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14 マリー
しおりを挟むこうなる事は予想していた。
番・・・嫁になる事を命令されるだろうと。
それは王国に来てからの話と本を読んで推察出来た。
その事に異論は無い。
本来ならば捕虜になり奴隷になる身だ。
・・・コーザンから姫を頼まれたしな。
ただ私は心の拠り所が欲しかった。
「陛下・・・お願いしたい儀がございます」
「あ、ああ、何だ?」
「・・・この足枷の魔道具はこのままでお願い致します」
「・・・その意味は・・・分かっているだろうが、コイツは全く解ってないぞ?」
そう言い熊を親指で指した。
疑問符が頭の上に浮かんでいるように見える。
少しづつ教育するしかないだろう。
どうも周りから甘やかされ過ぎている気がする。
「私は・・・足枷があるからここに居られるのです」
足枷が無くとも責任は果たしたいと思う。
ただ心は脆く移ろうモノだ。
もしかしたら罪悪感に苛まれ心が折れるかも知れない。
だから逃げ道を残したくなかった。
それに時期だけを見れば婚約指輪ならぬ婚約足枷だ。
おかしな事を言っている自覚はある。
それだけ私が身につけた数少ない装飾品の一つだ。
「その件は好きにして構わない、外したければいつでも言ってくれ」
「ご厚情感謝致します、陛下」
「う、うむ、この後は予定はあるか?魔道具部門の責任者からも責付かれていてな」
「待てマリーは「ハッグ殿は執務が有るようですので帰るまで時間は充分にあります」
飴もいるだろうと笑顔を向けておいた。
構ってやらないとそろそろ拗ねそうだからな。
「・・・ああ、全部終わらせてやろうっ!」
親指を立て器用にウインクして歯を輝かせてみせた。
ヒードルが早くても一週間は掛かると言っていた量なので楽しみにしておこう。
仕事が貯まっていたのは恐らく私の所為なのもある。
明日から共に登城すれば熊も職務を務めざるを得ない筈だ。
宰相殿が魔道具の責任者を紹介するので謁見の間の外で待つように、と言われた。
退出前に王妃様から茶会のお誘いを賜った。
ドレスが無い旨を告げると「その格好で良いわ」と満面の笑顔で言われる。
相変わらず私に断る権利はない。
熊はヒードルに連行されて行った。
手を振りながら「全部終わったら迎えに来てくれ」と笑顔で伝えたので向こうから来る事はないだろう。
そのあと宰相殿から紹介されたのが鼠人のジェリーだ。
魔道具関連の責任者でヨレヨレの髭が凄腕の職人らしき気配を醸し出している、ような気がする。
謁見の間に向かう途中で予想通りの視線を向けられた。
熊を迎えに来た虎人などは隠す気もなく顕著であったが、ジェリーは気にする事なく私の手を取り工房へと引っ張った。
まあ引っ張られて上げたというか、促す方に歩いたというかエスコートには程遠かった。
慌てて鉄球を拾い宰相殿に一礼をした。
やはり職人気質なのだろう。
工房へ着いた途端、挨拶の間もなく帝国の魔道具の説明を求められた。
土を柔らかくする工作兵用の[土竜]や魔法の効果を低下させる結界を張る[軽減結界器]や[隷属の首輪]などの使い方などを説明した。
後は火を起こす魔道具、水を出す魔道具などの簡単な物や・・・殿方が独りでよく使う魔道具などの説明をした。
気を使って遠回しに説明をしたが首を傾げられたので、ハッキリと説明すると何故か私が怒られた。
生娘でもあるまいし恥らうような年ではない。
私の足首についているのは[咎人の足枷]と言い開発したのがこのジェリーだそうだ。
ついでに回復魔法だけで良いので使える様にならないかと聞いてみた。
何かしら役に立てたらという思いからだ。
今は無理だが、面白そうだと今後の研究課題にしてくれるそうだ。
