囚われた姫騎士は熊将軍に愛される

ウサギ卿

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12 ハッグ

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一階から三階までの僅かな間だがエスコートを願い出た。

「ああ、よろしく頼む」

そう快く了承してくれたマリーお姫様と階段を登る。

儂はゆっくりと登った。
手を引く儂がゆっくり登ればマリーも当然ゆっくり登る。
言葉にしなければならない想いがあった。
マリーだけに告白したい懺悔があった。

出掛かった懺悔が喉へ隠れる。
それを繰り返す。
儂は儂を男らしくないと叱責した。

一階の踊り場で「本当に良いのか?」と聞かれた。
だから儂は「マリーが良いのだ」そう答えた。

二階に着く頃に「私は女らしい身体はしていないぞ?」と問われた。
だから儂は「マリーが良いのだ」そう答えた。

二階の踊り場で漸く口から吐き出せた。

「マリー・・・儂は酷い男だ・・・先程の話を聞いて喜んでしまった」

「・・・ああ」

「マリーを存外に扱った者を八つ裂きにしてやりたいっ・・・確かにそう思うのだ」

「・・・ああ」

「だ、だがっ・・・マリーが裏切られっ酷い目にあったんだと喜んだのだっ」

「・・・そうか」

「マ、マリーが本も花も持たされずっ・・・剣を握ったお陰でっ!・・・誹られ尊厳を踏み躙られてもっ・・・石に齧りつき軍に残ったお陰でっ!・・・こ、子が出来ずっ心許した相手に裏切られたお陰でっ!」

「・・・そうだな」

三階の手前で脚を止め儂は懺悔を続けた。
マリーは嘘をつけない。
その状態で全てを告白してくれたのだ。
なら儂も・・・そうすべきだと思った。
悔しい、情けない、恥ずかしい。
その想いが涙に変わり足りない言葉を補ってくれた。

「だ、だがらっ・・・マリーは、儂が必ずっ・・・必ず幸ぜにっ!」

鉄球を下ろし置かれた手を両手で掴んだ。
・・・マリーは強い、決して泣かない。
今も儂の目を真っ直ぐに見てくる。
儂の方が「本当に良いのか?」と聞くべきなのだ。
儂の方が「男らしくないが良いのか?」と聞くべきなのだ。

「そうか・・・だったら泣くなっ!」

鬼気迫る表情で一喝され身体を震わされた。
その迫力に涙が引っ込んでしまった。
涙の止まった儂を見てうんうんと満足げに頷いた。
そして思案顔をした後に咳払いを一つ。

階段を一つ上がり身体を儂に向き直すと・・・お姫様が・・・王子様に変わった。

「・・・ああ、姫よ泣かないで・・・涙を零される価値など私には無いと言うのに・・・」

「っ!?」

儂の両の瞳から伝う涙の跡を指で拭う。
いつものキリッとした眉ではなく、慈しむような優しさを感じる八の字をしている。
憂いを帯び潤んだ瞳は、まるで傷ついた宝物を愛でる様に悲しむ様に静かに震える。

偶然にもその小説の姫の様に儂はその瞳の美しさに吸い込まれた。
何も言葉を発せずにただ見惚れた。
サファイアの様に瞬くマリーの瞳に。

「囚えられた私では、貴方の涙に報いる術がない・・・些末だが・・・目を、閉じて・・・」

儂は惜しんだ。
目の前の宝石を闇に閉ざす事を。
ただ近づくマリーの顔に自然と瞼を落とし受け入れた。
そして大きな儂の口に柔らかい・・・マリーの小さな唇が触れた。

その感触を忘れる事のない様に堪能し味わった。
そっと離れる寂しさに思わず目を開く。
写る宝石マリーに胸が高鳴る。

「さぁ行って・・・私の可愛い姫よ・・・」

その力強くも蜂蜜の様な甘い声に逆らえず頷く。
儂は促されるまま階段を降りた。
先程の感触を思い出す様にそっと指で口に触れながら。
ただ残念ながら儂の指では再現出来ずもどかしい思いをする。

儂は部屋ではなくまず書斎に向かい一冊の本を手に取ってから部屋に戻った。

か・・・可愛いと言われたっ!
姫と呼ばれたっ!
叫び出したい思いと本を胸にゴロゴロとベッドの上を転がった。

[百夜物語~囚われた王子と憂いの姫~]を胸に。

ある所に仲睦まじい隣国の王子で婚約者でもあった王子と姫がいた。
姫への横恋慕の末に近衛騎士団長が王家に反旗を翻す。
そして来訪していた王子を囚え姫に婚姻を迫った。
姫は王子の安全を条件にそれを涙ながら呑んだ。
侍女や周りの助けで1日数分程度の逢瀬を繰り返す王子と姫。
その百日間の物語だ。

儂は先程のやり取りが書かれた頁を捲った。
興奮さながらにその文に目を通す。
・・・相違点があるな。
・・・原文は「可愛い姫」ではなくて「愛しい姫」ではないか。
ん?と言う事は「可愛い」はマリーの自作なのだなっ?
と言う事は儂を本当に可愛いとっ!?

心の中で雄叫びを上げながらベッドの上をゴロゴロとして儂は眠れぬ夜を過ごした。


朝餉を済まし身支度を整える。
マリーとお揃いの深い紺色の軍服だ。
違いは勲章の数だが流石に仕方あるまい。
何?他の者も着ておる?
儂の目にはマリーしか写らんから問題ない。 

「では参ろうか」

そう言い儂は肘を開き促した。
尚、儂の目は前を向いておる。
マリーを見ながらこの様な振る舞いは出来ん。
横から堪えきれなかった笑い声が漏れ聞こえた。

「ふふっ・・・よろしくな」

マリーの鍛え上げられた腕が儂の腕に絡みつく。
今日はポニーテールに髪を結っていて、横を見るとうなじが目につく。
儂が鉄球を持てば良かったと後悔をする。
・・・両腕でしがみ付いてもらえばマリーの胸が儂の腕に当たったかも知れん。

屋敷から馬車の待つ門までの道を2人で歩いた。
腕を組みゆっくりと歩いた。
帝国の小説にあったバージンロードの様だな、そう思いながら。


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