修道院に行きたいんです

枝豆

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共犯

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話しながら、目的の東屋に着いた。
どこか苦しそうに東屋を見るステファン殿下、あまりの変わり様に目を見張る私。

「ここに来たかったのか?」
「ええ。ですがここ、随分と…荒れてますね。」
「ああ、最近は誰も近寄らない場所になっていた。」
東屋はあの時のまま手入れはされなくなって、雑草に蝕まれ土埃まみれになり薄汚れてしまっていた。
とてもお茶会をしたり、気軽に立ち寄れる場所には思えない。

「母はここに人が入るのを嫌がるようになった。だから誰も使わなくなった。」
「私のせいにしないで下さいね。」
「それは無理だろう。母も流石にそこまで厚顔では無い。」
誰かが死のうとした場所で優雅に過ごせる人は…いないか。
あっ、私がそう望んだんだ。…悪いことしちゃったのかも。

「ここは曽祖母のために曽祖父がヒュッテを模して作ったそうだ。」
「ヒュッテ、ですか?」
「ああそうだ、曽祖父と曽祖母はヒュッテでお見合いをしたんだそうだ。」
そうなんですか…。思い出の場所か、それはやっぱり悪いことをしてしまった。

「レーチェ達はヒュッテで湖上の社交をしたんだろう?」
「ええ、楽しかったですよ。」
「そうか、羨ましいな。ここしばらくどこにも出かけられていないし、夜会も茶会も息が詰まる。」

…聞いてます。ブリトーニャ様を伴う社交は辛辣なご婦人方が容赦なくブリトーニャ様に牙を剥いている、と。
それを気付かないようにして、ステファン殿下はブリトーニャ様を気遣っているが、それもまたご婦人方の格好の攻撃の的らしい。

そうだ!上書きだ!ここをまた楽しめる場所に出来る人がいるじゃ無いか!

「ステファン殿下、ここを私の好きにさせては貰えませんか?ここで何かしましょう、その…4人で。」
「4人で?」

「湖に船を浮かべて。ライナス公爵が招待しますから、ステファン殿下が招かれて下さいよ、その…奥様もご一緒に。」

そうだ、そうしよう。
きっと何もかもが変わる素敵な宴になるに違いない。
ポッと湧いた案だけど、それはとても素敵な案に思えた。

私じゃない、エルがやる。自領の風習を懐かしがったライナス公爵が、自分を召し抱える王子を招待する。

真意が伝わるとステファン殿下の口角が少し上がった。
「ここは意外に底が浅い。船は無理だ、せいぜいボートくらいだ。
ただ、人は歩けるから湖上に何かを建てることは出来る。
俺からエルを招待することも出来るが?」

ふふふ、共犯者を捕まえる事ができたらしい。
だったらエルにも驚いて貰えばいい。

「折れるのはいつだって貴族こちらなんです。それにライナス公爵領の習慣ですから、エルがやるべきなんだと思いますよ。」

そうだ、それがいい。
たくさんお酒を飲んで、たくさんお喋りして。
暗闇に揺らめく灯りに囲まれたら、過去なんて簡単に見えなくなってしまうに違いない。
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