30 / 46
27 マリー
しおりを挟む大きく伸びをした。
作業から解放された身体から音が鳴らす。
弛緩した肉体に合わせて言葉を出す。
「ん・・・はぁ、終わったぁ」
私の目の前には熊用のネックレス型の魔道具がある。
使い捨て用だからと魔力回路で過剰に反応する様ように作った。
熊の肉球落下がこれでどれ程強化されるかを考えると・・・
だがそれはおまけだ。
私から熊に何か残してあげたかったんだ。
灰色の毛に合うと思い黒鉄の鎖にした。
見た目がネックレスに見えないのは熊サイズだからだ。
その鎖に魔道具を取り付けた。
戦場で無闇に文字が光るのは不味かろうと黒鉄の魔道具本体であるプレートの中に仕込んだ。
ベアード家の紋である熊の肉球の形をしたペンダントトップだ。
「爺さん、コレをハッグに渡しておいてくれるか?」
「分かった、任せとけ」
そう爺さんは笑いながら受け取った。
少し重そうにしながら。
その後は陛下の待つ控えの間に向かった。
エスコート役は爺さんだ。
担いだ方が早いが慌てる事はない。
鉄球を片手に爺さんの手を取った。
陛下に頼んだのは足枷を外してもらう事だ。
人質交換の際にトラブルがあった時の為だ。
その場で熊に害が及べば帝国に弓を引けるように。
私はベアード侯爵夫人だからな。
足枷を外した時に爺さんが私に言った。
「嬢ちゃんの贖罪はこれで終わりだ」
「・・・そんな事はない」
「わしらは番と離れる意味をよく知ってる、それを進んでやるんだ、もう誰も何も言わん」
「・・・ありがとう」
そう言い爺さんを抱きしめた。
熊が見たら怒るだろうな。
だがいない熊が悪いんだ。
「元気でやるんだぞ」
爺さんは私の背中をポンポンと叩きながらそう言った。
明日私は王城には来ない。
ここで爺さんとお別れをした。
そして臣下として陛下に最後の礼をした。
命にかけても熊を救う事を誓った。
陛下は「すまない」そう呟いておられた。
私が望んでするんだ。
「勿体無いお言葉です」と言葉を返した。
そこから詰所までは負傷者を運ぶのと報告の為に来ていたコーザンがエスコートした。
だが手は出さないし取る気もない。
戦場の状況を聞いたが、爺さんの魔道具が届くまでは戦々恐々としていたらしい。
あいつら「死にたくない」と叫びながら突進してくるんだぞ、と舌を出した。
・・・最悪だな。
負傷者を運んだ室内訓練所で回復魔法の処置を手伝った。
入った時に響めきを感じた。
嫌悪ではなく懺悔として。
人質交換の事を知っているのだろう。
先ず私の目に飛び込んで来たのは片腕を失ったトザだった。
あの時程の眼光のキツさがないので、今は性的には見られていないようだ。
「将軍を守れなかった、すまない」
腕が無くなる戦いをして来た者に謝られる筋合いはない。
寧ろ私をイヤらしい目で見た事を謝ってもらいたい。
まだ血の滲む腕に回復魔法をかけた。
結果だけ言えば爺さんのこの魔道具は凄い。
まさか手が生えるとは思わなかった。
足枷の制限がなくなり純粋に効果が上乗せされた結果だ。
あの魔道具の生産を至急爺さんに依頼しろとコーザンに伝えた。
今後も含めて被害が減るだろう。
「・・・あっちであんたみたいな良い雌がいたら紹介してくれよ」
そう腕の生えたトザに言われた。
彼なりの礼なのだろう。
「何だ、趣味が悪いな」
そう返しておいた。
その後は重篤な者から順繰りに魔力の枯渇寸前まで処置をして回った。
途中で泣きながら謝られた。
崩壊した前線を熊が救出に来たんだと。
俺たちを助けようとして、と。
指揮官としては失格だが熊だから仕方ない。
何を言っても傷つけるだろう。
だから精一杯の笑顔だけ向けておいた。
馬車まで私を送り届けたコーザンに「普通の足枷の方は準備出来ているか?」と確認をした。
「10Kgのだけどな、じゃなきゃ俺が持てない」
そう言った。
枷も無しでは怪しまれるからな。
「非力な狐だな」
「うるせえ女熊」
そう言い見送ってくれた。
何だ?女熊とは?
屋敷に帰り着いた。
夕食を侍従の者全員と一緒に摂りたい。
その我儘を聞いてくれたようだ。
晩餐にはワインだろう?
私は二杯まで頑張った。
相変わらずウリナはザルだった。
リズは下戸だった。
構わないと言ったが明日また見送りに来るという。
全員と握手をした。
リズに泣きつかれた時は困った。
酒のせいでもらい泣きをしてしまった。
あくまで酒のせいだ。
その日は早目に就寝についた。
熊が好きだと言ったネグリジェを着た。
熊のいないベッドに寝転んだ。
ベッドをクンクンと嗅いでみた。
侯爵家の侍女は優秀で困る。
匂いくらいは残しておいて欲しいものだ。
日も登らぬ内に目が覚めた。
屋敷を出るまではウリナが付き添った。
湯浴みをして髪を梳いてドレスを着せてもらった。
メイクは自分でした。
簡単な物しか出来ないが。
「ウリナ、おかしいところはないか?」
「だ、大丈夫です・・・素敵ですよ」
「今までありがとう」
そう言い思わず抱きしめた。
一度ウリナをギュッとしてみたかったんだ。
やはり白い毛玉はふかふかだった。
ここからは戦場に向かう。
侯爵家の馬車は使う訳にはいかない。
迎えに来たのは王国軍の馬車だ。
エスコート役はヒードルのようだ。
「将軍代行が持ち場を離れて良いのか?」
「ここから打ち合わせした方が建設的でしょう?」
眼鏡をくいっと指で持ち上げて手を差し出した。
その手を取り馬車に乗った。
そこには新しい足枷があった。
何の制約もないただの鉄の塊が。
感慨もなく取り付けた。
ひんやりと冷たい鉄の塊を。
「元気でな」
窓を開けて手を振った。
淑女らしくない振る舞いだが良いだろう?
たまにはこんな奥様がいても。
そして席に座り戦闘態勢に切り替えた。
剣はなくても姫騎士はここにある。
ただ鎧をドレスに変えただけだ。
戦いの方法が少し変わっただけだ。
そしてヒードルと動きを確認する。
様々なケースを想定して。
万が一にも失敗は許されない。
さあ、姫による王子の救出劇の始まりだ。
0
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる