犇めきあった。
儂受け止められた事に・・・何故か喜びを感じた。
不思議な感覚だった。
我が家の伝統魔法を受け止められたのに・・・
小癪とも何とも思えなかった。
そして・・・結界に罅が入った。
儂の心にも痛みと罅が入った。
寒気がした。
脂汗が流れた。
魔力が注がれ、儂から結界が強化されたのを感じる。
・・・安堵した。
安堵と同じくして恐怖を感じた。
失う、それを激しく認識した。
慌てて走った。
ランカスがいた事を忘れて走った。
ヒードルが危ないと止めた気がする。
だがそれを振り払った。
あの結界を張った者が儂の番だと心が教えてくれた。
母上を失った父上を誇らしく思った?
・・・嫌だっ!儂はっ、儂はこんな思いはしたくないっ!
そして・・・結界が砕け散った。
儂が自分の手でっ!儂が殺してしまうっ!
そう思うと涙が勝手に流れた。
だがもう落下を止める術はない。
落下した肉球から爆風が巻き起こる。
無我夢中で爆風に逆らい手を伸ばした。
何でも良いっ!
あの者を助けてくれっ!
その想いで魔力を迸らせた。
吹き飛ばされる事の無い巨体に感謝しながら一歩ずつ進んだ。
心が叫ぶ。
名も知らぬ番を求めて。
そして爆風が収まった。
今度は歩みの遅い巨体を恨みながら懸命に走った。
潜んでいた追撃部隊の者が見える。
「や、やめろっ」
その膝をついている人間に気がついた。
「は、離れろっ」
魔力を使い過ぎて息が上がる。
だがそれどころではない。
そこにいる。
確かにそこにいるのだ。
「や、やめぬかーっ!!!」
囲おうとする部隊を残り少ない魔力で威圧する。
儂は今どの様な顔をしているのだろうか。
だが威厳も要らない。
何も要らない。
ただその番が欲しい。
「そこを退けーっ!や、やめろっ!離れろーっ!それは!・・・その者は儂の番だーっ!」
狼人を払いのけて番を見た。
砕けた鎧を纏った番に駆け寄った。
糸の切れた様な番を抱きしめた。
「ああっ!フォルグっ!回復師をっ!ヒードルっ!回復師を呼べっ!だ、誰でも良いっ!回復師をっ!」
ただひたすらソレを叫び続けた・・・
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