修道院に行きたいんです

枝豆

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ヒュッテの火祭り3

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ヒュッテの社交は避暑地ならではの無礼講で、特に火祭りの夜は皆が心置きなく湖上で楽しむ事にしているそうだ。
小舟で繰り出してあちこち訪れるも良し、大船で繰り出して様々な客人をもてなすも良し。どこにも寄らず誰にも会わず、ただ湖の上を漂うも良し。目印は灯り。灯りが消えている船には近付かない、そんな曖昧で簡単なルールだけで、お互いの船を行き来するらしい。

「一応ね、この辺りでは俺は有名人なんだ。」
「…でしょうね、ご領主様。」

無礼講で領主の船に乗れる、しかも初めて婚約者が同乗しているとあっては。
たとえまやかしの婚約者であったとしても、冷やかし半分の沢山の人が入れ替わり立ち替わり船に乗り込んできた。

「それぞれと真面目に乾杯していたら、こうもなる。これから毎年のことになる。来年は舟にして好きな船にお邪魔しようか。」

来年…?来年かぁ。
「私、来年までここにいるのでしょうか?」
心が千切れそうになるのはなんで?
「…どうだろう。城に戻る事になるかもしれないし。」
「エルンスト殿下は、ステファン殿下のご相談役ですものね。」
いつまでも私のことにかまけてはいられないはずで。

「俺と結婚したらレーチェはおそらくブリトーニャの相談役になる。済まない、他にいないんだ。相談役が決まるまで、ブリトーニャには王太子妃の権限が与えられない。」

…はい、知ってます。
ステファン殿下から聞いていました。
「王子を産むか、エルンストの伴侶が決まるまで、王太子妃としての公務はあまりないよ。」って。

「ブリトーニャ様が王子をお産みになりますわ、きっと。」
そっと答えた。そうなる事を願うしかない。
ブリトーニャ様と心を通わせて、政務について相談していくなんて…ってあれ?なんで?
私が…?ナイナイ。って、ナイ…?ある…?
あれっ?

「俺の伴侶のことは言わないんだね。」
とエルンスト殿下は嬉しそうだ。
あっそうだ。ブリトーニャ様の相談役はレイチェルじゃなくて、エルンスト殿下の伴侶となる人だった。

「そうでしたね。私は構わないですよ。どうぞサクッと私のことはお捨てになって。」
ほらまた。自分で言いながら、心が千切れそうになる。
でも。
私の中でその可能性、エルンスト殿下が他の女性を伴侶にされる可能性を微塵も考えていない事にも同時に気がついた。

「…そんな事はしない。いい加減俺を信じてくれ。」
ギュッとエルンスト殿下の腕に力が篭った。
…そう言ってくれると心の中のどこかで思ってしまっていた。

…矛盾してる。

婚約破棄されてここを追い出されると思っているのに、じゃあエルンスト殿下が他の女性を迎え入れる事は想像出来ないなんて。

…変なの。

あの日エルンスト殿下から示された約束はもう果たされた。

自由ではないけれど、ステファン殿下からは離れられた。
修道院ではないけれど、城からは、あの地獄のような寝室からは出られた。

私が望んだ事とは随分とかけ離れてはいるけれど…。

エルンスト殿下がレイチェルを巻き込んだとは思わないの?

あれからひとり脳内反省会で度々浮かんでは打ち消して来たアデリーナ様の言葉。

巻き込んだんじゃなくて、巻き込まれた…?
何に、誰が?
もうわからないことばっかり。

「来年だけじゃない。ずっと、ここにいてくれ。」
って、エルンスト殿下の演技はいつまでも続く。
誰もいないのに。今船の上には偽らなければならない人はひとりもいないのに。
それでもウソに塗れた演技をし続けて…?

「本当にどうなっても知りませんよ。」
そう言うと、エルンスト殿下はフッと笑う。
「好きにしていい,って言ったじゃないか。」

安易に約束なんかするもんじゃない。

「一緒にどこまでも…って約束したよね。」
ってエルンスト殿下は言う。
約束…したけど。
それはいつまで…って約束は…したっけ?
だから都合のいいところだけ切り取るんじゃない!!
エルンスト殿下だけじゃなくて、私も。

「ええ、一緒にどこまでも堕ちましょうって約束はしましたね。」
って言って差し上げると、もっと嬉しそうに笑うなんて…やっぱり間抜けじゃなくて、馬鹿な人だ…と思う。
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