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第八話「級友のピンチとそれを救う者たちについて」
混戦模様
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ちょうどニコラハムとメアリの間まで行った所で、手榴弾は眩い閃光と強烈な音を撒き散らした。
事前に目と耳を手で塞いだメアリと、咄嗟に目を塞いだニコラハム以外の兵士が、数瞬とは言え目を焼かれ耳を潰された。
そこに、サブマシンガンを抱えた志度と、それに続いて防弾チョッキと拳銃で武装した義勇兵が突入をしてくる。
『大人しく観念しろニコラハム!』
「馬鹿が、AMWを用意できたのがそちらだけだと思ったか!」
ニコラハムがカーテナに叫び返すと同時に、その背後の空間が歪み――否、背景を透過していた布を取り払って、ずんぐりむっくりとした巨体、ペーチルが現れた。
『光化学迷彩マントだと、そんなものまで用意していたのか!』
驚くカーテナに、ペーチルが手に持っていた高振動ブレードをすぐさま起動させ、それを叩きつける。これに素早く反応したカーテナが、自身のブレードでそれを受け止めて弾く。その足元で銃撃戦が始まった。状況は混戦へと突入する。
「護衛まで……くそっ!」
作戦の失敗を悟ったニコラハムが、せめて紫蘭だけでもと抱え上げようとするその時、銃声に混じって「ガシャン」と、小さいモータの音がした。ここで、ニコラハム二つ目の想定外が起きる。
「これの修理費高いんだぞ!」
地面に倒れて、痛みに悶えている振りをしていた比乃が、隙が出来たとニコラハムの急接近し、蹴りを見舞ったのだ。ズボンに開いている丸い穴から、少しひびが入った白い義足の装甲が見える。
比乃は足を撃たれた時、あたかも負傷したように見せて、機を伺っていたのである。尤も、それでもジャックが突入して来てくれなければかなり危なかった。不確定要素に救われる辺り、比乃もまだ経験が足りない。そも、相手が足を狙ってこなければ、銃撃で行動不能になっていた。
ニコラハムの首筋を正確に狙った足刀は、その首をへし折る前に、ニコラハムが構えた銃に当たり、それを弾くだけとなった。
舌打ちして比乃は更に追撃の一撃を入れるが、相手も即座に距離を取ると、腰からコンバットナイフを引き抜いて構えた。奇襲に反応して防いで見せる辺り、この男は生身での戦闘能力も高い。素行的には小物だが、油断できない。比乃の頰に冷や汗が流れる。
「どこまでも邪魔をしてくれるなクソガキ……」
「そっちこそ、何度も僕らの平和を脅かしてくれないでほしいね」
しかし、ニコラハムは義足による蹴りを受けて腕にダメージが来ているのと、人質である紫蘭から離れてしまったことがあり、足が逃げ腰だ。ニコラハムと比乃が数秒睨み合っていると、すぐ背後で組み合っていた二機のAMWが轟音を立てて動いた。
それが合図となったとばかりに、ニコラハムは背を向けて駆け出した。「あっ」と比乃が追いかけようとしたが、メアリと紫蘭を放置するわけにも行かずに立ち止まる。
「日比野 比乃、幾度となく私の邪魔をしてくれた罪の重さ、いつか解らせてくれるからな! 覚悟しておくんだな!」
その声と共に、その後ろ姿は取っ組み合う二機の隙間を縫うようにして消えて行った。比乃の後ろでメアリが「ど、どこまで小物なんですか」と呆然としている。
しかし、あの様な鉄の巨人が取っ組み合っている中を追い掛けることは不可能だ。比乃は通信機を取り出して、外に待機している心視に通信を繋ぐ。
「こちらchild1、主犯格が外に逃げた。見えたらそっちから撃って」
『child3了解……見えた……――?!』
「child3、心視、どうした?」
