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お出かけ
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そもそもの始まりは、自由にしてくれると言ったエルンスト殿下が、私を全く自由にしてくれなかったことから始まった。
「…礼拝?」
「はい!」
ライナス公爵領の領主屋敷があるブリューという街に来た、といっても。
私はお屋敷の敷地内から出た事がなかった。
ずっと王都にいたご領主が帰ってきたのだから、お仕事が山積みになっていた。
エルンスト殿下は、だけど。
「あともう少しで目処がつくから、もう少し待って。」
「あの案件が終わったら、少し時間ができるからもう少しだけ待って。」
居候の厄介者だから、大人しく待つ事にした私は、お屋敷の中や庭を散策して、サラやエッタを話し相手にお茶を飲んで1日の大半を過ごした。
…そして飽きた。
ただひたすら飽きた。
暇つぶしの刺繍の道具でも買いに行こうかと思ったら、翌日にはエルンスト殿下からプレゼントされてしまい…。
ブリューならではのお菓子を食べてみたいと思ったら、翌日のティータイムにはこれでもか!っと並べられて。
どうやらサラやエッタがこっそりとエルンスト殿下に告げ口してるらしく…。
街に出る口実は悉く取り上げられてしまう。
そして、ある日ふと思った。
「忙しいのはエルンスト殿下であって、私じゃない。」
「サラやエッタに情報を与えるから、エルンスト殿下に邪魔されるんじゃ…ない?」
って。
「出掛けて来てもいいですか?」
「ひとりで?」
「…はい。」
「ダメ!」
「じゃあ、エッタと…。」
「ダメ!」
サラは?ゼットンは?馬丁でもいいし、なんならその辺を走り回っている使用人の子供でもいい。
でもいつもエルンスト殿下の答えは「ダメ!」の一言だった。
とうとう「待って」でも無くなった。
これじゃお城にいた時とそんなに変わらないじゃない!!
そんなある日、私は見つけちゃったのだ。
「これ、クラリーチェ様の…?」
好きに漁って好きに使っていい、とエルンスト殿下が私に言ってくれたのは、クラリーチェ様がブリューに滞在する時のために残してあった衣装や小物だった。
と、いっても王弟殿下夫人、元は公爵令嬢のクラリーチェ様の服は派手過ぎて、様々な小物は繊細そうで、何よりどう見ても高価そうだった。
お屋敷の中で籠っていて誰にも会う予定もない私には不必要な高価なドレスを掻き分け、伯爵令嬢の私に合う地味なドレスを探している時に、衣装部屋の角の隅にまるで隠すように箱に仕舞われていたのが…。
「…お忍び用かしら?」
シンプルな木綿のワンピース、商会のというか、町娘が着そうなものだった。
ワンピースだけじゃなく、靴も鞄も帽子もひと揃えで仕舞われていた…。
そうだ!「お忍び」だ!
黙ってひとりで行けばいいじゃない。エルンスト殿下の許可を取ろうとするから外に出れないんだ!
「…怒るかしら…?」
と一瞬だけ躊躇して、それを打ち消した。
自由にして差し上げる、そう言ったはずのエルンスト殿下が約束を守らないのが悪いのだ!
私はそそくさとそのワンピースに着替えて、サラにもエッタにも見つからない事を祈りながら、使用人用の通路を通って…。
「あら、出れちゃった!」
私は勝手口近くの裏門の近くまで行くことが出来た。
問題はここから。
門の前には門番がいるから、トコトコと歩いて行っても通過させては貰えないだろう…。
…どうしようかなぁ。
どうやって門番に見つからないで外に出られるか?を植栽の茂みに隠れながら考えていた。
その時、門の中に荷馬車が入って来た。
幌の中には鉄缶、おそらくミルク缶だろうか。
配達!!
私は隠れていた茂みから、荷馬車の荷台に乗り込んで、腰の高さほどもあるミルク缶の影に潜んで…。
上手く行きますように!と神に祈った。
「…礼拝?」
「はい!」
ライナス公爵領の領主屋敷があるブリューという街に来た、といっても。
私はお屋敷の敷地内から出た事がなかった。
ずっと王都にいたご領主が帰ってきたのだから、お仕事が山積みになっていた。
エルンスト殿下は、だけど。
「あともう少しで目処がつくから、もう少し待って。」
「あの案件が終わったら、少し時間ができるからもう少しだけ待って。」
居候の厄介者だから、大人しく待つ事にした私は、お屋敷の中や庭を散策して、サラやエッタを話し相手にお茶を飲んで1日の大半を過ごした。
…そして飽きた。
ただひたすら飽きた。
暇つぶしの刺繍の道具でも買いに行こうかと思ったら、翌日にはエルンスト殿下からプレゼントされてしまい…。
ブリューならではのお菓子を食べてみたいと思ったら、翌日のティータイムにはこれでもか!っと並べられて。
どうやらサラやエッタがこっそりとエルンスト殿下に告げ口してるらしく…。
街に出る口実は悉く取り上げられてしまう。
そして、ある日ふと思った。
「忙しいのはエルンスト殿下であって、私じゃない。」
「サラやエッタに情報を与えるから、エルンスト殿下に邪魔されるんじゃ…ない?」
って。
「出掛けて来てもいいですか?」
「ひとりで?」
「…はい。」
「ダメ!」
「じゃあ、エッタと…。」
「ダメ!」
サラは?ゼットンは?馬丁でもいいし、なんならその辺を走り回っている使用人の子供でもいい。
でもいつもエルンスト殿下の答えは「ダメ!」の一言だった。
とうとう「待って」でも無くなった。
これじゃお城にいた時とそんなに変わらないじゃない!!
そんなある日、私は見つけちゃったのだ。
「これ、クラリーチェ様の…?」
好きに漁って好きに使っていい、とエルンスト殿下が私に言ってくれたのは、クラリーチェ様がブリューに滞在する時のために残してあった衣装や小物だった。
と、いっても王弟殿下夫人、元は公爵令嬢のクラリーチェ様の服は派手過ぎて、様々な小物は繊細そうで、何よりどう見ても高価そうだった。
お屋敷の中で籠っていて誰にも会う予定もない私には不必要な高価なドレスを掻き分け、伯爵令嬢の私に合う地味なドレスを探している時に、衣装部屋の角の隅にまるで隠すように箱に仕舞われていたのが…。
「…お忍び用かしら?」
シンプルな木綿のワンピース、商会のというか、町娘が着そうなものだった。
ワンピースだけじゃなく、靴も鞄も帽子もひと揃えで仕舞われていた…。
そうだ!「お忍び」だ!
黙ってひとりで行けばいいじゃない。エルンスト殿下の許可を取ろうとするから外に出れないんだ!
「…怒るかしら…?」
と一瞬だけ躊躇して、それを打ち消した。
自由にして差し上げる、そう言ったはずのエルンスト殿下が約束を守らないのが悪いのだ!
私はそそくさとそのワンピースに着替えて、サラにもエッタにも見つからない事を祈りながら、使用人用の通路を通って…。
「あら、出れちゃった!」
私は勝手口近くの裏門の近くまで行くことが出来た。
問題はここから。
門の前には門番がいるから、トコトコと歩いて行っても通過させては貰えないだろう…。
…どうしようかなぁ。
どうやって門番に見つからないで外に出られるか?を植栽の茂みに隠れながら考えていた。
その時、門の中に荷馬車が入って来た。
幌の中には鉄缶、おそらくミルク缶だろうか。
配達!!
私は隠れていた茂みから、荷馬車の荷台に乗り込んで、腰の高さほどもあるミルク缶の影に潜んで…。
上手く行きますように!と神に祈った。
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