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13 ハッグ
しおりを挟む王城に着くとマリーと引き離された。
わざわざ儂を迎えに来たのはヒードルとワングと3番隊隊長の虎人のトザだ。
トザの体躯は儂と変わらん程デカい。
儂が暴れた時の為と王が命じたらしい。
暴れる気は無いが・・・止められると思っておるのか?
マリーはコーザンが連れて行くと言う。
拒絶を試みたがマリーから「止めろ」と言われたので大人しくする。
コーザンは鉄球を軽々と持ち上げる様に「意味ないだろ」と呟いていた。
あれはマリーの美しさを引き立たせる飾りだからな。
トザがマリーへ獲物を狙う様な視線を投げかけておったので「儂の番だ、わかっておるな?」と威圧しておいた。
見惚れるのは分からんでもないがジロジロ見るのは許さん。
ヒードル曰く今回はマリーの謁見であって儂は王の横で待機せねばならんらしい。
何故かと問うと「そういうものなのです」と答えられた。
前に隷属の意味を聞いたら仕えるという意味だと教わった。
儂も同じだとは思うが他国の者だと仰々しくなるのだろうか?
隷属とは面倒な物だ。
ラグオス王の脇で待機させられている。
謁見と言ってもマリー1人では無い。
他にも陳情を訴える者もおる。
儂は早く終わらせて帰りたいとそわそわしておった。
ヒードルから執務が貯まっていると苦言を呈されたが知った事ではない。
「明日やる」と逃げるつもりだ。
マリーが何処にいるのか分からない。
ただそれだけでイライラとする。
何時もなら屋敷にいる。
だから気にはなるが問題はない。
色々と考えに耽ると思わず舌打ちをしてしまう。
その様子に陳情の者が身体を震わせた。
ニヤニヤとその様子を横目で見る王と王妃が目につく。
陳情の者を下がらせてから王が言った。
「おい、落ち着けハッグ」
むう、目が笑っておるのが分かる。
いや顔がもう笑っておる。
「・・・マリーはまだか?」
「本日一番の案件だからな・・・最後だ」
その一言にまた舌打ちをする。
他の雄にジロジロと見られてはおらんだろうか?
コーザンにまた何か言われておらんだろうか?
トザが粉を掛けておらんだろうか?
尻尾の毛が考えるだけでブワッと膨らんでしまう。
「・・・今まで番の事で悩んでた者を羨ましそうに見てたじゃないか?」
「ぐぬっ!」
た、確かにそう眺めておったが・・・
ワングが尻尾を垂れ下げた理由が身に染みて理解出来た。
・・・殴るのは勘弁してやろう。
「ククク、安心しろ、今日の謁見は早く終わるさ・・・お前のお陰でな」
よく分からんが王の言う通りサクサクと進んだ。
何故か涙目で帰っていく者もいた。
陳情が長くなると暇なのか王が儂を横目で煽ってきた。
お陰で謁見の最中はイライラしっぱなしだった。
「次っ!帝国軍所属、ローズマリー・ドラグノフ、入れ」
漸くマリーの出番が回って来た。
ジャラジャラと足枷の鎖の音を伴って入場して来る。
姿勢良く前を見据えて戸惑うような素振りは無い。
兜を抱える様に鉄球を持ち歩く姿は[王国の女熊]に相応しく思う。
・・・今の所そう呼んでおるのは儂だけだが。
謁見の間が騒めく。
視線がマリーに注がれるのを疎ましくも誇らしくも思う。
だが注目はマリーではなく鉄球のようだ。
・・・たかだか50㎏の鉄球であろうが?
