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プロポーズ

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アデリーナ様が旅立った日、レイチェルはステファン殿下に呼び出された。

いつもステファン殿下と会う時は、応接室やサロンなど人の目がある場所が殆どで、この夜レイチェルは初めてステファン殿下の居住区の私室に通された。

「レイチェル、君を一目見た時からずっとレイチェルだけが私の最愛だった。
王太子として様々な者に機会は与えよ、と宰相に言われ渋々こんな茶番の婚約者選定の儀典を行わなければならなかった事を、心からすまないと思っているよ。

でもこの数ヶ月、レイチェルを傍で見続ける事が出来たのは望外の喜びだった。
レイチェルが美しさだけではなく、賢さや謙虚さと言った王妃として相応しいものを兼ね備えた唯一だと、将来私を支えてくれる臣下の前で証明する事が出来た。

何より、高位貴族達の反感を買う事なく婚約者選定ができた事を心より感謝する。

私のために頑張ってくれてありがとう、愛してるレイチェル。
どうかこのステファンの唯一として、永遠に私の傍に居続けて欲しい。」

そう言ってステファン殿下は私の前に跪いた。
手には小さな短剣を両手で捧げ持っている。

…これ?これを私に!?

キッテンのプロポーズでは最上級になる短剣の贈物。
短剣を捧げて行われるプロポーズには、
「この先、自身の持つもの全てをあなたに捧げよう。万が一この誓いが破られる事があればこの命の与奪はあなた次第…。」
そんな意味が込められている。

「…殿下。」
嬉しくない…と言ったら嘘だ。
ステファン殿下はいつだって優しくて紳士的で。
アデリーナ様の方が相応しいからと、一生懸命に押さえて、押さえつけて、蓋をして…。

「愛してる、レイチェル。僕の愛しい人。どうかこの思いを受け止めて。」
「…はい。」
嬉し涙を流して、レイチェルはその短剣を受け取った。
そのまま抱き抱えられて、王太子の寝室に連れて行かれて…。
2人きりで朝を迎えて…。

あの日、あの夜、私は幸せの天辺にいた。

あれだ、絶対にあれだ。
あれが私の転落の始まりだった。
あーあ、あの時なんで受け取っちゃったんだろう…。

幾度も幾度も思い返した。
伯爵家の娘が王太子妃になる…。数々いた令嬢達の中から唯一として選ばれる。
あの、麗しい王太子が真摯に私の前に跪いて…宝剣を捧げ持って。

無理だ、何回考えても即答でOKする以外の道が想像出来ない…。

だけど。
その先を未来を知っていたら、断るべきだったのだ。

天辺にいるということは、後はそこから落ちるだけだ。
緩やかに軟着陸するか、急降下で墜落するかだった。

婚約者となれなかったブリトーニャ様をシュタインに送り返しに行った王妃殿下が、その兄王に丸め込まれるなんて、誰も想像していなかった。

隣国のシュタインから帰国された王妃殿下は連れて帰ったはずのブリトーニャ様を再び帯同して帰ってきて、「ステファンの婚約者はブリトーニャとする。」と高らかに国民に向けて発表してしまったのだ。
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