囚われた姫騎士は熊将軍に愛される

ウサギ卿

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16 マリー

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日も暮れ家々の灯りが少しづつ消えていく。
かなり遅くなってしまった。
待たせた御者に謝ってから馬車に乗り込み熊と屋敷に戻った。
車中で謁見の間での事で熊から質問があった。

「何故国に仕える話があの様に大業なんだ?」

と訳の分からない事を言い出した。
話を聞くと隷属の意味から違っていた。
恐らく教えたのはヒードル辺りだろうか?
考えてみると番が隷属化するなど熊が許すはずが無いか。

私は灰色を教えるのに丁度良いと判断した。
なので奴隷の概要から教える。
・・・理解出来ないと難しい顔をしている。
何故そんな事をするのか理解出来ないと。
売買の対象と言葉にした時は私が怖くなった。

そして次に騎士の誓いの説明をした。
魔法による誓約で国や国民に対して騎士道を誓う物だ。
「魔法による誓約」が付かなければ熊も知っていた。
何せ恋愛小説が趣味な熊だからな。

「魔法で誓約を掛ける事で、騎士道を外れる様な行為をすると場合によっては命まで失うという物だ」

「マ、マリーは?受けておらんのか?」

愛玩部隊マスコットらしく民衆の前でそれらしい事をやらされただけだ・・・女の私は認められなかったんだ」

「相変わらず碌でもないな・・・だが良かった」

「今となっては良かったかも知れんな・・・それで最後に騎士道の代わりに奴隷となる誓約を願い出た」

「・・・それは魔法でか?」

「当然だ、だがこれはどうしても「どう言う事だっ!?」

その怒号で辺りの空気が変わった。
熊からの重圧で息が詰まる。

「ま、待「何故儂がそれを聞かされておらんのだっ!?」

・・・これは参ったな・・・殺気が私にまで向いている・・・灰色の話しでも早かったか?

「儂が何も知らずその儀を執り行われていたらどうするつもりだったと聞いておるのだっ!」

御者の者すまんな・・・巻き込んだ。
馬も嘶いて動きを止めている。
・・・私の膝も・・・震えが止まらん。

「それにっ!・・・国王はっ!アイツは何を考えておるっ!」

・・・自惚れていたか?
血塗られた灰色熊ブラッディグリズリーの殺気が私には向けられないと。

大丈夫だ・・・熊は頭は悪い訳じゃない。
しっかりと教えれば理解してくれる。

「と、取り敢えず落ち着け・・・そこまで言う必要が私にも陛下にもあったんだ」

・・・本当に喰われそうだ。
喉元に牙が食い込んでいる気さえしてくる。
私に殺気を向けているというより・・・これは四散しているのか?

「ハッグ殿・・・私はという立場だ、分かるか?」

「知らんっ!!!」

キレてまともに聞く気もないか・・・どうしたものか。
このまま家々が立ち並ぶ道すがらで殺気を放たれては迷惑だ。
私はから力づくで止める手段はない。

・・・覚悟を決めるか・・・

「ふぅ・・・もう一度言うぞ!・・・私の話を落ち着いて最後まで聞けっ!」

震える膝を押さえつけ何とか立ち上がり、倒れる様に前にいた熊の膝の上に腰を下ろした。

「なにをっ?・・・ガっ?!」

慌てて口を開けた所に私の腕を突っ込んだ。
少し牙に引っ掛けたが気にする余裕は無い。
その形のまま腰掛けた膝の上に跨った。
突き押せば外されるが・・・それはしないだろう。

「頼む・・・頼むから落ち着いて最後まで聞け、良いか?」

戸惑いからか殺気が僅かに薄れた。
まさか夫婦になった日に・・・夫婦喧嘩まで堪能出来るとはな。
牙が私の腕に刺さらないよう気をつけながら熊は大きく顎を開き小さく頷いた。

・・・良い子だ。

「戦争とはいえ人間は獣人を殺した・・・お互い様だとはいえ確かに殺した・・・ここまではいいな?」

小さくコクコクと頷いた。

「その者にも番がいた、そして子供もいた・・・分かるな?」

同じ様に頷いた。
漸く殺気が完全に消え去った。
安堵から息を吐き出した。
額から嫌な汗が流れ落ちた。
強靭な顎から腕を外すと熊の唾液が糸を引いた。
汚いとは思わない・・・この身はもう熊の物だ。