儂はよく見ろと言いたい。
鉄球はあくまでマリーを引き立たせる添え物に過ぎん。
いや、駄目だやはり鉄球を見ておけ、でも、いや、そんな儂の心の葛藤を他所に、マリーが膝をついて鉄球を置きこうべを垂れた。
・・・美しいと思った。
その所作は絵物語の騎士を思わされた。
そう思ったのは・・・多分儂だけではなかったのだろう。
謁見の間の時が止まったのだから。
ラグオス王の咳払いで時が動き出した。
宰相殿が慌てて口上を述べる。
その間も身動ぐ事もなくマリーはこうべを垂れ続けた。
「……処遇に関しては望む事柄も無く一任するとある・・・相違ないか?」
「・・・相違御座いません」
マリーは丁寧でありながらも澄み通る音を出した。
まるで細い一本の糸を張り指で弾いた様なその音は、見惚れていた儂にさえ緊張を押し付けた。
「・・・面を上げろ」
「はっ・・・」
ラグオス王の偉そうな物言いにイラッとする。
「一任するとあるが、それは放逐だろうが兵役だろうが・・・兵の慰み物になろうが、死罪であろうと受け入れると言う事か?」
そしてその言葉に思わず儂は牙を剥いた。
だがラグオス王が手で制し、マリーの視線がその先を許さなかった。
「その通りです」
「では戦場に立たせ帝国に弓を引けと命じたら如何する?」
「その命に従い、この魂尽きる時まで殉じましょう」
「口だけなら何とでも言えるな」
思う事も許されずマリーが儂を目で叱った。
・・・耳が垂れ下がる。
「・・・御意に御座います」
「ではその証を如何に立てる?」
「不束ながら・・・奉れる証は騎士の誓いによる誓約しか思い至りません」
「・・・誰に何を誓う?」
「お望みとあらば・・・チューバッカ王国とその国民全てに忠誠ではなく隷属を誓いましょう」
「その意味を・・・判っているのか?」
「御意に・・・」
国と国民に仕えると誓うだけだろう?
偉く大業に聞こえるが・・・
宰相殿がラグオス王から向けられた視線に大きく頷いた。
「そんな事をさせると私がハッグに殺されてしまうな・・・ククク」
そう言うと肩を竦めて笑った。
どんな事だというのだ?・・・後でマリーに聞かねば。
「ご安心下さい、私が盾となりましょう」
「・・・っ!」
「やめてくれ、ハッグの目が本当に怖いから」
おっといかん、マリーの笑顔が王に向けられたので思わず殺気が。
「では沙汰を下す・・・ローズマリー・ドラグノフは本日を持ってここに居るハッグの番となり、ローズマリー・ベアード侯爵夫人としてこの国を盛り立てる事を命じる」
「なっ!?」
「謹んでお受け致します」
「はっ?!」
「ハッグ、黙れ」
「ま、待て、どう言う事だ?」
「仕方あるまい、我が国には仮番の法はあっても人間の様な婚姻、番の法はないだろうが」
た、確かに番はあらゆる事柄において優先される不文律がある程度だ。
本能である以上明文化出来ないのだ。
「公的に文章としてローズマリーをハッグの番として認定した、と言う事だ・・・意味分かるか?」
「わ、わからんっ!」
「国王陛下、発言をお許し下さい」
「あー、もっと緩くていいぞ?ローズマリー・・・許す」
「ありがとう御座います・・・今日からハッグ殿が私の番という事だ、よろしく頼むぞ」
ん?ま、待て、まだ「愛している」と言われておらんのに番なのか?
番という事は儂の物で・・・
だが「愛している」とは言われておらんが?・・・
「・・・ローズマリー、後でハッグに説明しておいてくれ」
「御意に」
「あともう少し緩くて良いぞ、敬ってくれる者はいるが、そこまでの礼節を尽くす様な者はこの国にはいないんだ」
「では、私が初めての者とお思い下さい・・・性分ですので」
「わ、分かった・・・参謀の者より軍や戦に関する深い知識を有すると聞いた、帝国より接収した使い道の解らない魔道具や、我が王国の軍部の事なども協力を頼みたい、構わないか?」
「失礼ながら・・・お命じ頂ければこのローズマリー・ベアード、身命を賭してお役に立って見せましょう」
「・・・っ!」
「も、もう少し緩くならないか?ハッグの目が本当に怖いんだ」
「お諦め下さい、陛下・・・ハッグ殿?先程ヒードル殿から執務が貯まっていると聞いたが?」
「い、いやアレは明日にでも片そうかと・・・」
「・・・臣下たる者が義務を怠るのか?」
「や、やる、し、しかと終わらせるっ!」
「もう敷物になっているな・・・」
「マリーの敷物になら喜んでなるぞ?」
「本当になりそうだな・・・まあいい、ハッグ、番と仲良くやれよ」
「・・・ああ」
よく解らんが正式にマリーが番になった事だけは分かった。
・・・さて・・・誓いはどうすれば良いか・・・
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