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9 マリー
しおりを挟む・・・名前は?
・・・ローズマリー・ドラグノフだ
・・・年齢は?
・・・25歳
・・・所属は?
・・・ラフラン帝国第7魔法騎士団団長を務めている
・・・隊の主な役割は?
・・・平時は市井への広報と宣伝、所謂愛玩部隊だ、有事のさ「待て、誰が愛玩部隊だって?」
テンポ良い尋問の邪魔をしたのはコーザンだ。
これには私もヒードルも溜息を重ねた。
「・・・事実なのだから仕方ないだろ?」
この歳で[姫騎士]と呼ばれる辛さは解らないだろう。
街中を馬で闊歩しながら「姫騎士様~」と呼ばれて笑顔で手を振り返すんだぞ?
7年も!それを7年もやらされているんだっ!
私は永遠の姫かっ!
とは絶対に口に出せない。
コーザンが馬鹿にするのが目に見える。
あの日々を思い出すと遠い目になる。
「じゃあ何で帝国の他のどの隊よりも・・・面倒くさいんだよ」
敵国の部隊に面倒とは・・・称賛以外の何物でもない。
名も無く折れた剣ではない事に喜びを感じる。
[姫騎士]の墓標には充分な献花だ。
嬉しくない訳がない。
「はぁ・・・コーザン殿の部隊よりマシだ」
称賛には称賛で返した。
コーザンは満更でもない笑みを浮かべる。
天敵だった者への最後の礼として受け取った。
殿を付けたのは熊対策だ。
「・・・コーザンもういいですか?それで有事の際は?」
「ああ………」
そこからの尋問は恙無く続いた。
魔道具の効果で嘘はつけない。
だが黙秘はしなかった。
溢れ出る罪悪感がそれを止めなかった。
問う内容が個人の事から帝国内の事柄へと移る。
それでも私の口は止まらない。
私の齎らす情報が軍部に対して影響があっても、帝国民に対して影響はないと確信するからだ。
それはこの国が帝国に侵略を仕掛けた過去が無い事が証明してくれる。
だから私は語る。
獣人を蛮族と決めつけ正義をかざす軍部の事を。
戦争を望み渇望するのは軍部の独断と暴走によるものである事を。
何の成果もあげられず保身の為に愚行を繰り返す帝国の軍部の事を。
肥沃な土地を餌に戦争に賛成する貴族達の事を。
その事により税が引き上げられ、帝国民の不満が増してきている事を。
このまま行けば数年の内に間違いなく軍部は瓦解するだろう事を。
「瓦解した場合どうなると思います?」
「支配され属国として扱われた南と西の諸国が反乱を起こすだろう・・・今は和平を結んでる東のハルイット共和国も帝国が弱体化すれば黙ってはいないだろうな」
東の海に面した商業国家だ。
船を有し海外の諸国とも貿易を盛んに行なっている。
経済だけを見れば帝国よりも明らかに上だ。
「また戦乱が起こると・・・貴女が思う対策は?」
「・・・弱体化する前に軍部を潰して、帝国と和平を結ぶ、だな・・・少なくとも私の知る王族の者は戦争を望んではいなかった」
「判りました、流石[帝国の女狐]ですね、博識でらっしゃる」
それが王国での通り名か・・・だが[姫騎士]よりはマシだ。
名付けは間違いなくコーザンだろう。
今横でニヤっとしたからな。
「最後に・・・チューバッカ王国へ帰属、または隷属する意思はありますか?」
「・・・帰属はあり得ない、私には資格がない、だから隷属も望まない・・・だが隷属を命じられれば謹んで承る・・・これでいいか?」
「好きにしていいという事ですか・・・分かりました、王にはその旨で報告します」
「ああ、よろしく頼む」
漸く身に余る扱いを受けれる。
それで私には充分だ。
その思いが顔に浮かぶ。
その表情を訝しげに睨まれコーザンが悪態をついた。
「チッ・・・お前は戦場で殺してやりたかったよ」
「・・・何ならここで殺してくれても構わんさ」
これが一番の望みなのかも知れない。
未練を語れば・・・騎士の最高位でもある将軍になりたかった、かな。
「・・・ふざけんな」
「何がだ?」
「ふざけんなって言ってんだ!テメエは死ぬ事さえ許されないっ!ハッグ将軍の番だからなっ!」
「コーザン!やめろっ!」
そう言い私の胸倉を掴み上げた。
制するヒードルを遮って憤りをぶつけてくれる。
漸く私を断罪してくれる天敵に感謝する。
私が殺めた者の代弁をしてくれる。
揺らされる身体が痛みを叫ぶ。
痛みに込み上げそうになる涙すら心地よく感じる。
「・・・酷い罰だな、死ぬその時まであの目で見られろと?愛されて苦しめと言うのか?」
「違うっ!・・・お前が償うと言うなら・・・ハッグ将軍を幸せにしろっ!」
「・・・私が?」
「番のお前以外誰がいるってんだっ!」
何かがスッと胸に降りてきた気がした。
私が死んだとて何も変わらない。
それは分かっていた。
「・・・くっくっく・・・何だ?それでは私があの姫の王子になれと?・・・それで・・・それで少しでも報いれるのか?」
「・・・少なくとも・・・俺はそれを望む・・・」
「そうか・・・」
地響きと轟音を伴いドアが勢いよく開かれた。
私もコーザンもヒードルも思わず反応し身体をビクつかせる。
・・・身体を心地よくない痛みが走った。
「マリィーッ!今コーザンの怒鳴りご・・・きっ!貴様何をしている?!」
・・・おおっ!これが血塗れの灰色熊か。
放つ殺気が目に見えるようだ。
落ち着いていられるのは殺気が全てコーザンに向いているからだな。
私は腰を抜かす自信しかないぞ、これは。
「ち、違いますっ!ちょっ!ちょっと待ってください、ね、将軍」
慌てて私の胸倉を掴んだ手を離し後退りながら諸手を上げた。
「い、今いい事言ったんすよ、な、言ったよな!な!」
「儂のマリーにいい事?・・・久方振りに表で稽古でもするか?」
「意味が違うっ!め、名言、そう名言を言ったんすよ!な、ドラグノフッ!」
「・・・尻を噛まれたしな」
・・・ブチッ・・・
「て!てめえ、何をっ、ま、待って!は、離して下さい!将軍っ!ねぇ!話をっ!……………」
その後私は窓から幾度と宙を舞うコーザンをヒードルと眺めた。
申し訳ないとは微塵も思わない。
あの時は本当に尻が痛かったのだから。
名言とやらのお礼は善処するだけで充分だろう?
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