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第二十三話「最新鋭機とその適正について」
相乗り
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専用の操縦服と言っても、いつもの真っ黒い操縦服に、端子やプラグが着いているだけだった。それを纏った三人は、機体の脇に設置されていたシミュレータの中に収まった。
『それでは、それではまずはマッチングテストを開始する』
「博士、一つ宜しいでしょうか。そのマッチングというのは……」
『ああ、ああ、言ってなかったか。Tkー11は今のところ複座型でな。量産型では単座になる予定だが、複座型のAMWとなると、操縦者同士の相性、相性が良くなければ、動かすこともままならん。それをチェックするためのテストだ』
「……なるほど」
複座型、と聞いて、比乃は何故自分達がテストパイロットとして選ばれたのかを察した。
AMWは七、八メートル“しかない”兵器である。それも直立した全高だ。前後の幅となると、一番分厚くなる胴体部分でも精々三、四メートルかそこらだ。そこに、充分な装甲や機材などを詰め込むと、内部の広さはかなり制限されることになる。
その上で複座。恐らくは、一番省スペースになる、前後に操縦席が並ぶタンデム式となると、とてもではないが、成人男性の体格では乗ることはできないだろう。そこで、自衛官機士科の中で最も小柄な、この三人に白羽の矢が立ったのだ。
「まさか、背が低いことが功となる日が来るなんてね」
自嘲気味に呟く。背が低いことは、比乃の密かなコンプレックスになっていた。何せ、同年代の男子高校生達と、平均身長十センチちょっと開いてるのだ。それを生身で実感すれば、どうしても気になってしまう。
『それでは、それではテストを開始する。各員、リラックスしてくれたまえ』
通信機からの声に従って、比乃は擬似的に設置されている操縦桿を握り、リラックス状態。この場合は戦闘直前の状態に気持ちを持って行った。
頭につけたヘッドギアがシミュレータとコネクトしたのか、比乃の脳内にいつもの「カリカリカリ」というHDDのような音が響く。それすらも心を落ち着かせる材料にして、比乃は薄く目を瞑った。
テストの第一段階が始まった。
「博士、この数値……」
「ううむ、悩ましい、悩ましいな」
別室のモニタールームに移った博士と職員達が、画面に映し出されたグラフを見て唸った。このシミュレータは、テストパイロット候補である三人から二人の組み合わせを次々に算出し、その結果から最も相性の良い二人を導き出すという物だったのだが、
「日比野三曹を中心に、他二人のマッチング相性が高くなっていますね。浅野三曹と白間三曹の相性も悪くはないですが、日比野三曹との相性に比べると劣ります。ここまでは良いのですが……」
「どちらとの、どちらとの組み合わせもほぼ同数値か……」
そう、比乃と志度、比乃と心視の二パターンの相性値が、ほぼ同数を示しているのだ。これは困った、と職員達が再度唸る。どちらかが高ければその組み合わせを採用してしまえば良いのだが、これではどちらを選べば良いのか、判断に苦しむところだった。
「むむむむむ……」
ここまで笑顔を浮かべてばかりだった博士の顔が、悩まし気に歪む。比乃はテストパイロット内定だが、他二人の内、どちらを取るか、実に悩ましい……その時、職員の一人が挙手して提案した。
「いっそのこと、本人達に説明して選んでもらってはどうでしょう。聞けば、彼らは長年連れ添ったパートナー同士であるとのことですし、彼らに話し合って決めて貰えば良いのではないのでは」
その提案を聞いた博士は、それでも数十秒悩んだ挙句。
「……それが、それが良いか」
提案を受け入れて「三人をシミュレータから下ろしたまえ」と指示を出した。
シミュレータ装置から降り立って、ヘッドギアを外した比乃達の前に、苦面を浮かべた楠木博士がやってきた。自分で候補を決められないことが不服でしょうがないのだが、この際仕方がない。そう博士は無理やり納得して口を開いて事情を説明した。
事情を聞いた比乃は「なるほど」と、自分がテストパイロットをすることはあっさり了解した。が、その後ろ、志度と心視の間で火花が散っていることには、全く気付いていない。
「というわけで、というわけで、君達の間でどちらが日比野三曹と乗るか、決めもらいたい。時間は十分、十分程で頼む。実機でのテストがまだ残っているのでな……決まったら、上のモニター室に報告に来てくれ。それと、これが機体の諸元だ、確認しながら決めてくれたまえ」
「了解しました」
書類を受け取り、最後まで不承不承そうな態度だった博士が階段を上がって行くのを見届けた比乃が「さて」と振り返る。
そこには、CQCの構えを取った二人の姿があった。一触即発の空気に、比乃は「なにしてんの……」と呟いて、二人の間に強引に割り込んだ。
「一体何で決めようとしてるの、暴力は駄目だからね?」
「比乃を賭けた……戦い……邪魔、しちゃ、駄目」
「はっ、心視が俺に勝てるわけないだろ、潔く比乃を譲ったらどうだ?」
「腕っぷしはともかく……CQCの腕は私の方が……上」
「……上等じゃねぇか」
比乃を挟んで威嚇し合う二人を、比乃が「どーどーどー」と無理やり引き剥がす。何故、こんなに殺気立っているのか、比乃には今一つ理解できなかった。そんなに新型に乗りたいのだろうか?
