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理由
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「あはは…してやられたな。」
エルンスト殿下はお腹を抱えて笑っている。
笑い事じゃない!と私はさすがに怒りを含んだ視線をエルンスト殿下に向けたけれど、大笑いしているエルンスト殿下はちっとも気付いてくれない。
秋の外交と社交のシーズンが目前に迫っている中、女性王族の頭数が足りない。
クラリーチェ様が酷く私たちの結婚式を急ぐのはそんな訳だった。
まずアデリーナ様の結婚式がある。そのため王弟殿下夫妻はレスボートに行かなくてはならない。
平行してシュタインでも外交が行われる。こちらは例の島の条約の締結なので、国王陛下夫妻が参加する。
ブリトーニャ様のお里帰りも兼ねて、王太子夫妻も。
で。
秋の新成人のデビューのための夜会がある。
エルンスト殿下は新成人のためにダンスを踊らなくてはならない。
そして…。
「今年は新成人の子息の数が例年の倍もいるらしい。」
と教えられた。
ステファン殿下の婚約者選定が行われるため、ここ数年は多少の無理は承知で子息のデビューは見送る家が多かったのだそうだ。
そりゃそうだろう。
意気込んで参加した夜会で、浮かれた若者が何をしでかすかわからない。
父親達は揉め事を回避したいと思ったのだろう。
万が一王子達と恋の鞘当てでも起こされたら、自身の首が飛ぶ。
今年はもうステファン殿下もエルンスト殿下も婚約者をお決めになった。だから安心して子息達はデビューが出来るし、ご令嬢達も淡い夢に引き摺られることなく、自分の伴侶探しに没頭できる。
「では私がダンスのお相手するって事ですか?」
「うん、そうだね。」
たかがダンス要員として召し出すために!?
「そんな理由…で?」
「…多分違う。そうでもしないと…。背中を押してくれた、とは思ってはもらえないか?」
…背中を押した…か。
「この…ドレスは母が着たものだ。手直しだけして結婚式で着て欲しい。母も喜ぶ。」
いや、ドレスには拘らないんだけど。ましてクラリーチェ様がお召しになったドレスを着させて頂けるなんて光栄の極みだとは思う。
「…お城じゃなくていいんですか?王都の大聖堂じゃなくても?」
「レーチェはそっちの方が良かったの?」
「そういう訳じゃ…。そうじゃなくて、エルンスト殿下は?」
「俺!?」
わたしの事はどうでもいい。そもそも結婚すら一度は諦めた身だ。
でもエルンスト殿下は違う。
ステファン殿下は王都の大聖堂で大司教の立ち会いで、多くの貴族を招いて…。それはそれは盛大に行われるだろうに。
一方でエルンスト殿下は領地邸の礼拝堂でごくごく限られた人の前で宣誓することになる。
本来ならエルンスト殿下もステファン殿下に引けをとらない結婚式があったはずだ。エルンストにはきちんとしなければならない責任が伴う身分なのだから。
「俺は…そんなことはどうでもいい。花嫁がレーチェで、両親達が祝福してくれるなら。それだけで充分だと思うよ。
披露目は城できちんとやるだろう、新年当たりじゃないかな。
…ダメかな?」
「別に構わないですよ、殿下がそれで宜しければ。」
「…では、そのように。明日を楽しみにしてるよ。」
…無理してそうだな。殿下の表情が冴えない。
ちっとも嬉しそうには見えないんだけど…。
本当に良いのかしら?
そう思った迷いは飲み込むことにした。
今更クラリーチェ様に嫌だなんて言えるはずもない。
それに。
タイミングが狂ったから、私はあんな思いをして、今ここに居る。
まさか神に誓いを立ててからやっぱりなかった事に…とはならない。
…ならない…よね?
選んだドレスを着ることよりも、拘った装飾で飾り付けることよりも、たいして親しくもない人を招くことよりも…もっと大切な事がある。
「レーチェ、約束する、誰よりも君を幸せにしてみせる。俺はレーチェがいるだけで幸せになれる。
だから、明日俺と結婚式を挙げてくれる?」
その言葉だけで十分満たされる。
「もちろんです。よろしくお願いします。」
頬に軽いキスを受けて、キスを返して、その夜は眠りにつくことになった。
…なんて情けない。
エルンストは眠れぬ夜を過ごしていた。
本当なら。
結婚式に向けてアレコレと2人で相談したり選んだり、時には揉めたりなんかして…少しずつ気持ちを昂らせて、少しずつ気持ちを固めながら、指折り数えて式を迎える…んだと思っていた。
特に女性は…。
あっさりとレイチェルは明日の結婚式を受け入れた。
拘りはないということは、どうでもいいという事と同意。
結婚式がどうでもいいということは、俺のことがどうでもいいという事…じゃない、じゃない。
情けない、今俺は気持ちが負けている。
大丈夫、大丈夫。
そうじゃない。そういう事じゃない!
そうだよな、そのはず…だよな。そうであってくれ…。
「秋まで、そういってあったはずだよ。それ以上は待ってはあげられない。」
ステファンからの召喚状を無視すると決めた時、父から言われていた。
あはは、秋までなんか必要無いですよ。
あの時はそう思っていたから、そう言ったんだけど。
約束通り、いや思っていたよりも早くに、父母が乗り込んできてしまった。
ダンスの相手なんて幾らでもいるだろうに…。
そんな見え透いた嘘まで用意して。
…ねえ、レイチェル。
本当に君は…それで良いのかい?