『こちらchild3……ごめん、避けられた……こっちが撃った瞬間、目標が転んで……はずれた……そのまま転がって路地の方に……』
「…………child1了解、そいつはもういいから、他に逃げそうなやつが居たら撃って」
まさかの失敗に『child3、了解……』と落ち込んでいる心視に「あーその……ドンマイ」と慰めの言葉を送ってから、通信を切り、ぐったりしている紫蘭を肩に担ぐ。怪我の様子からして致命傷は負っていなさそうだが、治療を急ぐに越したことはない。
「森羅さん、大丈夫でしょうか……」
「すぐどうにかって怪我じゃないと思うけど、意識がないのが不安だ。とにかく急いで病院に連れて行かないと……!」
比乃らの真上から破壊された壁材やら天井について居た柱などが、格闘戦の煽りを受けて降り注いできて、比乃はメアリと紫蘭を引き寄せて身を固める。
それらは幸いなことに、少し離れた所に落下して音を立てただけだが、この状況では悠長に紫蘭の応急処置をしている暇はない。それに、周囲では未だに銃撃戦が続いているのだ。AMWが取っ組み合いまでしている。できるだけ早く外に脱出しなければならなかった。
「というかジャックはいつまでやってるの、早く仕留めてよ……」
比乃が鍔迫り合いをするカーテナとペーチルの方を見てぼやくが、相手のパイロットも相当な技量らしく、破損しているとは言え一世代上のカーテナを相手にしぶとく粘りついていた。ジャックも高振動ブレード一本しか使えない状態、しかも閉所ということでかなり手こずっているように見える。
比乃はもどかしく思いながらも、まずは二人を逃がすのが先決と紫蘭を肩に担ぎ、メアリの手を引いてその場から駆け出す。それに気付いた敵が足を止めようと銃を向けたが、他のテロリストを片付けた志度が、マガジンの中身を盛大にばら撒いてそれを制圧する。
同時に、遂にカーテナの刺突がペーチルの胴体を貫き、その動きを止めさせた。
それを尻目に、比乃は廃工場から出て紫蘭のSPや待機して居た護衛兵に二人を預けて、工場の方を見る。リーダー格と切り札を失ったテロリストを鎮圧するのに、数分とかからなかった。
事前に目と耳を手で塞いだメアリと、咄嗟に目を塞いだニコラハム以外の兵士が、数瞬とは言え目を焼かれ耳を潰された。
そこに、サブマシンガンを抱えた志度と、それに続いて防弾チョッキと拳銃で武装した義勇兵が突入をしてくる。
『大人しく観念しろニコラハム!』
「馬鹿が、AMWを用意できたのがそちらだけだと思ったか!」
ニコラハムがカーテナに叫び返すと同時に、その背後の空間が歪み――否、背景を透過していた布を取り払って、ずんぐりむっくりとした巨体、ペーチルが現れた。
『光化学迷彩マントだと、そんなものまで用意していたのか!』
驚くカーテナに、ペーチルが手に持っていた高振動ブレードをすぐさま起動させ、それを叩きつける。これに素早く反応したカーテナが、自身のブレードでそれを受け止めて弾く。その足元で銃撃戦が始まった。状況は混戦へと突入する。
「護衛まで……くそっ!」
作戦の失敗を悟ったニコラハムが、せめて紫蘭だけでもと抱え上げようとするその時、銃声に混じって「ガシャン」と、小さいモータの音がした。ここで、ニコラハム二つ目の想定外が起きる。
「これの修理費高いんだぞ!」
地面に倒れて、痛みに悶えている振りをしていた比乃が、隙が出来たとニコラハムの急接近し、蹴りを見舞ったのだ。ズボンに開いている丸い穴から、少しひびが入った白い義足の装甲が見える。
比乃は足を撃たれた時、あたかも負傷したように見せて、機を伺っていたのである。尤も、それでもジャックが突入して来てくれなければかなり危なかった。不確定要素に救われる辺り、比乃もまだ経験が足りない。そも、相手が足を狙ってこなければ、銃撃で行動不能になっていた。
ニコラハムの首筋を正確に狙った足刀は、その首をへし折る前に、ニコラハムが構えた銃に当たり、それを弾くだけとなった。
舌打ちして比乃は更に追撃の一撃を入れるが、相手も即座に距離を取ると、腰からコンバットナイフを引き抜いて構えた。奇襲に反応して防いで見せる辺り、この男は生身での戦闘能力も高い。素行的には小物だが、油断できない。比乃の頰に冷や汗が流れる。
「どこまでも邪魔をしてくれるなクソガキ……」
「そっちこそ、何度も僕らの平和を脅かしてくれないでほしいね」
しかし、ニコラハムは義足による蹴りを受けて腕にダメージが来ているのと、人質である紫蘭から離れてしまったことがあり、足が逃げ腰だ。ニコラハムと比乃が数秒睨み合っていると、すぐ背後で組み合っていた二機のAMWが轟音を立てて動いた。
それが合図となったとばかりに、ニコラハムは背を向けて駆け出した。「あっ」と比乃が追いかけようとしたが、メアリと紫蘭を放置するわけにも行かずに立ち止まる。
「日比野 比乃、幾度となく私の邪魔をしてくれた罪の重さ、いつか解らせてくれるからな! 覚悟しておくんだな!」
その声と共に、その後ろ姿は取っ組み合う二機の隙間を縫うようにして消えて行った。比乃の後ろでメアリが「ど、どこまで小物なんですか」と呆然としている。
しかし、あの様な鉄の巨人が取っ組み合っている中を追い掛けることは不可能だ。比乃は通信機を取り出して、外に待機している心視に通信を繋ぐ。
「こちらchild1、主犯格が外に逃げた。見えたらそっちから撃って」
『child3了解……見えた……――?!』
「child3、心視、どうした?」
『こちらchild3……ごめん、避けられた……こっちが撃った瞬間、目標が転んで……はずれた……そのまま転がって路地の方に……』
「…………child1了解、そいつはもういいから、他に逃げそうなやつが居たら撃って」
まさかの失敗に『child3、了解……』と落ち込んでいる心視に「あーその……ドンマイ」と慰めの言葉を送ってから、通信を切り、ぐったりしている紫蘭を肩に担ぐ。怪我の様子からして致命傷は負っていなさそうだが、治療を急ぐに越したことはない。
「森羅さん、大丈夫でしょうか……」
「すぐどうにかって怪我じゃないと思うけど、意識がないのが不安だ。とにかく急いで病院に連れて行かないと……!」
比乃らの真上から破壊された壁材やら天井について居た柱などが、格闘戦の煽りを受けて降り注いできて、比乃はメアリと紫蘭を引き寄せて身を固める。
それらは幸いなことに、少し離れた所に落下して音を立てただけだが、この状況では悠長に紫蘭の応急処置をしている暇はない。それに、周囲では未だに銃撃戦が続いているのだ。AMWが取っ組み合いまでしている。できるだけ早く外に脱出しなければならなかった。
「というかジャックはいつまでやってるの、早く仕留めてよ……」
比乃が鍔迫り合いをするカーテナとペーチルの方を見てぼやくが、相手のパイロットも相当な技量らしく、破損しているとは言え一世代上のカーテナを相手にしぶとく粘りついていた。ジャックも高振動ブレード一本しか使えない状態、しかも閉所ということでかなり手こずっているように見える。
比乃はもどかしく思いながらも、まずは二人を逃がすのが先決と紫蘭を肩に担ぎ、メアリの手を引いてその場から駆け出す。それに気付いた敵が足を止めようと銃を向けたが、他のテロリストを片付けた志度が、マガジンの中身を盛大にばら撒いてそれを制圧する。
同時に、遂にカーテナの刺突がペーチルの胴体を貫き、その動きを止めさせた。
それを尻目に、比乃は廃工場から出て紫蘭のSPや待機して居た護衛兵に二人を預けて、工場の方を見る。リーダー格と切り札を失ったテロリストを鎮圧するのに、数分とかからなかった。
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