「あのね二人共、こういう時は普通に話し合いで、合理的に決めるべきでしょ。というかなんでそこまで険悪ムードになってるの、時間ないんだから、さっさと話し合うよ」
比乃に諌められ、一先ず二人は構えを解いて話し合いの姿勢になった。機体諸元が書かれた書類を、三人は顔を突き合わせながら読み始める。
「どれどれ……走行速度、跳躍力は流石新型だね。Tkー7改二を余裕で超えてる。見た目だと、どこに付いてるかわからないけど、フォトンスラスターも装備されてる」
「パワーも段違いだな、これ第三世代くらいなら素手でねじ伏せられるんじゃねぇの?」
「……背中のあれ……滑腔砲だったんだ」
「サブマニピュレータにもなるみたいだね、複座の内片方がこれの操作か……となると」
比乃がチラリと心視を見た。このメンバーの中でガンナー役が務まる人物と言ったら、一人しか居ない。
「これは射撃担当で心視かなぁ、僕が近接戦と足回り担当で」
比乃が出した結論に、心視が「やたっ」と似合わず小躍りして喜び、志度が「ええー」と抗議の声をあげた。
「そりゃあ確かに射撃と言えば心視だけどさぁ、このアーム格闘用にも出来てるだろ、二人で格闘特化じゃ駄目なのか?」
「それも一つの選択肢だろうけど、背中の飛び道具を腐らせるわけにもいかないだろうし……この中で射撃が一番下手くそなの、誰だったっけ」
「……俺だ」
もっと射撃訓練しとけばよかった、そう言ってしょぼんと肩を落とす志度の肩に比乃が手をやって慰める。
「まぁ、こればっかりは適材適所だから仕方ないよ……というか個人的には志度と心視のコンビで良い気がするんだけど、なんで僕と二人が組んだ時の数値だけ高いんだろうね」
さも不思議そうに首を傾げる比乃を、志度と心視が少し呆れた顔で見る。同時に「鈍感」と呟いたが、本人の耳には入らなかった。
『それでは、それではまずはマッチングテストを開始する』
「博士、一つ宜しいでしょうか。そのマッチングというのは……」
『ああ、ああ、言ってなかったか。Tkー11は今のところ複座型でな。量産型では単座になる予定だが、複座型のAMWとなると、操縦者同士の相性、相性が良くなければ、動かすこともままならん。それをチェックするためのテストだ』
「……なるほど」
複座型、と聞いて、比乃は何故自分達がテストパイロットとして選ばれたのかを察した。
AMWは七、八メートル“しかない”兵器である。それも直立した全高だ。前後の幅となると、一番分厚くなる胴体部分でも精々三、四メートルかそこらだ。そこに、充分な装甲や機材などを詰め込むと、内部の広さはかなり制限されることになる。
その上で複座。恐らくは、一番省スペースになる、前後に操縦席が並ぶタンデム式となると、とてもではないが、成人男性の体格では乗ることはできないだろう。そこで、自衛官機士科の中で最も小柄な、この三人に白羽の矢が立ったのだ。
「まさか、背が低いことが功となる日が来るなんてね」
自嘲気味に呟く。背が低いことは、比乃の密かなコンプレックスになっていた。何せ、同年代の男子高校生達と、平均身長十センチちょっと開いてるのだ。それを生身で実感すれば、どうしても気になってしまう。
『それでは、それではテストを開始する。各員、リラックスしてくれたまえ』
通信機からの声に従って、比乃は擬似的に設置されている操縦桿を握り、リラックス状態。この場合は戦闘直前の状態に気持ちを持って行った。
頭につけたヘッドギアがシミュレータとコネクトしたのか、比乃の脳内にいつもの「カリカリカリ」というHDDのような音が響く。それすらも心を落ち着かせる材料にして、比乃は薄く目を瞑った。
テストの第一段階が始まった。
「博士、この数値……」
「ううむ、悩ましい、悩ましいな」
別室のモニタールームに移った博士と職員達が、画面に映し出されたグラフを見て唸った。このシミュレータは、テストパイロット候補である三人から二人の組み合わせを次々に算出し、その結果から最も相性の良い二人を導き出すという物だったのだが、
「日比野三曹を中心に、他二人のマッチング相性が高くなっていますね。浅野三曹と白間三曹の相性も悪くはないですが、日比野三曹との相性に比べると劣ります。ここまでは良いのですが……」
「どちらとの、どちらとの組み合わせもほぼ同数値か……」