私の魔道具の知識はほぼ独学で、魔道具の魔力回路などにも造詣が有りジェリーの話にも何とかついていけた。
学んだ理由は戦場で魔道具が壊れた時の為だ。
私の行動原理の殆どは戦場に関係している。
「ベアード侯爵夫人、迎えに上がりました」
後ろからヒードルが声を掛けてきた。
熊はいないのでやはり終わっていないようだ。
「やめてくれ、ローズマリーで良い・・・ああもうこんな時間か」
私も会話に熱中していたのか、時刻はもう夕刻を指していた。
「ジェリー殿、楽しい時間を過ごせた、ありがとう」
そう言い手を差し出した。
「また顔を出してくれ」と手を握り返してくれた。
笑顔であった事から気に入ってもらえたのだと思う。。
「あのジェリーが笑顔とは珍しい事もありますね」
と歩きながらヒードルが教えてくれた。
年はもう60近いそうだ。
魔道具と番にしか興味がない頑固者だと言う。
やはりヨレヨレの髭は匠の職人の証だった。
詰所へ向かう途中に私に向けられる視線は2種類あった。
一つは敵愾心溢れる物だ。
ヒードルがその視線に丁寧に咳払いをしていくので「キリがないぞ、やめておけ」と思わず笑ってしまった。
「何かあったらどうするんです」
「生きていたらハッグ殿からその者を守る盾になるさ」
そう言った私にヒードルが視線を強めた。
前にコーザンに言った「何なら殺してくれても構わんさ」とは意味が違う事にヒードルなら気がつくだろう。
私は教える気なのだ。
白と黒しか知らない純粋な熊に。
熊の毛のような灰色がある事を。
黒の中にもっと濃い黒がある事を。
気持ちは分からないでもない。
ヒードルもコーザンも他の者も熊を慕っているのだ。
純粋な熊に純粋なままでいて欲しいという気持ちも。
そういう面は私とて好ましく思う。
昨日の夜、鼻水と涙を出しながら血を吐き出すようにされた懺悔と告白を・・・私は嬉しく思った。
自分の汚い部分を晒してくれる姿は美しいとも思える。
だがそれとこれとは別の話だ。
だからこれは私のエゴだ。
私がなれなかった、思い描いた将軍にハッグになって欲しいと思うのは。
上に立つ者は慕われるだけでは駄目だ。
当然大事な要素ではある。
だが私は熊に本当の悪意を嗅ぎ分ける強さを持って欲しいのだ。
それがこの国への国民への私なりの贖罪の形だ。
「・・・程々にお願いしますね」
溜息交じりにそう言うヒードルに返事は出来ない。
何せ嘘はつけないからな。
もう一つの視線は私ではなく鉄球に注がれる。
あまりにも目を見開くので、お手玉の様に投げて見せると更に目が大きくなった。
たかだか50㎏程度の鉄球なのだがな。
ヒードルが物言う目でそれを見ていたので鉄球を持たせてみた。
両腕をプルプルとさせて「む、無理ですっ!」と泣き言を言った。
片手で受け取った私に「私より細い腕でどうなっているんですか?」と聞かれたが「脱いだら凄い」とはさすがに言えない。
「鍛錬の成果だ」そう答えるに留めた。
「あ、あとローズマリーにお願いがあります」
そう酷使した腕を振りながら申し訳なさげに言う。
「蜜月休暇なのですが・・・職務が落ち着いてからお願いしたいのです」
蜜月・・・ああ、この国の小説に載ってたな。
番となった雄と雌が数日篭って盛るやつだ。
執務が貯まっている以上は休ませる気はないのだが・・・
「ハッグ殿が何か言っていたのか?」
「それが何も言わないので・・・」
・・・てっきり今日から盛られると思っていたが忘れているのだろうか?
「もし勝手に休むようなら無理やりでも引きずってくる」
「すいませんがお願いします」
そう詰所の中を歩く。
そこに一際目立つ扉がある。
恐らくそこに熊がいるのだろう。
そして思わず含み笑いをしてしまう。
第一声を熊が何と言うのかを考えて。
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