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火祭りもどき
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ライナス領で散々遊び倒した俺には領地経営の仕事が山積みになっているのと、未だにブリトーニャが公務を担えないのと。
今休みが必要なのはステファンなのと。
休みがなかなか取れない。
一方でなかなか仕事が回ってこないレイチェルは城で放っておかれがちな日々が続く。
その事を申し訳なく思い、そう伝えると、
「…では、ひとつだけワガママをさせていただいても良いですか?」
と上目遣いでおねだりされた。
珍しい…。
レイチェルが俺にお願い事をしてくるなんて。
「なんだ?」
「ゼットンを貸して下さい。あと少しお金を好きに使っても?」
ゼットンを?
「何を考えてる?」
「えーっと、それは後でのお楽しみという事です。」
なんかよくわからないけれど、レイチェルが楽しそうだから。
レイチェルが暴走しないかは心配だけど、ゼットンなら加減はわかるだろう。
「好きにするといい。」
レイチェルが笑っている、それだけで俺を嬉しい気分へと誘う、それもまた幸せなんだから。
レイチェルは技師たちを使ってあの池の中に筏を組んで、そこに天幕を張った。
釣りでもするのかと思ったら、ゼットンがテーブルを運び入れ、椅子を運び入れ、松明に蝋燭、ランプ…と細々と運ばせて。
「ヒュッテの火祭りでもやるのかい?」
「えへへ、よくわかりましたね。」
「もう秋だけど。」
「いいじゃないですか、そんなことは。」
完璧な拵えを見て嬉しそうに笑うレイチェルのために小舟を池に浮かべてやった。
そして全てが出来上がった日、俺とレイチェルは日没を待って舟で筏へと渡った。
あの東屋に付けられた舟に乗り込むとき、レイチェルの表情に影は落ちやしないか?と様子を伺うけれど、レイチェルは和かな笑みのまま、俺に手を取られて軽やかに舟へと乗り込む。
(…乗り越えたんだな。)
些細な事かもしれないけれど、死のうとまでした場所でもあったのに。
レイチェルが笑っている、それがなんとも嬉しい。
天幕の中にはテーブルと2脚の椅子。
どうやらサラが助言したらしい、たくさんの酒や料理が既に並べられていた。
拵えられた松明に灯りを灯していくと、無機質な王宮庭園の中の池が雅な雰囲気へと一変していく。
うん、悪くはない。
「じゃあ始めよう。」
「まだですよ。」
…どういう事だ?
「ヒュッテの火祭りは舟で行き来して社交を楽しむんですよね?」
「…そうだけど。」
椅子は2脚しか用意されていない。
「だから、詰めれば座れますよ、きっと。」
そういってレイチェルは微笑んだ。
そうか、そういうことか。
俺たちを乗せた舟は黙って東屋へと戻ってしまう。
きっと誰かを連れてまたここへやってくるのだろう。
予想通りならば…。
しばらくしてステファンがブリトーニャを伴ってやってきた。
俺たちの姿を見て、表情を曇らせたブリトーニャだったけれど、振り向いても既に舟はいない。
…ゼットンの奴、やりやがったな。レイチェルと共謀して、ブリトーニャの退路を断つつもりのようだ。
こうなってはもうレイチェルの思いのままだろう。もしかしたらステファンも噛んでいるのかもしれない。
さあさあ、と言いたげにレーチェが俺の袖口を引っ張る。
「来てくれてありがとう。諦めてもてなされてくれ。椅子も足りないけれど、それもまた許してくれ。
今夜はヒュッテ式でやらせて頂くよ。
酒だけは十分にあるようだ。飲んで舟を待つのも悪くはない。」
そうするしかないんだから。まあ仕方がないよな。
俺の膝の上にレイチェルが座り、ステファンの膝の上にブリトーニャが怖々と座る。
どこかぎこちない雰囲気で始まった「火祭り」の夜。
レイチェルが望むまま俺はレイチェルのグラスに酒を注ぎ続け、ブリトーニャの遠慮をものともせずステファンはブリトーニャのグラスに酒を注ぎ続けた。
今休みが必要なのはステファンなのと。
休みがなかなか取れない。
一方でなかなか仕事が回ってこないレイチェルは城で放っておかれがちな日々が続く。
その事を申し訳なく思い、そう伝えると、
「…では、ひとつだけワガママをさせていただいても良いですか?」
と上目遣いでおねだりされた。
珍しい…。
レイチェルが俺にお願い事をしてくるなんて。
「なんだ?」
「ゼットンを貸して下さい。あと少しお金を好きに使っても?」
ゼットンを?
