修道院に行きたいんです

枝豆

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脱走

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「レイチェル様のお姿が見えません。」
サラの報告を聞いて、とうとうこの時が来たか…と落胆してしまう。
「だから、ご忠告申し上げたんです。あれではあまりにもお可哀想だ、と。」

サラはすっかりレーチェの味方だった。
外に出してやれ、とうるさいくらいに責め立てた。
領地に来てから一度もレイチェルを街に出した事がない。
だって、どこに行きたいのかといえば、「教会」なんて言うから…。
教会に行って司祭に会って、自分を受け入れてくれるところを探したい、と。

そんな事をされたらバレちゃうじゃないか。
レイチェルが書いている手紙を司祭が受け取っていない事は絶対レイチェルには知られちゃいけない!

どうして伝わらないんだろう。俺が本気でレイチェルを想って、レイチェルと共に生きていくと決めている事を、レイチェルはちっともわかってくれないままだ。

グチグチ言っても仕方がない、まずはレイチェルを探さないと!

「…行き先に心当たりは?」
「クラリーチェ様のの衣装箱がカラでした。」
「…衣装…?」

母が時折こっそりと街に出ている事は知ってる。というか連れ出してもらった事もある。
王都ではダメだけど、ブリューなら街の人々の暮らしを体感しても大丈夫だから、と。
そのための服一式がと母が呼んでいた事を思い出した。

迂闊だった。母がまだ残していたなんて…。
くそっ!きっとサラもわかっていて隠さなかったに違いない。

母と同じやり方…なら?と考えて。
「…今日の業者は?」
「業者じゃありません、おそらくハットンです。今日は配達の日でしたから。」
「ハットン?ってあのハットンか?」

飢饉や籠城、万が一に備えて公爵邸でも食料を確保するために色々と作ったり育てたりしている。ハットンもそれに従事するうちのひとりで主に乳牛の管理をしている。搾乳して余った牛乳を街の教会や孤児院に寄進させていた。

ハットンの皺のよった柔らかい笑顔を思い出した。
ハットンなら、間違いなくレイチェルを外に連れ出して、無事に連れて帰ってくれる。
かつての俺のように。
そう頭ではわかってるんだけど、行き先には不安しかない。孤児院と教会は隣同士にある。

「直ぐに探しに出掛ける。ゼットン!!」

そう言うと思っていた、とゼットンは既に馬の用意をしていた。
既に数人が街に捜索に出かけているとも言う。

馬を駆け巡らせて、街へと急ぐ。
こうなってはレイチェルが街歩きをする分には全く構わない。
買い物だって買い食いだって好きにすればいい。
だけど…。教会にだけは行かせたくない。
だから、脇目も振らずに教会を目指した。

そして。

キョロキョロしながら広場に入ってくるレイチェルを見つけた。

「見つけた!」
「いましたー!」

手の者がレイチェルを見つけて駆け出していく。俺も急いで駆けつけた。

レイチェルは驚き青褪めた顔で俺を見つめ…。
全く嬉しくはないとその目が十分に語りかけてくる。
邪魔しに来た!と。

「レーチェ、こんなところで何をしている。
帰るぞ。」

答えを聞きたくなくて、返事を待たずに抱き上げた。
もっと暴れるかと思ったけれど、意外にもレイチェルは大人しくなった。

「…殿下。どうして…?」
「…何が?」

どうしてバレたのか?
どうしてここに来たのか?
…どうして邪魔をするのか?

何が聞きたい?

「何がって…。いえ、なんでもありません。
ご迷惑をお掛けしました。」

レイチェルはそのまま俯いて黙り込んでしまった。

「…ついでだからどこかに寄るか?」
「…いえ、大丈夫です。ご迷惑をお掛けしました。」
「何か欲しいものでも…」
「いいえ、何も…。ごめんなさい。」

教会に行けなかったら、なんの意味もない…まるでそう言いたいかのように、レイチェルは俺の目も見ないまま、心の扉を固く閉ざしてしまった…らしい。

…やり直さないとな。

どこからやり直したらいいのかはわからないけれど、きっとこのままじゃ、なにも変わらないままな気がするんだ。

ゼットンやサラの進言もあって、ブリューの公爵邸から、ヒュッテという村の別荘へと拠点を変える事にした。
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