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再会
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お城の裏の方にライナス領と同じく備蓄目的で食糧を作っている小さな農場がある。
シュタインと戦になった時の前線があの島になるため、ここの人達があちらに移動して島の食糧の備えを始める計画が出て来ている。
今まで自給していた食料が無くなり、それを市場から購入する事になるかもしれない、厨房の食糧購入費2割増しの理由のひとつだと教えて貰った。
まずはこの目で見て確かめてみよう、と思った事がある。
ここの人達はどう思っているのだろう…。
おそらく最後の砦となる王城から最前線への配置換えになる。
気軽なお引越しでは決してない。
そんな思いを抱えながら、農場へと来たのだけれど。
あっ。
既に農夫と話している人が…ステファン殿下だった。
どうしよう…と迷ったけれど、気配に気付かれたらしく、ステファン殿下が振り返って私の存在に気付いてしまった。
時間が止まった。
止まった時を動かしたのはステファン殿下の方だった。
「…おかえり。」
…ただいまとは言いたくなかった。
ステファン殿下から逃げて、気持ちの整理を付けてここに帰ってきたんじゃない。
「お初にお目に掛かります。レイチェル・フィリア・ライナスでございます。」
…ステファン殿下はわかってくれるだろうか。
コホン、とひとつ咳払いをして、ステファン殿下は、
「…失礼した。ステファン・グレーナル、この国の王太子だ。
妃の召喚に応じて城に来てくれた事に感謝する。」
「勿体なきお言葉でございます。」
「うむ。頭を上げてくれ。」
ステファン殿下からの言葉を受けて私は立ち上がった。
これが今の私達の距離だ。
王太子と臣下。
しかしステファン殿下は、
「レーチェ、これから俺たちは長い付き合いになる。あまり他人行儀ではやりにくい…。普通の態度を頼んでもいいか?」
「はい。お望みのままに。」
良かった。ステファン殿下は理解してくれた。
私はライナス公爵の妻、エルンスト殿下の妃としてここへ新たな気持ちでやってきたんだ、って。
ほぉーっと安堵の息を大きく吐き出した。
「もう身体の方は大丈夫なのか?」
「はい、もうすっかりと。」
「…そうか、それは良かった。すまなかったな、母が…。」
避妊薬を飲まされたこと、それは理解している。私自ら望んだ部分もあったと思う。
「こちらこそ何もかも放り出して逃げたんですから、お互い様です。過去の事です。忘れて下さい。」
それだけじゃない、アレもコレも全部が過去の事だ。
それよりも…。
「殿下はここで何を?」
「ああ、そうだ。ここを移転する計画があって…。」
「ええ、それは聞きました。クラリーチェ様から少し調べてみろ、と。」
「…レイチェルが?」
食糧購入費の件を話したところ、ステファン殿下は納得してくれた。
お城の内向きの采配はカトリーナ様が担われていて、それをクラリーチェ様を通して私に与えられた事になる。
一方で、ステファン殿下は軍事方面から、ここを残すか無くすかを検討しているらしい。
あの島の開発設計はステファン殿下の担当になったらしい。
「城の内向きの財務は基本はブリトーニャに任せなければならないのだが…まだダメだ。」
「…何故ですか?」
「それは…。」
口籠るステファン殿下の様子で察した。
「私に相談する気がないから…ですか?」
そういうと、バツが悪そうに俯かれてしまった。
「クラリーチェ様はそう伝えたのか。
…すまない、まだまだアイツは不器用なんだ。もうしばらく待ってやってくれるか?」
「…ええ、理解しています。」
おいおいでいい、クラリーチェ様は、ううん、おそらくカトリーナ様とお二人で、そうお決めになったのだと思う。
…アイツか。
ブリトーニャ様をそう呼んで気遣われるステファン殿下の姿を垣間見て…。
嬉しく思う自分に驚いた。
シュタインと戦になった時の前線があの島になるため、ここの人達があちらに移動して島の食糧の備えを始める計画が出て来ている。
今まで自給していた食料が無くなり、それを市場から購入する事になるかもしれない、厨房の食糧購入費2割増しの理由のひとつだと教えて貰った。
まずはこの目で見て確かめてみよう、と思った事がある。
ここの人達はどう思っているのだろう…。
おそらく最後の砦となる王城から最前線への配置換えになる。
気軽なお引越しでは決してない。
そんな思いを抱えながら、農場へと来たのだけれど。
あっ。
既に農夫と話している人が…ステファン殿下だった。
どうしよう…と迷ったけれど、気配に気付かれたらしく、ステファン殿下が振り返って私の存在に気付いてしまった。
時間が止まった。
止まった時を動かしたのはステファン殿下の方だった。
「…おかえり。」
…ただいまとは言いたくなかった。
ステファン殿下から逃げて、気持ちの整理を付けてここに帰ってきたんじゃない。
「お初にお目に掛かります。レイチェル・フィリア・ライナスでございます。」
…ステファン殿下はわかってくれるだろうか。
コホン、とひとつ咳払いをして、ステファン殿下は、
「…失礼した。ステファン・グレーナル、この国の王太子だ。
妃の召喚に応じて城に来てくれた事に感謝する。」
「勿体なきお言葉でございます。」
「うむ。頭を上げてくれ。」
ステファン殿下からの言葉を受けて私は立ち上がった。
これが今の私達の距離だ。
王太子と臣下。
しかしステファン殿下は、
「レーチェ、これから俺たちは長い付き合いになる。あまり他人行儀ではやりにくい…。普通の態度を頼んでもいいか?」
「はい。お望みのままに。」
良かった。ステファン殿下は理解してくれた。
私はライナス公爵の妻、エルンスト殿下の妃としてここへ新たな気持ちでやってきたんだ、って。
ほぉーっと安堵の息を大きく吐き出した。
「もう身体の方は大丈夫なのか?」
「はい、もうすっかりと。」
「…そうか、それは良かった。すまなかったな、母が…。」
避妊薬を飲まされたこと、それは理解している。私自ら望んだ部分もあったと思う。
「こちらこそ何もかも放り出して逃げたんですから、お互い様です。過去の事です。忘れて下さい。」
それだけじゃない、アレもコレも全部が過去の事だ。
それよりも…。
「殿下はここで何を?」
「ああ、そうだ。ここを移転する計画があって…。」
「ええ、それは聞きました。クラリーチェ様から少し調べてみろ、と。」
「…レイチェルが?」
食糧購入費の件を話したところ、ステファン殿下は納得してくれた。
お城の内向きの采配はカトリーナ様が担われていて、それをクラリーチェ様を通して私に与えられた事になる。
一方で、ステファン殿下は軍事方面から、ここを残すか無くすかを検討しているらしい。
あの島の開発設計はステファン殿下の担当になったらしい。
「城の内向きの財務は基本はブリトーニャに任せなければならないのだが…まだダメだ。」
「…何故ですか?」
「それは…。」
口籠るステファン殿下の様子で察した。
「私に相談する気がないから…ですか?」
そういうと、バツが悪そうに俯かれてしまった。
「クラリーチェ様はそう伝えたのか。
…すまない、まだまだアイツは不器用なんだ。もうしばらく待ってやってくれるか?」
「…ええ、理解しています。」
おいおいでいい、クラリーチェ様は、ううん、おそらくカトリーナ様とお二人で、そうお決めになったのだと思う。
…アイツか。
ブリトーニャ様をそう呼んで気遣われるステファン殿下の姿を垣間見て…。
嬉しく思う自分に驚いた。
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