50 / 100
眠れない夜
しおりを挟む
結婚式の余韻に浸る間も無く急き立てられるようにブリューから3日掛けてお城へと戻ってきた私とエルンスト殿下の王都到着は特に大きな式典のようなものはなくひっそりとしたものになった。
到着したのが夜だったからだ。
本来なら、エルンスト殿下は国王陛下への帰城の挨拶をしなければならないのだけれど、これも割愛された。
陛下達もう寝てるって!
ただ国民に向けて大公子息エルンスト殿下の結婚報告と、祝宴は新年に持ち越される事だけが文章のみで発表されたらしい。
…発布されたんだ。
ステファン殿下とは超えられなかった壁を知らない間に超えてしまっていたことを知って、その呆気なさに体から力が抜けた。
「疲れた?」
「うーん、そうじゃなくて…。ううん、そうかも。」
見慣れたはずのお城の中、見るものいるのも嫌だったお城の中に、違う立場になって戻ってきたから。
なんか変な感じ。
私達はかつてエルンスト殿下が住んでいた部屋とその周りに幾つかの部屋を割り当てられ、そこに入る事になった。
かつて、私がエルンスト殿下と大芝居を打ったあの部屋が私の部屋になった。
「…懐かしいな。」
と部屋を見渡すエルンスト殿下に対し、あの時の私のアレやコレを思い出してしまいなかなか居心地が悪い。
それなのに、
「疲れたから、今夜はゆっくり休んで。」
とエルンスト殿下は私をベッドに横にさせるとさっさと自分の部屋に戻っていった。
…落ち着かない。
あの日、あの時の、切羽詰まってやらかしたアレやコレやが瞑った瞼の裏に甦る。
あの時の切迫詰まった気持ち、ステファン殿下の怒鳴り声、クラリーチェ様の冷たい声が聞こえてくるような…。
「…ダメだ。寝れない。」
私は寝ることを諦めた。
前にもこんな夜があったな…。
あの頃はひとりになりたくて…。今は?
行こうっ。
私は起き上がり、ガウンを羽織って部屋を出た。
…ダメだ、眠れない。
疲れているだろうと、早々にレイチェルをベッドに入れて自分の部屋に戻ってきた。
レイチェルはあの部屋で眠れるのだろうか。
なんでよりによってあの部屋なんだ。レイチェルの部屋があの部屋なんだ。
そう思うだけでイライラしてくる。
…わかっている。
そもそもが、俺の伴侶のための部屋だった。だからあの部屋を使った…。失敗だったのかもしれない。
あの部屋は結局は参加しなかった婚約者選定の際に整えられたばかりで、新たに改装する予算は出ない。
貴族の棟だったら良かったのに…。
ライナス公爵として貴族の棟に入るつもりだったのに。
「ダメよ、レイチェルが王族になったと皆に覚悟してもらわないとならないんだから。」
カトリーナ様がそう決めた。
皆じゃないだろう、覚悟させたいのはたったのひとり。
忌々しい、シュテインの姫。
未だにレイチェルを認めようとはしてないのか…?
上を向いて寝られなくて、右を向いてやり過ごして、寝返りして左を向いて…。
目を瞑っても睡魔はちっともやっては来ない。
ペタペタと隣の部屋から聞こえる足音で、レイチェルがやはり眠れないでいることに気付く。
…大丈夫か?どこかに行ってしまったりはしないだろうか。
心配で隣の部屋の足音に耳を澄ませた。
ガチャ
ギー
隣部屋への扉が開かれる音に弾かれて身体を起こした。
「起こしちゃった?」
細く開かれた扉からレイチェルが顔を覗かせていた。
「…いいや、起きてたよ。どうした?」
「あのね…。」
扉の隙間が広がって、ガウン姿のレイチェルが部屋の中に入ってきた。
手には…枕?
「…一緒に寝てもいい?」
可愛らしくお伺いを立ててくるレイチェル、ふわぁっと何かが俺の胸を満たしていく。
「もちろん。おいで。」
掛布を少し捲って見せると、レイチェルはちょこちょこと小走りでベッドに来て、するりと中に潜り込んで。
「ふふ、やっぱりあったかぁーい。」
と微笑んだ。
「眠れなかった?」
「うん、なんか目が冴えちゃって…。」
そうか、じゃあ少しだけ。
…と思って体をレイチェルの方に向けて腕を伸ばしてレイチェルの体を包み込んで…。
「…おやすみ。」
とレイチェルは俺の胸に額をくっ付けると瞼を閉じる。
俺、男だから、ちょっとだけ期待したんだけど…。まっ、いいか。
こういうのも悪くはない。
規則的なレイチェルの寝息を聞いていると、ようやく睡魔がやってきそうだから。
到着したのが夜だったからだ。
本来なら、エルンスト殿下は国王陛下への帰城の挨拶をしなければならないのだけれど、これも割愛された。
陛下達もう寝てるって!
