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26 モノローグ [転機]
しおりを挟むこれはプロローグへ至る物語。
一途な姫騎士と純粋な熊将軍の出会いと愛の物語。
・・・そして別れへと繋がる物語。
3月に入り帝国に出兵の動きがあった。
宣戦布告の書簡もなかった。
だがマリーの推測も有り王国は迅速に迎撃の準備を整えてみせた。
マリーは出立を屋敷から見送った。
軍への同行をするつもりはない。
王城にて国王らと伝令を待つ事にした。
ハッグは帝国軍を前に横に陣を引いた。
そして中央に本陣を構えた。
相手の陣に合わせて左右に副将を配置した。
一列目に重騎兵3番隊、二列目にハッグ率いる1番隊を。
ヒードルにも異論は無かった。
そう、何ら問題はなかった。
王城に伝令が届いた。
その書簡にラグオス王は眉を顰めた。
「・・・ローズマリー、これをどう読む?」
そう言って書簡をマリーに手渡した。
宰相や近衛隊長を超えて。
恐らくその文から唯一現状を把握出来る人物として。
「・・・あ・・・あの馬鹿者共がっ!!!」
そう怒りに震え意図せず受け取った書簡を握り潰した。
その書簡には二つの情報が記載されていた。
3番隊半壊とその原因が死兵による爆発を伴った玉砕だと。
帝国にも非人道的だと禁忌にされた魔道具はある。
それは軍により開発され、王により禁忌とされた。
心の臓に埋め込み所有者の生命停止に合わせて全魔力を吸収し爆発を起こす[生命喰らい]と呼ばれる代物だ。
既に研究も開発も行われていなかった。
マリーとて独学で学んだ際に存在を知った程度だ。
現物が廃棄されていなかったのか、新しく作ったのかは分からない。
ただ[生命喰らい]が使用された事をマリーは確信した。
マリーはハッグとヒードルには最悪を伝えていた。
それは[隷属の首輪]による死兵と玉砕だ。
ただ意思なき人形の為、冷静に対処すれば問題はないと。
それ以上の災厄だ。
「おい嬢ちゃん!」
その声はマリーの耳に届かなかった。
「おいっ!嬢ちゃん!」
横でジェリーが何度も叫ぶ声は聞こえなかった。
怒りと恐怖が脳を覆っていた。
戦場を頭に浮かべ震えていた。
そして愛する者の死を。
「すぅ・・・マリー!」
その呼び名に身を震わせたまま現実に引き戻された。
握った書簡は既にジェリーの手にあった。
「落ち着けっ!まずそれが何なのか話せっ!魔道具ならわしが何とでもしてやるっ!」
「あっ・・・っ!」
「任せろ、な、嬢ちゃん・・・わしを誰だと思ってんだ?」
マリーは大きく深呼吸をした。
両手で自分の頬を叩いた。
弱くなった心を叩いた。
そして姫騎士を叩き起こした。
マリーは説明する。
[生命喰らい]の事を。
逃げれば死ぬと脅されているだろう事を。
戦い生き残れば外してやると糸の希望を垂らされているだろう事を。
「全魔力の消費・・・消費するって事は爆発の仕組みは魔法と変わらんのじゃないか?」
「・・・それなら[咎人の足枷]で封印出来るのでは?]
そのラグオスの案にマリーは首を横に振った。
「間違いなく・・・信用され無いと思います、蛮族だと信じていますから・・・それに新しい物であれば遠隔操作出来ないとは限りません」
「嬢ちゃん![軽減結界器]だ、阻害する効果を強めればいいんだろ?」
「っ!出来るのか?」
人差し指を立てチッチッチッと振った。
「わしを誰だと思ってんだ?よし、行くぞ嬢ちゃん、手伝え」
「ああ!・・・陛下、失礼致します!」
「ジェリー!マリーも頼んだ、数が確保出来次第戦場へ送る!」
「はい、身命を賭して!」
そうして工房へ急いだ。
鉄球片手にジェリーも担いで。
理論は構築してあったのだろう。
改良は直ぐに済まされた。
接収した分の改造と開発を技師全員で取り組んだ。
そうして第1便を戦場へ送り届ける頃、新たな伝令が届く。
被害拡大、全軍撤退、ハッグ将軍行方不明と。
その事は直ぐにマリーに知らされた。
「・・・そうか」
ただその一言だけだった。
王に戦場へ出向く直談判すらなかった。
ひたすらに手を動かした。
(あの熊が死ぬはずがない)
それだけを思い体を動かしていた。
そして2便を送り出した翌日には、ヒードルが将軍代行として戦線を振り出しに戻した。
ここまで5日の攻防であった。
そして6日目、帝国より人質交換の書簡が届いた。
ハッグ将軍の身柄と引き換えに金や食糧品、魔石から魔道具に至るまで。
そして肥沃な土地と。
これによりラグオス王は安堵する。
ハッグが生きていたと。
だがマリーだけは首を横に振った。
間違いなく[隷属の首輪]を付けられているだろうと。
恐らくハッグの肉球落下での玉砕目的だと。
「ではっ!ではどうするというんだ!ハッグを見殺しにしろと?!」
「いえ・・・紙とペンを」
そうしてサラサラと書いた紙をラグオスに手渡した。
「それが私の帝国での爵位です・・・人質と人質を交換すれば良いのです」
「な、ならん!お前はもう我が国民だ!それは・・・それはハッグも許さないっ」
「陛下・・・ハッグは私の姫なのです」
「・・・姫?」
「はい、愛しい姫を救うのに・・・全てを投げ出さない王子がいますか?」
王は隠語の様に感じただろう。
番の雄が雌を奪われたという例えだと。
だがこれはマリーの偽らざる本心だった。
「・・・それで良いのか?」
「御意に・・・ただし少し工夫が要ります」
「何をするんだ?」
「まずは…………」
帝国に向け返信の書簡を送らせた。
内容は、ドラグノフ侯爵息女、ローズマリー・ドラグノフの身柄とハッグ・ベアード将軍の交換、場所は現戦場にて相互に執り行う。
立ち会いは2名までとする。
日時の返信を待つ。
これを今日と明後日に二度送るように。
一通目は握り潰される前提だと。
そして追撃部隊のフォルグ隊の脚を見込んで、帝国内の商隊や可能であれば町々、帝都に[姫騎士生存]と[人質交換]の対象になっていると紙媒体で流布をさせる。
餌は愛玩部隊の[姫騎士]だ。
市民を巻き込めば確実に成功する自信があった。
二通目を軍部で握り潰せなくする為に。
この案に王も宰相も了承する。
そして作戦が決行された。
物語の歯車は加速し回りだす。
マリーにはやっておく事があった。
それはただハッグを助けるだけではない。
壊れかけた軍部に楔を打ち付ける事だ。
まず屋敷に戻り侍従達に説明をしてお別れを告げた。
そしてお願いをした。
交換が行われるその日は真紅の薔薇を思わせるドレスを着ると。
髪の手入れから手伝って欲しいと。
マリーは思う。
間違いなくハッグはボロボロだろうと。
なら私は思いきり着飾ろう。
どちらが蛮族なのか思い知らせる為に。
騎士達の中にも[生命喰らい]を使用した事を疑問視した者がいるはずだ。
私のように獣人を蛮族と思えない者もいるだろう。
だから何よりも目を惹くあのドレスにも袖を通してみせる。
そしてその戦場の真ん中で踊ってやる。
優雅に気品よく薔薇を咲かせてみせよう。
・・・ハッグとのラストダンスを・・・
これはプロローグへ至る物語。
そして別れから始まる物語・・・
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