そう、比乃と志度、比乃と心視の二パターンの相性値が、ほぼ同数を示しているのだ。これは困った、と職員達が再度唸る。どちらかが高ければその組み合わせを採用してしまえば良いのだが、これではどちらを選べば良いのか、判断に苦しむところだった。
「むむむむむ……」
ここまで笑顔を浮かべてばかりだった博士の顔が、悩まし気に歪む。比乃はテストパイロット内定だが、他二人の内、どちらを取るか、実に悩ましい……その時、職員の一人が挙手して提案した。
「いっそのこと、本人達に説明して選んでもらってはどうでしょう。聞けば、彼らは長年連れ添ったパートナー同士であるとのことですし、彼らに話し合って決めて貰えば良いのではないのでは」
その提案を聞いた博士は、それでも数十秒悩んだ挙句。
「……それが、それが良いか」
提案を受け入れて「三人をシミュレータから下ろしたまえ」と指示を出した。
シミュレータ装置から降り立って、ヘッドギアを外した比乃達の前に、苦面を浮かべた楠木博士がやってきた。自分で候補を決められないことが不服でしょうがないのだが、この際仕方がない。そう博士は無理やり納得して口を開いて事情を説明した。
事情を聞いた比乃は「なるほど」と、自分がテストパイロットをすることはあっさり了解した。が、その後ろ、志度と心視の間で火花が散っていることには、全く気付いていない。
「というわけで、というわけで、君達の間でどちらが日比野三曹と乗るか、決めもらいたい。時間は十分、十分程で頼む。実機でのテストがまだ残っているのでな……決まったら、上のモニター室に報告に来てくれ。それと、これが機体の諸元だ、確認しながら決めてくれたまえ」
「了解しました」
書類を受け取り、最後まで不承不承そうな態度だった博士が階段を上がって行くのを見届けた比乃が「さて」と振り返る。
そこには、CQCの構えを取った二人の姿があった。一触即発の空気に、比乃は「なにしてんの……」と呟いて、二人の間に強引に割り込んだ。
「一体何で決めようとしてるの、暴力は駄目だからね?」
「比乃を賭けた……戦い……邪魔、しちゃ、駄目」
「はっ、心視が俺に勝てるわけないだろ、潔く比乃を譲ったらどうだ?」
「腕っぷしはともかく……CQCの腕は私の方が……上」
「……上等じゃねぇか」
比乃を挟んで威嚇し合う二人を、比乃が「どーどーどー」と無理やり引き剥がす。何故、こんなに殺気立っているのか、比乃には今一つ理解できなかった。そんなに新型に乗りたいのだろうか?
「あのね二人共、こういう時は普通に話し合いで、合理的に決めるべきでしょ。というかなんでそこまで険悪ムードになってるの、時間ないんだから、さっさと話し合うよ」
比乃に諌められ、一先ず二人は構えを解いて話し合いの姿勢になった。機体諸元が書かれた書類を、三人は顔を突き合わせながら読み始める。
「どれどれ……走行速度、跳躍力は流石新型だね。Tkー7改二を余裕で超えてる。見た目だと、どこに付いてるかわからないけど、フォトンスラスターも装備されてる」
「パワーも段違いだな、これ第三世代くらいなら素手でねじ伏せられるんじゃねぇの?」
「……背中のあれ……滑腔砲だったんだ」
「サブマニピュレータにもなるみたいだね、複座の内片方がこれの操作か……となると」
比乃がチラリと心視を見た。このメンバーの中でガンナー役が務まる人物と言ったら、一人しか居ない。
「これは射撃担当で心視かなぁ、僕が近接戦と足回り担当で」
比乃が出した結論に、心視が「やたっ」と似合わず小躍りして喜び、志度が「ええー」と抗議の声をあげた。
「そりゃあ確かに射撃と言えば心視だけどさぁ、このアーム格闘用にも出来てるだろ、二人で格闘特化じゃ駄目なのか?」
「それも一つの選択肢だろうけど、背中の飛び道具を腐らせるわけにもいかないだろうし……この中で射撃が一番下手くそなの、誰だったっけ」
「……俺だ」
もっと射撃訓練しとけばよかった、そう言ってしょぼんと肩を落とす志度の肩に比乃が手をやって慰める。
「まぁ、こればっかりは適材適所だから仕方ないよ……というか個人的には志度と心視のコンビで良い気がするんだけど、なんで僕と二人が組んだ時の数値だけ高いんだろうね」
さも不思議そうに首を傾げる比乃を、志度と心視が少し呆れた顔で見る。同時に「鈍感」と呟いたが、本人の耳には入らなかった。
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