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第四十五話「敵地での激闘について」

最悪の再会

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「やれやれ、これでもう終わりかしらね」

 うんざりしたように言って、宇佐美機は数多の敵機を切り伏せ、稼働限界を迎えた光分子カッターを鞘に戻した。
 比乃たちを見送ってからの戦闘は一方的だった。あれから数分後には敵の黒い機体は地下基地の入り口らしき所まで逃げ出し、それを追ってみれば、そこから同型の敵が追加で湧いて出てきたのだ。

 全機が英国で見た謎の機構らしきものと相転移装甲を有しており、そちらは少し、ほんの少し手間取った。だが、防護障壁を持っていなかったのと、パイロットの技量は大したことがなかったので、危機に陥る程ではなかった。

 安久が徹甲弾をお見舞いし、隙を作った敵を宇佐美が叩き斬る。この繰り返し作業で終わってしまった。最初に出てきた幹部らしき機体も、いつの間にか撃破していた。

『しかし、この装備を持った機体が量産されていたとは、もしテロで運用されていたら、一大事だったかもしれん』

「そうね、普通の装備で倒すのはちょっと骨が折れるでしょうしね」

 安久の言う通り、敵を容易に殲滅できたのは、こちらに光分子カッターという特効武器があったからである。もしなかったら、あの数相手ではこの二人でも危なかったかもしれない。

 そして宇佐美の特効武器は酷使の末に壊れてしまった。「剛~」とねだるような声で安久を呼ぶと、鞘とフォトンコンデンサーが一体化したそれを、安久のTk-7改が投げ渡す。それをキャッチして、宇佐美機は腰に装着した。

「短筒でもいいんだけどね、私はやっぱりこれじゃないと」

『お前の機体にはフォトンバレットの弾倉が装備されていないしな。交換だ、徹甲弾の弾倉をくれ。こっちも看板になりかけだ』

「はいはーい」

 宇佐美機が腰の予備弾倉を放り、安久がそれを腰につける。これで戦闘続行は可能になった。あとは弟分たちの後を追うか、偶然発見した目の前の地下への入り口に入るかなのだが、

「剛、どうする?」

『待て、今比乃たちと連絡を……なんだ、ジャミングか? 繋がらん』

 ジャミング、通信妨害がかけられていると聞いて、宇佐美も自機の通信装置を弄る。確かに安久の言った通り、遠方の艦隊はともかく、そこまで離れていないはずの比乃たちや米軍にも通信は繋がらなかった。

 辛うじて、この距離にいる安久のTk-7改とは会話が行えるので、遠距離通信のみに影響を及ぼしているらしい。それでも、相互連絡が取れないというのは、厄介極まりない。

「やーね、面倒なことしてくれるじゃない」

『まったくだ……仕方が無い、ここの入り口を調べるか』

 言って、安久がシャッターを開けている入り口に向かって機体を進めようとした。その時、

 《未確認機接近 五時方向 距離二〇〇〇 数六》

「っ、剛!」

 宇佐美機のAIと同じ内容を聞いたのだろう、二機が同じタイミングで弾かれるように左右へ飛んだ。そして今いた場所に、薄緑色の光線が数発撃ち込まれ土煙を上げる。通常兵器の実体弾による攻撃ではない、それはつまり――

『OFMか!』

 安久の叫びに応えるように、木々の向こうから低空飛行してきたそれが姿を現した。玉虫色が三体と、白、緑、紫が一体ずつ。計六体のOFMが、二人に各々の武器を向けている。見逃してくれる気はなさそうだった。

『やれるか、宇佐美』

「やってやれない数じゃないけどね」

 実際、有効打が光分子カッター一本だけでも、宇佐美の技量なら全ての敵を撃破することは可能だろう。だが、二人とも、これ以上戦闘に時間をかけていられるとは思えなかった。比乃の言っていた嫌な予感のタイムリミットが迫っている中、OFMを六体も相手取っている余裕はない。

 いっそ、地下基地へと逃げ込んでしまうことも考え始めた安久と宇佐美の前で、六体は動きを見せた。玉虫色の内の一体が手振りで後ろにいた白色らに何か指示すると、それを受けた白、緑、紫の三体は、安久たちを飛び越えて、地下基地の入り口へと滑り込んでいったのだ。

「私たちより基地に入ることを優先した……?」

『どういうつもりだ?』

 無駄に攻撃することもないので、怪訝ながらもそれを見送った宇佐美と安久の数百メートル前に、玉虫色の西洋鎧が着地した。
 その内の先頭にいる一機が、銃剣を縦に構える。すると、その穂先が光に包まれ、長剣、というよりも日本刀に近いだろうか、そのような形状に変化した。それを、剣術の型のように構える。その頭部は、真っ直ぐ宇佐美機を見ていた。

 お前の相手は自分だと、剣術で勝負をつけてやると言う気概を感じた宇佐美は、面白そうに笑みを浮かべ、乾いていた唇を舌で濡らした。

「へぇ、面白いじゃない。剛、あれは私がやるから、もう二つをお願い」

『……わかった』

 こうなったら宇佐美は聞かないことは承知しているので、安久機は短筒を構えて、宇佐美から距離を取るように跳躍する。それに釣られるように、二体の玉虫色もそれを追って離れていった。

 まるで最初からそう示し合わせていたかのようだ。相手は自分を知っている可能性がある。それも当然かもしれない。宇佐美は沖縄やミッドウェー島、ハワイで、OFMに散々痛手を与えている。刀を持った自衛隊のAMWという特徴で戦いを挑まれるだけの理由はあった。それでも、彼女からすれば関係ない。ただ、目の前の敵を斬り伏せることだけに意識を集中する。

 一対一、相対するAMWとOFM。奇しくも同じ構えだ。侍と侍が相対し、睨み合う。
 お互いに相手の出方を窺い、隙を狙っている。少しでも隙を作った方が攻められる。

 少し離れた所から、短筒の甲高い発砲音が響く。西洋鎧の肩がぴくりと動いた。

「――シッ!」

 跳躍したTk-7改の腰から、フォトンの奔流が放たれ輝いた。AMWどころかOFMをも凌駕する加速、一瞬で彼我距離が詰まる。一瞬、コンマ数秒だけ反応が遅れた西洋鎧に目掛けて、フォトンを纏った切っ先が横から迫る。獲った、と宇佐美は確信めいたものを感じたが、そうはならなかった。

 相手は自身の刀を素早く寝かせたかと思うと、刃に宇佐美の横薙ぎが乗ったタイミングで、上に弾き上げたのだ。一閃目は、相手の頭部、ほんの数センチが切断するに留まった。

 しかし宇佐美は止まらない。一撃目が必殺にならなかったことを超人的な反応速度で認識すると、もう機体を跳躍させていた。その場で前転するように飛び上がったTk-7改の足下すれすれを、斬って返した刃が通っていった。

 着地と同時に後ろに数歩下がり、宇佐美は構え直す。機体の動きに乱れは無いが、搭乗者の表情は、驚愕の色に染まっていた。今の攻防と全く同じ動きを、もう何年も前にも経験していることを思い出したからだ。

「まさか……暁美?」

 外部音声を入れて、思わず相手に問いかけてしまっていた。声に出したその名は、あの忌々しい大規模テロ、東京事変で行方不明になった、一人の少女の名前だった。同じく構え直して、Tk-7改に刃を向ける西洋鎧、ラブラドライトが、外部音声で返した。

『お久しぶりです。姐さん』

 その声は、最後の会話になったあのときよりも、大人びていた。
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