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■第3章 レイル・フェンダー、世界を釣る(海に来ました)
第3-2話 海都レンディルとお嬢様(後編)
しおりを挟む「……デカいな」
「……デカいですわね……レティシア王国の宮殿よりデカいのでは?」
「お兄さま、お姉さま! こちらになります!」
わうん!
向こうでエレンがニコニコと手招きをしている。
とはいっても、敷地への入り口にはゲートが設けられ、両側に屈強な男達が警備に立っている。
正直入るの怖いんですが。
荷馬車に轢かれそうになったコーギーの子犬を助けたオレたち。
その飼い主であるエレンという名の少女と知り合い、彼女の家に泊めてもらえることになったのだが……。
海都レンディルの西側、海を一望できる高台の上に、エレンの”屋敷”はあった。
敷地はここから見るだけでも、両側数百メートルに広がっている。
そして、なだらかな斜面に沿っていくつもの白亜の建物が点在する。
……まさか、アレが全部エレンの屋敷なのか?
「お兄さま、お姉さま~、はやく~!」
年相応の表情になり、ぶんぶんと腕を振るエレン。
いつまでも待たせておくのも悪い……オレとフィルは目配せをしあうと、覚悟を決めて屋敷の敷地へと足を踏み入れる。
すっ……
「ひっ……」
フィルが小さく悲鳴を上げたのも仕方がない……オーガ―もかくや、という程にガタイの良い警備員?が、こちらに向かって最敬礼をしたのだ。
……どうやら、客人として認識されているらしい。
(この警備員、人間だよな?)
「少し狭いのですが、こちらに普段使っていない別棟がありまして……ご自由に使って頂ければと♪」
こちらが付いてきたことを確認すると、エレンはくるりと身体をひるがえし、広大な敷地を海の方へ向かう。
と、そこに一人の老紳士が走ってくる……見た感じ、執事さんのようだ。
「エレンお嬢様! また街に出られていたのですね……旦那様も無理はしないようにとおっしゃっていますのに」
「もう薬は飲まれましたか?」
どうやら、お忍びでの外出だったようだ……エレンは一瞬ばつの悪そうな顔をする。
「今日は体調がよろしいので問題ありません……ジョンにもたまには外を見せてあげないと……」
「それより! こちらのお兄さま、お姉さまはジョンの命を救って頂いただけでなく……私の師になられた方……タリスマンの棟にご滞在頂きますから、歓迎の夕食会の準備を!」
薬……どこか悪い所でもあるのだろうか?
執事に追及され、誤魔化すようにオレたちの話題を出すエレン。
「これは……失礼いたしました」
「エレンお嬢様を助けて頂いたようで……私は当家の執事のセバスと申します、ご滞在中にご不便がありましたら、何なりとお申し付けください」
そういうと、セバスさんは恭しく礼をする。
だが、その際にオレたちに鋭い目つきを向けたことをオレは見逃さなかった。
いくらお嬢様が連れて来たと言っても、素性の知れない二人……油断はしないという事か。
グレーの瞳の奥に、言い知れない深みを感じたオレは、思わずブルりと体を震わせる。
「……ふむ、どうやら良い出会いがございましたようで」
顔を上げたセバスさんの目は、柔和な老紳士に戻っていた……どうやら認めて頂けたようだ。
「それでは、私は少し用がございますので……夕食会までごゆくっりとお過ごしください」
「お姉さま! 後でたっぷりパジャマトークをいたしましょう♪」
「ふふ、わたくしも楽しみにしています」
……少し小さい別棟とやらに案内されたオレたちは、何やら用事のあるエレンと別れ、1階のリビングルームに荷物を降ろし、一息ついてた。
「!! レイル! ここにあるウェルカムフルーツはこの間のマスクメロンではないですか!!」
「ちょ~っとカッコつけて寄贈しすぎたなと思っていたのです!」
「……ああ、この芳醇な香り……たまりません……」
「こらフィル、少しは遠慮しなさい」
びしっ
「ぴいっ!?」
さっそくテーブルの上に置かれたメロンを発見し、懐からスプーンを取り出して突進しようとしたフィルをチョップで黙らせる。
それにしても、これが小さい別棟か……建物自体は2階建てだが、広々としたリビングとキッチン……向こうには海の見える露天風呂の施設が見える。
まだ見ていないが、2階には4~5部屋くらいのベッドルームがありそうだ。
本当にエレンはガチお嬢様なんだな……。
「ねえレイル! さきっぽだけ、先っぽだけですからぁ!」
メロンにご執着の庶民派お嬢様に苦笑しながら、オレたちは夕食の準備が出来るまでゆったりとくつろぐのだった。
*** ***
「お姉さま! なにか力仕事をする際、お嬢様的掛け声というものは、どのようなものが良いと思われますか?」
「ふふ、ここはあえて”どっせ~~い”を推しますわ」
「普段の奥ゆかしい様子とのギャップがあってこそ、殿方の心を掴めるのですっ!」
「なるほど、さすがお姉さま……深い、深いですお嬢様リンク……」
「…………」
豪華な夕食後、オレたちが滞在している建物に遊びに着たエレンは、フィルにべったりで謎のお嬢様トーク?を繰り広げている。
正直、仲の良い姉妹のようでとても微笑ましい。
ひと通り盛り上がった後、ふと真面目な顔になるエレン……次の瞬間、彼女の口から衝撃的な言葉が発せられる。
「……ところで、お兄さまがジョンを助けて頂いた時に、お姉さまが使われたスキル……あれは”魔術”というモノでしょうか?」
「「!!」」
突然の指摘に、目を見開いて固まるオレとフィル。
「あと……おふたりを尾行している不埒な連中がおりましたので、当家の護衛を差し向けておきました……お姉さま、何か事情がおありのようですね?」
な!?
オレたちが尾行されていただって!?
もしかして、冒険者ギルド関係だろうか……先日退治したグランワームは、もともとはギルドが請け負うべき案件だった……オレたちはマズいことをしてしまったのか……?
ってそれより、この子、フィルが使ったスキルの正体に気づいている!?
オレとフィルがあまりに驚くものだから、言い方がマズかったと思ったのだろう、あたふたと慌て始めるエレン。
「も、申し訳ございません! お兄さまお姉さまの事情を勘繰るつもりはなく……レンディル家は少々古くて特殊な家系ですので、私も無意識にいろいろなモノがみえるといいますか……」
わたわたと、年相応な表情で焦るエレンの胸元に、「千里眼◎」という金スキルが現れる。
あれは……!!
周りの状況や、魔力の動きなど、あらゆるものを直感的に知覚できるという超レアスキル!?
発現者は世界で5人もいないと聞いたことがあるけど、エレンが持っていたなんて……って、まてよ?
レンディル家?
オレはエレンのセリフの中で、もう一つ引っかかった部分を反芻する。
「レンディル家って……まさか?」
「はい、最初に申し上げればよかったですね……我がレンディル家は、王家に連なると言われる古い家で……海都レンディルの領主をしております」
「ガチのガチでお嬢様ですのっ!?」
フィルの驚愕の叫びが、リビングの中に響いた。
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