「何を考えてる?」
「えーっと、それは後でのお楽しみという事です。」
なんかよくわからないけれど、レイチェルが楽しそうだから。
レイチェルが暴走しないかは心配だけど、ゼットンなら加減はわかるだろう。
「好きにするといい。」
レイチェルが笑っている、それだけで俺を嬉しい気分へと誘う、それもまた幸せなんだから。
レイチェルは技師たちを使ってあの池の中に筏を組んで、そこに天幕を張った。
釣りでもするのかと思ったら、ゼットンがテーブルを運び入れ、椅子を運び入れ、松明に蝋燭、ランプ…と細々と運ばせて。
「ヒュッテの火祭りでもやるのかい?」
「えへへ、よくわかりましたね。」
「もう秋だけど。」
「いいじゃないですか、そんなことは。」
完璧な拵えを見て嬉しそうに笑うレイチェルのために小舟を池に浮かべてやった。
そして全てが出来上がった日、俺とレイチェルは日没を待って舟で筏へと渡った。
あの東屋に付けられた舟に乗り込むとき、レイチェルの表情に影は落ちやしないか?と様子を伺うけれど、レイチェルは和かな笑みのまま、俺に手を取られて軽やかに舟へと乗り込む。
(…乗り越えたんだな。)
些細な事かもしれないけれど、死のうとまでした場所でもあったのに。
レイチェルが笑っている、それがなんとも嬉しい。
天幕の中にはテーブルと2脚の椅子。
どうやらサラが助言したらしい、たくさんの酒や料理が既に並べられていた。
拵えられた松明に灯りを灯していくと、無機質な王宮庭園の中の池が雅な雰囲気へと一変していく。
うん、悪くはない。
「じゃあ始めよう。」
「まだですよ。」
…どういう事だ?
「ヒュッテの火祭りは舟で行き来して社交を楽しむんですよね?」
「…そうだけど。」
椅子は2脚しか用意されていない。
「だから、詰めれば座れますよ、きっと。」
そういってレイチェルは微笑んだ。
そうか、そういうことか。
俺たちを乗せた舟は黙って東屋へと戻ってしまう。
きっと誰かを連れてまたここへやってくるのだろう。
予想通りならば…。
しばらくしてステファンがブリトーニャを伴ってやってきた。
俺たちの姿を見て、表情を曇らせたブリトーニャだったけれど、振り向いても既に舟はいない。
…ゼットンの奴、やりやがったな。レイチェルと共謀して、ブリトーニャの退路を断つつもりのようだ。
こうなってはもうレイチェルの思いのままだろう。もしかしたらステファンも噛んでいるのかもしれない。
さあさあ、と言いたげにレーチェが俺の袖口を引っ張る。
「来てくれてありがとう。諦めてもてなされてくれ。椅子も足りないけれど、それもまた許してくれ。
今夜はヒュッテ式でやらせて頂くよ。
酒だけは十分にあるようだ。飲んで舟を待つのも悪くはない。」
そうするしかないんだから。まあ仕方がないよな。
俺の膝の上にレイチェルが座り、ステファンの膝の上にブリトーニャが怖々と座る。
どこかぎこちない雰囲気で始まった「火祭り」の夜。
レイチェルが望むまま俺はレイチェルのグラスに酒を注ぎ続け、ブリトーニャの遠慮をものともせずステファンはブリトーニャのグラスに酒を注ぎ続けた。
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