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■第2章 レイル・フェンダー、世界を釣る(まず近所)
第2-5話 悪徳理事長サイド・サイドビジネスを先回りで潰される
しおりを挟む「くそっ! 何だったんだ……急に大量のエリクサーがブラックマーケットに出回るなどと……」
ザイオンの手の中で、”闇の商人”が持ってきた収支報告書がくしゃりとゆがむ。
善良な前理事長が、エリクサーなどのレアアイテムを冒険者から買い取った後、有事に備えて備蓄していたのは知っていた。
今回、それを一気に闇に流し、私腹を肥やすつもりだったのだが。
タッチの差で出品されたエリクサー130個……ちょうど、北部地方のモンスター掃討作戦が終了するというタイミングも重なり、余剰となったエリクサーがまとめて市場に放出され……合わせ技で通常価格の半値程度まで取引価格が暴落……。
数十万センドの収益を見込んでいたが、一気に赤字となってしまう。
手元に残ったのはセンド金貨ではなく、数十万センドの借用証明書だったというわけだ。
「くそっ、忌々しい……”売人”はダークエルフの女だったという噂だが……」
「ダークエルフだと! そんなもの伝説上の存在ではないか……奴らに騙されているのではないか?」
抗議したいところだが、相手は世界中のブラックマーケットを牛耳る連中である……無用なやけどをしてもつまらない。
数十万センドの損害は、手痛いものの私の資産から見れば致命傷ではない……ただ、私邸改築の支払いに一部冒険者学校の資金を流用しており、今回の取引で帳尻を合わせるはずだったのだ……。
今度の財務監査は1か月後……手っ取り早く稼げる案件はないものか……。
思案に沈むザイオンのもとに、福音がもたらされる。
子飼いの冒険者ギルドの担当者からだ。
ラクウェルの街の南、大森林地帯に数か月前からワーム種が大発生しており、各地で被害が出ていた。
冒険者たちの探索により、ようやく奴らのネスト (巣)を発見したという。
モンスターはAランクのグランワーム種らしいが、無知な村や街の連中には、上位種のSランクである、アビスワームの巣を見つけたと言っておこう。
どうせ奴らにはワーム種の違いなど分からないのだ。
ネストを根絶したときの報酬額は、モンスターのランクによって決められている……SランクとAランクの報酬差は百万センド以上……。
私の息がかかった冒険者連中への謝礼を差し引いても、十分に損害をカバーしてくれるだろう。
ふん、一時的に損害を被ったとしても、すぐに挽回策を立案する……これが”上級”に居続けるための秘訣よ!
ザイオンは一転上機嫌になると、戸棚から最高級ウィスキーを取り出し、グラスに注ぐ……。
今夜は町の有力者との会食だったな……その前にすっきりしておくか。
交渉を有利に進めるためには、氷のような冷静さが必要である。
ザイオンは弱みを握り、脅している女子生徒の一覧を眺めると、情事の相手を吟味するのだった。
*** ***
「いやぁ~、大変助かりますじゃ! ありがとうございます旅のお方……正直冒険者ギルドから法外な依頼料を請求されて困っておりました」
グランワームを森ごと消し飛ばした後、さすがに何もなかったことにして逃げるわけにはいかず……近くの村に立ち寄り、グランワームのネストを討伐したことを村長に報告したのだが。
森を消し飛ばしたことに対して、怒られると思っていたら……手放しでの称賛である。
「それにしても、冒険者ギルド構成員以外にこんな力を持ったお方がおられるとは……冒険者ギルドを通さずに報酬をお支払いすると、違反となってしまいますので……大した物を差し上げられないのが心苦しいのですが」
「いやいや、大丈夫ですよ、こちらこそ森を吹き飛ばしてスミマセンという感じなんで」
冒険者学校とギルドを通さずにモンスター退治の依頼を受けることはご法度とされていて、万一偶然討伐してしまったときも無報酬が原則とされている。
オレとしては、吹き飛ばした森の損害賠償を請求されるかもと心配していたので、万々歳である。
「それでは旅の方、せめてこちらを持っていって下され……村の名産ですぞ」
「!! これは……この芳醇な香りは……輝くエメラルドグリーンの宝石、神のフルーツであるマスクメロンではないですか!」
二頭立ての馬車の中にぎっしりと積み込まれた緑の宝石……この辺りの名物で、最高級フルーツであるマスクメロンだ。
腹ペコお嬢様のフィルは、その甘い香りにあっさりと篭絡され、ぴゅ~んと馬車の方へすっ飛んで行ってしまった。
村長さんの話では、この馬車ごと頂けるらしい……恐縮したオレは、困ったことがあればいつでも駆け付けますと約束し、村を後にするのだった。
「ふあぁ……この香り、この果汁……スプ―ンの終端速度が音速を超えてしまいます……」
のんびりと馬車に揺られながら、フィルがものすごい勢いでマスクメロンを平らげている。
「……一応報酬代わりに次の街で売るんだから、あまり食べ過ぎるなよ?」
「承知しておりますわっ!」
ともかく、想定よりもだいぶん減ったマスクメロンは……せっかくだからと次の街にある児童福祉施設へ寄付する。
「おにいちゃん、おねえちゃん、ありがと~っ!!」
子供たちの陽気な感謝の声を聞きながら、オレたちは一路海都レンディルを目指すのだった。
*** ***
「馬鹿な……グランワームの”ネスト”が消えているだと……」
ほぼ同時刻、グランワームのネスト征伐のため、ザイオンが派遣した冒険者たちのリーダーは、森の中にぽっかりと出現した焼け野原を見て唖然としていた。
目的地はここで間違いない……現に、グランワームの残骸と思われるモノも落ちている。
だが、これほどまでの威力を出す魔法など、聞いたことが無い。
「ま、すでに退治されてるならいいんじゃね? 俺たちはもう金貰ってるし……そこの残骸を証拠として持って帰ろうや」
リーダーの肩をポンと叩くやる気のない冒険者。
こうして、周囲を悩ませていたグランワームは退治されたのだが……冒険者学校連盟の監査により、グランワームをアビスワームとして誤認報告していたこと、討伐した者が派遣した冒険者ではないことが判明し……報酬をもらうどころか、連盟からのけん責処分がザイオンに下るのだった。
深夜の理事長室に、処分を不満とするザイオンの絶叫が響き渡るのだが、レイルたちには知ったことではなかった。
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