エルンスト殿下はお腹を抱えて笑っている。
笑い事じゃない!と私はさすがに怒りを含んだ視線をエルンスト殿下に向けたけれど、大笑いしているエルンスト殿下はちっとも気付いてくれない。
秋の外交と社交のシーズンが目前に迫っている中、女性王族の頭数が足りない。
クラリーチェ様が酷く私たちの結婚式を急ぐのはそんな訳だった。
まずアデリーナ様の結婚式がある。そのため王弟殿下夫妻はレスボートに行かなくてはならない。
平行してシュタインでも外交が行われる。こちらは例の島の条約の締結なので、国王陛下夫妻が参加する。
ブリトーニャ様のお里帰りも兼ねて、王太子夫妻も。
で。
秋の新成人のデビューのための夜会がある。
エルンスト殿下は新成人のためにダンスを踊らなくてはならない。
そして…。
「今年は新成人の子息の数が例年の倍もいるらしい。」
と教えられた。
ステファン殿下の婚約者選定が行われるため、ここ数年は多少の無理は承知で子息のデビューは見送る家が多かったのだそうだ。
そりゃそうだろう。
意気込んで参加した夜会で、浮かれた若者が何をしでかすかわからない。
父親達は揉め事を回避したいと思ったのだろう。
万が一王子達と恋の鞘当てでも起こされたら、自身の首が飛ぶ。
今年はもうステファン殿下もエルンスト殿下も婚約者をお決めになった。だから安心して子息達はデビューが出来るし、ご令嬢達も淡い夢に引き摺られることなく、自分の伴侶探しに没頭できる。
「では私がダンスのお相手するって事ですか?」
「うん、そうだね。」
たかがダンス要員として召し出すために!?
「そんな理由…で?」
「…多分違う。そうでもしないと…。背中を押してくれた、とは思ってはもらえないか?」
…背中を押した…か。
「この…ドレスは母が着たものだ。手直しだけして結婚式で着て欲しい。母も喜ぶ。」
いや、ドレスには拘らないんだけど。ましてクラリーチェ様がお召しになったドレスを着させて頂けるなんて光栄の極みだとは思う。
「…お城じゃなくていいんですか?王都の大聖堂じゃなくても?」
「レーチェはそっちの方が良かったの?」
「そういう訳じゃ…。そうじゃなくて、エルンスト殿下は?」
「俺!?」
わたしの事はどうでもいい。そもそも結婚すら一度は諦めた身だ。
でもエルンスト殿下は違う。
ステファン殿下は王都の大聖堂で大司教の立ち会いで、多くの貴族を招いて…。それはそれは盛大に行われるだろうに。
一方でエルンスト殿下は領地邸の礼拝堂でごくごく限られた人の前で宣誓することになる。
本来ならエルンスト殿下もステファン殿下に引けをとらない結婚式があったはずだ。エルンストにはきちんとしなければならない責任が伴う身分なのだから。
「俺は…そんなことはどうでもいい。花嫁がレーチェで、両親達が祝福してくれるなら。それだけで充分だと思うよ。
披露目は城できちんとやるだろう、新年当たりじゃないかな。
…ダメかな?」
「別に構わないですよ、殿下がそれで宜しければ。」
「…では、そのように。明日を楽しみにしてるよ。」
…無理してそうだな。殿下の表情が冴えない。
ちっとも嬉しそうには見えないんだけど…。
本当に良いのかしら?
そう思った迷いは飲み込むことにした。
今更クラリーチェ様に嫌だなんて言えるはずもない。
それに。
タイミングが狂ったから、私はあんな思いをして、今ここに居る。
まさか神に誓いを立ててからやっぱりなかった事に…とはならない。
…ならない…よね?
選んだドレスを着ることよりも、拘った装飾で飾り付けることよりも、たいして親しくもない人を招くことよりも…もっと大切な事がある。
「レーチェ、約束する、誰よりも君を幸せにしてみせる。俺はレーチェがいるだけで幸せになれる。
だから、明日俺と結婚式を挙げてくれる?」
その言葉だけで十分満たされる。
「もちろんです。よろしくお願いします。」
頬に軽いキスを受けて、キスを返して、その夜は眠りにつくことになった。
…なんて情けない。
エルンストは眠れぬ夜を過ごしていた。
本当なら。
結婚式に向けてアレコレと2人で相談したり選んだり、時には揉めたりなんかして…少しずつ気持ちを昂らせて、少しずつ気持ちを固めながら、指折り数えて式を迎える…んだと思っていた。
特に女性は…。
あっさりとレイチェルは明日の結婚式を受け入れた。
拘りはないということは、どうでもいいという事と同意。
結婚式がどうでもいいということは、俺のことがどうでもいいという事…じゃない、じゃない。
情けない、今俺は気持ちが負けている。
大丈夫、大丈夫。
そうじゃない。そういう事じゃない!
そうだよな、そのはず…だよな。そうであってくれ…。
「秋まで、そういってあったはずだよ。それ以上は待ってはあげられない。」
ステファンからの召喚状を無視すると決めた時、父から言われていた。
あはは、秋までなんか必要無いですよ。
あの時はそう思っていたから、そう言ったんだけど。
約束通り、いや思っていたよりも早くに、父母が乗り込んできてしまった。
ダンスの相手なんて幾らでもいるだろうに…。
そんな見え透いた嘘まで用意して。
…ねえ、レイチェル。
本当に君は…それで良いのかい?
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