ただ国民に向けて大公子息エルンスト殿下の結婚報告と、祝宴は新年に持ち越される事だけが文章のみで発表されたらしい。
…発布されたんだ。
ステファン殿下とは超えられなかった壁を知らない間に超えてしまっていたことを知って、その呆気なさに体から力が抜けた。
「疲れた?」
「うーん、そうじゃなくて…。ううん、そうかも。」
見慣れたはずのお城の中、見るものいるのも嫌だったお城の中に、違う立場になって戻ってきたから。
なんか変な感じ。
私達はかつてエルンスト殿下が住んでいた部屋とその周りに幾つかの部屋を割り当てられ、そこに入る事になった。
かつて、私がエルンスト殿下と大芝居を打ったあの部屋が私の部屋になった。
「…懐かしいな。」
と部屋を見渡すエルンスト殿下に対し、あの時の私のアレやコレを思い出してしまいなかなか居心地が悪い。
それなのに、
「疲れたから、今夜はゆっくり休んで。」
とエルンスト殿下は私をベッドに横にさせるとさっさと自分の部屋に戻っていった。
…落ち着かない。
あの日、あの時の、切羽詰まってやらかしたアレやコレやが瞑った瞼の裏に甦る。
あの時の切迫詰まった気持ち、ステファン殿下の怒鳴り声、クラリーチェ様の冷たい声が聞こえてくるような…。
「…ダメだ。寝れない。」
私は寝ることを諦めた。
前にもこんな夜があったな…。
あの頃はひとりになりたくて…。今は?
行こうっ。
私は起き上がり、ガウンを羽織って部屋を出た。
…ダメだ、眠れない。
疲れているだろうと、早々にレイチェルをベッドに入れて自分の部屋に戻ってきた。
レイチェルはあの部屋で眠れるのだろうか。
なんでよりによってあの部屋なんだ。レイチェルの部屋があの部屋なんだ。
そう思うだけでイライラしてくる。
…わかっている。
そもそもが、俺の伴侶のための部屋だった。だからあの部屋を使った…。失敗だったのかもしれない。
あの部屋は結局は参加しなかった婚約者選定の際に整えられたばかりで、新たに改装する予算は出ない。
貴族の棟だったら良かったのに…。
ライナス公爵として貴族の棟に入るつもりだったのに。
「ダメよ、レイチェルが王族になったと皆に覚悟してもらわないとならないんだから。」
カトリーナ様がそう決めた。
皆じゃないだろう、覚悟させたいのはたったのひとり。
忌々しい、シュテインの姫。
未だにレイチェルを認めようとはしてないのか…?
上を向いて寝られなくて、右を向いてやり過ごして、寝返りして左を向いて…。
目を瞑っても睡魔はちっともやっては来ない。
ペタペタと隣の部屋から聞こえる足音で、レイチェルがやはり眠れないでいることに気付く。
…大丈夫か?どこかに行ってしまったりはしないだろうか。
心配で隣の部屋の足音に耳を澄ませた。
ガチャ
ギー
隣部屋への扉が開かれる音に弾かれて身体を起こした。
「起こしちゃった?」
細く開かれた扉からレイチェルが顔を覗かせていた。
「…いいや、起きてたよ。どうした?」
「あのね…。」
扉の隙間が広がって、ガウン姿のレイチェルが部屋の中に入ってきた。
手には…枕?
「…一緒に寝てもいい?」
可愛らしくお伺いを立ててくるレイチェル、ふわぁっと何かが俺の胸を満たしていく。
「もちろん。おいで。」
掛布を少し捲って見せると、レイチェルはちょこちょこと小走りでベッドに来て、するりと中に潜り込んで。
「ふふ、やっぱりあったかぁーい。」
と微笑んだ。
「眠れなかった?」
「うん、なんか目が冴えちゃって…。」
そうか、じゃあ少しだけ。
…と思って体をレイチェルの方に向けて腕を伸ばしてレイチェルの体を包み込んで…。
「…おやすみ。」
とレイチェルは俺の胸に額をくっ付けると瞼を閉じる。
俺、男だから、ちょっとだけ期待したんだけど…。まっ、いいか。
こういうのも悪くはない。
規則的なレイチェルの寝息を聞いていると、ようやく睡魔がやってきそうだから。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」
その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。
「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる