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本物のピエロ、或いは死神

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 それからの話に大した身はなく。互いに互いの逆鱗を探るような会話ばかりしていた。
 空き缶の灰皿にシケモクが増えていく。いつの間にか縁についた煤だけを見ていた視界に、くたびれた革靴がうつる。
 直後、声が降ってきた。

「何してるのかなぁ君たち。ちょ~っとお話聞かせてもらえる?」

 肩が跳ねる。
 中学の時に何度となくかけられた、僕のもっとも嫌いな言葉だ。
 若の声が噛みつく。

「なんすかオジサン、見りゃわかるでしょ」
「いやぁ、ココアシガレットかなぁ?」
「失礼すけど、どちら様すか」
「オッチャン? オッチャンは通りすがりのオッチャンだよ」
「それで答えになると思ってんなら、頭の病院行った方がいいぞオッサン」

 のらりくらりと言葉をかわす男に、イラつく若。
 視線は足元に釘打ちされて動かせなかった。ただ「止めなければ」と思って、地面を睨んだまま喉を震わせる。

「やめろ、若。その人、は」

 喉の奥がヒリつく。言葉が上手く出ない。
 頭がくらりと揺れる。今さらになってヤニクラがやってきたらしい。
 楽しげな声が、鐘を打つように歪んで聞こえてくる。

「おっ、覚えててくれた? 嬉しいねェ」

 押し黙る僕の肩を、男がバシバシと乱暴に叩く。

「久しぶりだな、夜霧の坊主。ちょっと見ねぇ に、ずいぶんと青春してンじゃねぇの~」

 気だるげに笑う口許を擦る左手は節くれ立っていて、くたびれたワイシャツが包む体は、よく見れば引き締まっている。
 「ま、挨拶はその辺にしといて」と切り上げて、男は嘲るように笑った。

「オッチャン今日非番なんだけどよ。でも仕事柄、一応言っとくぜ?」

 僕はこの男を知っている。だからこそ今後の一生で、二度と会いたくはない人物だった。
 男は立ち上がろうとする僕の肩を押さえつけて、そしてニヤリと笑いながら言う。

「ど~も、お巡りサンです」

  檜垣真治ひがきしんじ。彼は僕の睦宮殺害を知る、唯一の警察官だった。
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