「その番から見て人間の私はどう映る?そしてその子が親を殺した私を見てどう思う?」

「・・・憎む・・・殺したいと?」

「そうだ、その通りだ・・・ではその者達に私が生きて行くことを納得させるにはどうしたら良い?」

「・・・」

「親の仇と私を付け狙う子供を殺すか?」

「・・・駄目だ」

「では考えてくれ・・・私を殺したい者に何をしたら生きる事を許してもらえる?」

「・・・」

「ハッグ殿・・・もう解っているんだろう?」

「・・・」

「謁見の間で示したのは・・・私が死ぬより酷い目に合っても頭を下げ続けるという覚悟だ・・・そして陛下はその覚悟を文書に残す事で証明してくれた」

「・・・それは・・・儂のせいなのか?」

熊が強く私の肩を掴んだ。
無知故に苦しめた事を理解したのだろう。
だから正直に伝える。
私は・・・嘘がつけないからな。

「違う」

「儂が・・・儂がマリーを番だと生かしたからかっ?!」

私は首を横に振った。
そして否定する為に精一杯の笑顔を向けた。
熊がくれたマリーゴールドの様に明るく慎ましく。

「そうじゃない・・・私はそれを受け入れたんだ・・・の番になる事をな」

「っ!?」

そう・・・拒絶は出来たんだ。
嫌だと言い続ければ良かったんだ。
くっ殺せ!と泣き喚けばよかったんだ。

「だから・・・生きて償う事を選んだんだ」

「っ!そ、それではマリーがっ!」

その通りだ、私は死ぬまで苦しまなくてはならない。
どの様な目に遭おうとも、誹り罵られようとも生き続ける事を選んだんだ。

「それでも・・・ハッグが必ず幸せにしてくれるんだろう?」

「っ!?」

「何だしてくれないのか?」

「するっ!必ず幸せにしてみせるっ!」

「そうか頼むぞ・・・期待しているからな」

熊が私の背とにそっと腕を回した。
目は潤んでいるが泣く事も鼻を啜る事もない。
雄の真剣な貌が私を見つめる。
雌をただ貪る雄ではなく。
それは護る雄の貌だ。

「儂は浅慮だ・・・」

「そうだな」

「知識も無い・・・機微にも疎い・・・」

「ああ」

「儂は・・・マリーのように強くなりたい」

「っ!?」

それは完全な不意打ちだった。
上質なオニキスを思わせる瞳が私を囚えた。
私より強いが私を認めた。
その猛々しい爪で私の琴線を掻き鳴らした。

「だから・・・教えてくれ」

期待する言葉を出さないでくれと心が叫ぶ。
期待する言葉に身が震える。

「儂がなってみせる・・・マリーがなりたいと思い描いた将軍に・・・」

・・・これがツガイなのか?
勝手に託した願いを・・・私の贖罪すら奪うのか?
頬を心からの涙が一筋伝う。

「・・・ずるいだろう・・・それは」

震える声で熊を罵倒した。
私から・・・鉄球すら奪うつもりじゃないのか?
もう、縋るしか・・・ないじゃないか。

「・・・マリー・・・」

大きなオニキスが私を映した。
その私は優しく微笑んでいた。
心の重荷を手助けした熊に感謝の笑みを浮かべて。

そして微笑んだ私が姿を消した。
だから私も瞼を閉じた。
あの夜のように優しく唇が触れ合う。
だが頼り無さを感じる。
縋った心が物足りなさを訴えた。

唇が感触を失い思わず目を開けた。
そこにいた優しげな熊に苦情を訴えた。

「言っておくが・・・私は厳しいぞ?」

「ああ・・・徹底的に扱いてくれ」

そして今度は強く・・・激しく抱きしめられた。
大きな口が私を求めた。
大きな舌が口の中を暴れた。
雄々しく頼り甲斐のある雄に私は大人しく身を預けた・・・


私と熊の長い口付けはまだ終わらない。
侯爵家の侍従は御者まで優秀らしい。
横目で見て屋敷を何周したのかもう分からなくなった。

素知らぬ顔をすれば良いのか・・・
お礼を言った方が良いのか・・・


・・・降りた時に考えよう。


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