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六日目
一
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長く列島上に居座り続けた冬将軍がようやく帰り支度を始めた。
今年の冬は例年になく寒さが厳しかった。東京では観測を開始してからの最低気温を七日も記録を塗り替えることになった。北海道でも記録的な寒波に連日居座られ、マイナス四十一度を過去に記録している旭川市も記録を三日連続して下回り、就寝時にストーブの火を消して寝ていた八十代の女性が布団の中で凍死していたという痛ましい事件があったほどである。
もちろん寒波は日本だけではなく、世界中でも猛威を振るっていた。
シベリアの永久凍土の上に築かれ、世界で最も寒いと言われる都市の一つであるロシア連邦に属するサハ共和国の首都・ヤクーツクでは、マイナス五十度を下回る日数が三十日を超えて記録されるなど、各地で最低気温の記録が塗り替えられており、凍死者も増え、世界規模で問題となっている。
「これって、地球温暖化じゃなくて、冷却化じゃないの?」
「これも環境破壊の影響?」
「氷河期の再到来かも?」
一方、北半球の国々とは対照的に、赤道付近や南半球の国々では連日の酷暑が人々を襲っており、アマゾンや東南アジアなどの熱帯雨林では大規模な森林火災が続き、環境や生態系に与える影響が問題視されている。赤道付近の酷暑の影響は、地上だけでなく海にまで与えており、アメリカ南東部の都市には二〇〇五年のカトリーナを超える規模の大型ハリケーンが次々に上陸し、猛威を振るっているし、太平洋南海でも海面気温は二十八度を下回ることがなく、一月に台風四個の発生が記録された。一九七九年一月二日〇時〇〇分(日本時間午前九時〇〇分)に発生した最速記録こそ塗り替えられはしなかったが、一月に四個の発生は異例の多さであるし、いずれも日本列島には近づいてはいないが、大型化の兆しが伺える。
「この分だと、今年はどのくらいの数が日本列島を襲うのだろう・・・」
農業関係者のみならず、電力関係者(特に原発関連)達の間で今夏への不安が一気に加速した。
国民やマスコミも、昨年の預言者出現の件を時々思い出したように話題には上るが、一時期の切羽詰まった危機感は感じられなくなった。
気象に若干の不安を抱え、その都度右往左往しながらも、社会は平静を取り戻していた。
そして、春は一気にやってきた。冬が厳しかったことも影響しているのかもしれないが、今年の桜は例年以上に色美しく咲き誇っていた。人々も春の陽気に誘われて、見物客も例年以上の賑わいだ。
誰もが麗らかな陽射しを謳歌していた春の日の午後、突然にそれは始まった。
一瞬にして、世界全体が光に包まれた。その光はまばゆい輝きを放っているが、目を開けていても眩しくはなく、柔らかな暖かさに全身が包まれているような心地良さだった。
「私はヤハウェであり、デミウルゴスであり、ブラウマーであり、天之御中主神であり、盤古であり、プタハであり、フラカンであり、その他諸々の神であり、宇宙と天地創造の神である」
天地に響くその声は、雷のように空から降ってきたようでもあり、それぞれの頭の中に響いているようでもあった。不思議だったのは、その声は一つの言葉で話していたのだが、各国すべての人々が同時に自分達の言語で理解できたことだ。そして、自分の肉体を維持しながら、すべての人間やすべての存在とつながっているという不思議な感覚に包まれていた。
創造主の声が聞けたことで歓喜の涙を流す者もあったが、多くの人々は、今日が一年後の期限だったことを知り、ただただ、うろたえるばかりだった。
「あれ?アッラーって言わなかったけど、イスラム教の神様ってアッラーじゃなかった?アッラーの神は天地創造の神と違うのかな?」
誰かが小声で囁いたが、全世界の生き物に伝わった。ここの場では誰の呟きも全員に聞こえるのだと、この出来事により誰もが悟った。
「アッラーもしくはアッラーフはアラビア語で神という意味だ。ムスリムの者達はユダヤ教やキリスト教の神とは違うと主張しているようだが、私の息子であるムハンマドは私のことをヤハウェと呼んでいる。だからアッラーは私の名ではなく英語の『ゴッド』や日本語の『神』と同じ意味である。しかし、皆が否定するのであれば、私はそれに従っても良いが何か問題はあるかね?」
誰も口を開かなかったので、創造主は話を続けた。
「一年前、私はそれぞれの種族が救世主や預言者と呼ぶ者を通じて皆に伝えた。この地球の環境を、一種族の血と肉と命の灯を持って再生することとすると。そして、今、全種族の中からその種族が選ばれた」
全ての人々が沈黙し、天を見上げ、誰もが自分達でないことを祈りながら、次の言葉を待った。
「私は、この地球に生存する全種族の選択により、人間の血と肉と命の灯を持って、この地球の再生を図ることを宣言する!」
今年の冬は例年になく寒さが厳しかった。東京では観測を開始してからの最低気温を七日も記録を塗り替えることになった。北海道でも記録的な寒波に連日居座られ、マイナス四十一度を過去に記録している旭川市も記録を三日連続して下回り、就寝時にストーブの火を消して寝ていた八十代の女性が布団の中で凍死していたという痛ましい事件があったほどである。
もちろん寒波は日本だけではなく、世界中でも猛威を振るっていた。
シベリアの永久凍土の上に築かれ、世界で最も寒いと言われる都市の一つであるロシア連邦に属するサハ共和国の首都・ヤクーツクでは、マイナス五十度を下回る日数が三十日を超えて記録されるなど、各地で最低気温の記録が塗り替えられており、凍死者も増え、世界規模で問題となっている。
「これって、地球温暖化じゃなくて、冷却化じゃないの?」
「これも環境破壊の影響?」
「氷河期の再到来かも?」
一方、北半球の国々とは対照的に、赤道付近や南半球の国々では連日の酷暑が人々を襲っており、アマゾンや東南アジアなどの熱帯雨林では大規模な森林火災が続き、環境や生態系に与える影響が問題視されている。赤道付近の酷暑の影響は、地上だけでなく海にまで与えており、アメリカ南東部の都市には二〇〇五年のカトリーナを超える規模の大型ハリケーンが次々に上陸し、猛威を振るっているし、太平洋南海でも海面気温は二十八度を下回ることがなく、一月に台風四個の発生が記録された。一九七九年一月二日〇時〇〇分(日本時間午前九時〇〇分)に発生した最速記録こそ塗り替えられはしなかったが、一月に四個の発生は異例の多さであるし、いずれも日本列島には近づいてはいないが、大型化の兆しが伺える。
「この分だと、今年はどのくらいの数が日本列島を襲うのだろう・・・」
農業関係者のみならず、電力関係者(特に原発関連)達の間で今夏への不安が一気に加速した。
国民やマスコミも、昨年の預言者出現の件を時々思い出したように話題には上るが、一時期の切羽詰まった危機感は感じられなくなった。
気象に若干の不安を抱え、その都度右往左往しながらも、社会は平静を取り戻していた。
そして、春は一気にやってきた。冬が厳しかったことも影響しているのかもしれないが、今年の桜は例年以上に色美しく咲き誇っていた。人々も春の陽気に誘われて、見物客も例年以上の賑わいだ。
誰もが麗らかな陽射しを謳歌していた春の日の午後、突然にそれは始まった。
一瞬にして、世界全体が光に包まれた。その光はまばゆい輝きを放っているが、目を開けていても眩しくはなく、柔らかな暖かさに全身が包まれているような心地良さだった。
「私はヤハウェであり、デミウルゴスであり、ブラウマーであり、天之御中主神であり、盤古であり、プタハであり、フラカンであり、その他諸々の神であり、宇宙と天地創造の神である」
天地に響くその声は、雷のように空から降ってきたようでもあり、それぞれの頭の中に響いているようでもあった。不思議だったのは、その声は一つの言葉で話していたのだが、各国すべての人々が同時に自分達の言語で理解できたことだ。そして、自分の肉体を維持しながら、すべての人間やすべての存在とつながっているという不思議な感覚に包まれていた。
創造主の声が聞けたことで歓喜の涙を流す者もあったが、多くの人々は、今日が一年後の期限だったことを知り、ただただ、うろたえるばかりだった。
「あれ?アッラーって言わなかったけど、イスラム教の神様ってアッラーじゃなかった?アッラーの神は天地創造の神と違うのかな?」
誰かが小声で囁いたが、全世界の生き物に伝わった。ここの場では誰の呟きも全員に聞こえるのだと、この出来事により誰もが悟った。
「アッラーもしくはアッラーフはアラビア語で神という意味だ。ムスリムの者達はユダヤ教やキリスト教の神とは違うと主張しているようだが、私の息子であるムハンマドは私のことをヤハウェと呼んでいる。だからアッラーは私の名ではなく英語の『ゴッド』や日本語の『神』と同じ意味である。しかし、皆が否定するのであれば、私はそれに従っても良いが何か問題はあるかね?」
誰も口を開かなかったので、創造主は話を続けた。
「一年前、私はそれぞれの種族が救世主や預言者と呼ぶ者を通じて皆に伝えた。この地球の環境を、一種族の血と肉と命の灯を持って再生することとすると。そして、今、全種族の中からその種族が選ばれた」
全ての人々が沈黙し、天を見上げ、誰もが自分達でないことを祈りながら、次の言葉を待った。
「私は、この地球に生存する全種族の選択により、人間の血と肉と命の灯を持って、この地球の再生を図ることを宣言する!」
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