修道院に行きたいんです

枝豆

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眠れない夜

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結婚式の余韻に浸る間も無く急き立てられるようにブリューから3日掛けてお城へと戻ってきた私とエルンスト殿下の王都到着は特に大きな式典のようなものはなくひっそりとしたものになった。
到着したのが夜だったからだ。

本来なら、エルンスト殿下は国王陛下への帰城の挨拶をしなければならないのだけれど、これも割愛された。
陛下達もう寝てるって!

ただ国民に向けて大公子息エルンスト殿下の結婚報告と、祝宴は新年に持ち越される事だけが文章のみで発表されたらしい。

…発布されたんだ。
ステファン殿下とは超えられなかった壁を知らない間に超えてしまっていたことを知って、その呆気なさに体から力が抜けた。

「疲れた?」
「うーん、そうじゃなくて…。ううん、そうかも。」

見慣れたはずのお城の中、見るものいるのも嫌だったお城の中に、違う立場になって戻ってきたから。
なんか変な感じ。

私達はかつてエルンスト殿下が住んでいた部屋とその周りに幾つかの部屋を割り当てられ、そこに入る事になった。
かつて、私がエルンスト殿下と大芝居を打ったあの部屋が私の部屋になった。

「…懐かしいな。」
と部屋を見渡すエルンスト殿下に対し、あの時の私のアレやコレを思い出してしまいなかなか居心地が悪い。

それなのに、
「疲れたから、今夜はゆっくり休んで。」
とエルンスト殿下は私をベッドに横にさせるとさっさと自分の部屋に戻っていった。

…落ち着かない。
あの日、あの時の、切羽詰まってやらかしたアレやコレやが瞑った瞼の裏に甦る。
あの時の切迫詰まった気持ち、ステファン殿下の怒鳴り声、クラリーチェ様の冷たい声が聞こえてくるような…。

「…ダメだ。寝れない。」
私は寝ることを諦めた。

前にもこんな夜があったな…。
あの頃はひとりになりたくて…。今は?

行こうっ。
私は起き上がり、ガウンを羽織って部屋を出た。




…ダメだ、眠れない。
疲れているだろうと、早々にレイチェルをベッドに入れて自分の部屋に戻ってきた。
レイチェルはあの部屋で眠れるのだろうか。
なんでよりによってあの部屋なんだ。レイチェルの部屋があの部屋なんだ。
そう思うだけでイライラしてくる。

…わかっている。
そもそもが、俺の伴侶のための部屋だった。だからあの部屋を使った…。失敗だったのかもしれない。
あの部屋は結局は参加しなかった婚約者選定の際に整えられたばかりで、新たに改装する予算は出ない。
貴族の棟だったら良かったのに…。
ライナス公爵として貴族の棟に入るつもりだったのに。

「ダメよ、レイチェルが王族になったとに覚悟してもらわないとならないんだから。」
カトリーナ様がそう決めた。
じゃないだろう、覚悟させたいのはたったのひとり。
忌々しい、シュテインの姫。
未だにレイチェルを認めようとはしてないのか…?

上を向いて寝られなくて、右を向いてやり過ごして、寝返りして左を向いて…。
目を瞑っても睡魔はちっともやっては来ない。

ペタペタと隣の部屋から聞こえる足音で、レイチェルがやはり眠れないでいることに気付く。
…大丈夫か?どこかに行ってしまったりはしないだろうか。
心配で隣の部屋の足音に耳を澄ませた。

ガチャ
ギー

隣部屋への扉が開かれる音に弾かれて身体を起こした。
「起こしちゃった?」
細く開かれた扉からレイチェルが顔を覗かせていた。

「…いいや、起きてたよ。どうした?」
「あのね…。」

扉の隙間が広がって、ガウン姿のレイチェルが部屋の中に入ってきた。
手には…枕?

「…一緒に寝てもいい?」
可愛らしくお伺いを立ててくるレイチェル、ふわぁっと何かが俺の胸を満たしていく。

「もちろん。おいで。」
掛布を少し捲って見せると、レイチェルはちょこちょこと小走りでベッドに来て、するりと中に潜り込んで。
「ふふ、やっぱりあったかぁーい。」
と微笑んだ。

「眠れなかった?」
「うん、なんか目が冴えちゃって…。」

そうか、じゃあ少しだけ。
…と思って体をレイチェルの方に向けて腕を伸ばしてレイチェルの体を包み込んで…。
「…おやすみ。」
とレイチェルは俺の胸に額をくっ付けると瞼を閉じる。

俺、男だから、ちょっとだけ期待したんだけど…。まっ、いいか。
こういうのも悪くはない。
規則的なレイチェルの寝息を聞いていると、ようやく睡魔がやってきそうだから。
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