修道院に行きたいんです

枝豆

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我慢

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レイチェルと新しい暮らしを始めたつもりになっていた俺は、それがかりそめのまやかしだと思い知らされた。
…まだ、まだダメなんだ。

もう少しだから、あとほんの少しだから。
大丈夫、きっと大丈夫。
そう言い聞かせて。

初手を見誤った報いは時間の経過と共に少しずつ重みを増して、いつしかずっしりと俺の心を押し潰し始めた。

王女の棟に移ってから、レイチェルはしきりに手紙を書いていた。
サラに言わせると、あまり眠れなくなったレイチェルの入眠の儀式になってしまったらしく。
「書くことをお止めするのはやめましょう。…今は。」
と諭される。
その手紙の内容は今後の受け入れ先を探すものだった。フィリア伯爵に、領地の教会や修道院に…。しかしそれは投函されることなく、サラの手によって暖炉の中に焼べられた。
「返事すら来ないのね…。」
と時々漏らしてため息をつく。
それは領地に移ってからも続き、サラとエッタによって火に焼べられて。

まだ、まだか…。

抱きしめながらどんな言葉を伝えても、レイチェルに俺の本気は届いてはくれない。
そして報いは呪いと姿を変え、どんどんと強さを増していく。

ヒュッテの火祭りの夜、今夜こそは…と心を決めて。
わかっているのかいないのか。甘いのから強いのから、片っ端からゴクゴクとレイチェルは酒を飲み干していく。

あえて止めなかったのは…。

横並びに座るベンチ、人が乗ってくるたびに少しずつ席を詰めていく。
本来なら12人の定員なのだけど…。
最後に乗り込んだのが双子の兄弟とその伴侶達。

「あー、定員ですな。」
と最初に乗り込んだレミー大佐が夫人を促して立ち上がった。
そう、確かにルールだ。人が増えすぎると、長くいたものから辞去していく。
その時だった。

「詰めれば座れるんじゃない?」
レイチェルがお尻をずらして俺の横にピッタリとくっついて来たから。

ちょっとだけのイタズラ心で、そのままレイチェルを抱き上げて膝の上に乗せた。
「また馬鹿な事をして…。」
と可愛く呆れながら、それでも照れるレイチェルを見たくて…。

フッ。
大佐夫人が、驚いて目は大きく見開き、そして口元が優しげに綻んだ。

すっかり酔ってしまったレイチェルは大人しく俺の膝の上に座り、その背中を俺の胸に預けた。

「本当なのですね。クラリーチェ様が、仰ったこと。」
「母が何か?」
「…いえ、息子の好きにさせただけよ、と。まさかとは思ってましたけど、本当でしたわね。」
「俺が詰め腹を切らされたと思っていた?」
「ええ、王都ではそんな話になってますね。」
「…帰ったら訂正しておいてくれ。」
「必要かないかと。誰にも疑う余地はなさそうですわ。」

周りが疑わなくても、肝心の人が疑ったままでは意味はないのだけど。

「…おかわり。」
レイチェルがグラスを差し出すから、望むまま注いでいく。

「酔い潰すおつもり?」
「いや、そんなつもりはないが。こんなに楽しそうなレイチェルを見るのは久しぶりだから。」
「まあ、甘いこと。」
ホホっと大佐夫人は笑う。

…寂しい思いをさせていたのかもしれない。
と気付かされた。
ステファンがやった事と同じことをレイチェルに強いていた。

…ごめん。
俺の腕の中で、楽しそうに人と語り合うレイチェルを見てるのも悪くない。
しばらくそうやってレイチェルを抱きしめたまま飲んで喋って…。

「どうやら今度こそお開きのようですな。」
と皆が立ち上がる。
「十分にもてなせなくて済まなかったな。」
「いいえ、十分に楽しませて貰いましたよ。しかも良いものを見せていただいた。」

俺の膝の上で、甘えたまま眠りについたレイチェルを見て皆が微笑む。

「本当可愛らしい方。」
「ええ、全く。」
「…安心なさったのでしょうね。」
「そう見えるか?」
「ええ、そう見えますよ。」

俺の側にいて安心してくれたなら、こんなに嬉しい事はない。
ここがレイチェルのいるべき場所だと知って欲しいのに。

だけど目覚めたレイチェルは何かを想って涙を流して、ごめんなさいと俺に謝る。

…まだ、まだだった。

どんなに未来を語っても、レイチェルは頑なに心を開いてはくれない。
サクッと捨ててくれても良いだなんて…そんな悲しい事をまだ平然と口に出す。

…まだ。

だけど、後から思い出せばレイチェルが修道院に手紙を書かなくなったのはこの頃からだった。
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