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15 マリー
しおりを挟むヒードルが扉をノックすると中から蚊のなく様な声で入室を促された。
遠慮なく開かれた扉の向こうに半泣きの熊がいる。
山積みの書類の隙間に小高い頭が見えた。
よくもこれだけ貯めたものだと感心する。
これが終わるまで蜜月休暇とやらはお預けだな。
「マ、マリー、も、もうすぐだ、直ぐに終わらせてみせるっ!」
・・・終わったのは1/10程だろうか?
傍に置かれた小山が決済済みだろう。
積まれた山の束を掴みペラペラと目を通した。
・・・効率が悪い理由はこれだ。
優先順位も類別もせず片っ端から処理しているからだ。
「はぁ・・・ヒードル殿、ハッグ殿と2人で暫くここにいて良いか?」
「・・・良いのですか?」
「ああ、いつも悪いな」
「ありがとうございます」
一礼してヒードルが退席した。
取り敢えず一山抱えて別のテーブルに移した。
「・・・マリー?」
熊なりに集中していたのだろう。
目の前から山が消えて漸く気がついたようだ。
「取り敢えず決済出来る物だけ終わらせてくれ、私が類別しておくから」
「・・・すまない」
返事はしなかった。
明らかに「構わない」とは言えない量だ。
だが仕方ない、番なのだから連帯責任だ。
備品に関わる物、人員に関わる物、警護に関わる物……目を通して山を分類していく。
それらに関する確認事項をメモしていく。
緊急性の高い物はメモをはみ出す様に貼った。
書類というのは帝国も王国も変わらん物だな。
日付が私が囚われた頃の物もある。
どれだけ熊は私の為に時間を費やしたのだろうか?
それを考えると思わず笑みが漏れた。
「いや、大丈夫だ・・・っ・・・面白くなっただけだ」
熊が申し訳なさそうに見る姿にそう返した。
「何でもない」は口から出なかった。
わたしの足枷は優秀で困る。
これが夫婦初の共同作業か。
この様なケーキカットも趣きがある。
そんな事を書類を分類しメモを走らせながら思った。
・・・共にする初の苦労としては少し多いが。
最初の結婚も二度目の結婚も命令から始まった。
だが熊から望まれて嫁ぐのだ。
最初の政略結婚とは全く異なる。
良い嫁にはなれないかも知れない。
子も出来るか分からない。
だが良い相方にはなってやろう。
幸せにしてやらねばならんからな・・・それが二つ目の贖罪の形だ。
そうして私は新しい山に取り掛かった。
作業中に先程のヒードルとの会話を思い出した。
王国の小説を読んでいても蜜月休暇という仕組みから考えても、番の本能として盛るのは当たり前の筈だ。
因みに雄と雌とでは番としての本能に差があるらしい。
雄は独占欲と言うか支配欲のような物が読み取れる。
この国に雄しか兵士がいないのもその為のようだ。
もし番の雌が戦場にいるだけで雄は狂いそうになるらしい。
・・・熊もそういう所は多々見られるしな。
雌は雄ほどの独占欲はないようだ。
無い訳ではないが雄がああなので本能が薄れているのかも知れない。
ただ番の雄への欲求は若いほど高まるらしい。
これはリズから聞いたので多分間違い無いと思う。
「私の若い頃は」と顔を赤めるリズは可愛かった。
尚、ウリナはまだ番が見つかっていないので欲求は無いらしい。
そうなるとうちの熊だが・・・
独占欲はあるが・・・支配欲はあるのだろうか?
何せ私が姫扱いしても喜んでいるのだから。
そういう意味では私が支配していると言っても過言ではないだろう。
・・・やはり私が女扱いされていないのだろうか?
自分で言うのも恥ずかしいが[姫騎士]と呼ばれる見目くらいは辛うじてあると思うんだが・・・
あと思い当たるのは・・・恐らく熊が未経験だからだろうか?
年齢的に拗らせているのかも知れない。
どうしたものかと考えながら新しい山に手を伸ばした。
まあ悩んでも仕方ない。
分類をしながら聞いてみる事にした。
「ハッグ殿聞きたい事があるんだが」
「どうした?おかしな書類でもあったか?」
「いや・・・もしや今まで経験がなくて悩んでいるのかと思ってな」
「経験?何のだ?」
「夜に致す事だ」
「ぶふっ!なっ?なっ?」
・・・間違いなさそうだ。
耳まで真っ赤になっている。
「そ、その件なんだが・・・オ、オホン・・・マリー、少しだけ聞いてもらって良いか?」
「ああ、構わない」
真面目な熊の顔なので手を止めた。
「確かに番と認められたが・・・儂はマリーにそう認められたいのだ」
「私にか?」
「そうだ・・・マリーから愛していると言われるまで・・・待つつもりだ」
「・・・それで本当に良いのか?」
「ああ、大丈夫だ」
「私は今日辺りと思っていたが良いのか?」
「っ!?・・・だ、大丈夫だ」
「わかった・・・ならしっかりと働いて私に格好良い所を見せてくれ」
熊なりに真剣に私の事を考えていたのか。
まだその気持ちに応えられない代わりに笑顔で返した。
「あ、ああ・・・今日はすまん、ありがとう」
「ああ・・・私こそ、な」
相槌の後は小さく呟いた。
熊は礼を言われたい訳ではない。
たが大事に思われて嬉しくない訳がない。
だから聞こえない様に小さく同意を返した。
メモを書きながら執務に取り組む熊を見た。
手を止め聞きたいだろう声を出してみる。
「・・・っ」
頬にパンッと気合いを入れて手を動かす事を再開した。
こればっかりは情ではどうにもならない。
熊に頑張ってもらうしかないのだから。
最後の山の類別が済み「ふぅ」と一息吐いた。
終わらせた、その充実感が心に満ちる。
そして頭にやらかした記憶がよぎった。
「・・・しまった!」
「ど、どうしたマリー?!」
「すまない、メモを全部帝国の文字で書いてしまった」
「あ、ああそれなら大丈夫だ、儂は読めるし問題はない、ありがとう」
「そ、そうだ分類も終わったし説明しておこう・・・取り敢えず明日朝一でこの用紙の現場と内容を確認してくれ」
「・・・うむ、分かった」
「この並べてある順番に処理をして………」
「このメモ書きは?」
「ああ、それは………」
そして説明を終えてからこの日は詰所を後にする事にした。
何せとっくに日は落ちている。
御者も待たせたままだからだ。
それにしても・・・
文字に関しては手伝おうと決めた時に真っ先に浮かんだ注意事項だったのだが・・・
らしくない失敗の理由を思い返してみる。
・・・浮かれていたのか・・・
たっ、たかが二度目の結婚で揺れるとは情け無いっ!
帝国に居た頃、食堂で共に働く若夫婦を見て「いいな」と確かに憧れたがっ!
・・・私にも少しは乙女らしい所があったのか。
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