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灰色の服
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マリアンのお店は村の商店が並んでいる数軒のうちの一軒だった。粉屋、雑貨屋、服屋、八百屋…お店は少ないけれど、並んでいる品物はしっかりとした良い品ばかりだ。
…だけど我慢。寄り道しないという約束を思い出して耐える。
マリアンの店の奥には様々な反物が並んでいた。
殆どは綿。村の人々が町に出かけたりする時に着るための服地。けれど意外な事に絹も充実していた。これは夏の避暑に訪れた人達用らしい。
そして、濃いのから薄いのまで灰色の服地がある一角を埋め尽くしていた。
その用途は流石に私でもすぐにわかった。
「マリアン、これは礼拝用よね。」
「ええ、そうですよ。」
何の気なしに灰色の木綿の布を手に取った。
「レイチェル様?」
サラの様子がおかしい。どこか慌てたような?
「レイチェル様、今日はクラリーチェ様からの…。」
「ええ、それはわかってる。」
わかってるんだけど。
思い出しちゃったんだもの。私は礼拝用の服を持ってないって。
「マリアン、礼拝用の服もお願い出来る?」
「ええ、構いませんよ。」
「マリアン様!ダメですってば!」
…何故?エルンスト殿下は何着でも良いって。
3着というのなら、外出着を礼拝用に変えてもいいとも思うんだけど。
「サラ。今、私に必要なのは礼拝用よ。」
「必要ありません!」
涙混じりになりかけているサラはやっぱり変だ。
「サラ?どうしたの?」
「レイチェル様…。私は、いいえ、エルンスト殿下は…。」
「エルンスト殿下が何?」
エルンスト殿下は正教徒じゃないのかしら?いいえ、違うわ。王族は正教徒の職務も担っているはずだもの。ただ…。
「この辺りは伝統的な礼拝を行っている、違う?」
マリアンに尋ねた。
「ええ、そうですよ。あっ、王都の方は略式なんですよね。そうそう、クラリーチェ様もブルーノ殿下もそうでしたもの。ご結婚されて直ぐにこちらでの礼拝用にお召し物を拵えさせて頂いて。懐かしいですわ、あれならもう30年近く経つなんて。それから数年おきに必ず私に礼拝服をご注文くださるんですよ、エルンスト殿下は…昨年お作りになられたばかりですから、今年はお作りにはならないかもしれませんわね。」
…でしょう?頑なに略式に拘るお人でもなさそうだわ。
なのに私は一枚も礼拝用の服を持っていない。これはマズイのではないだろうか?
灰色の服を着て礼拝に参列するのはキッテンの国教の正教派の伝統的スタイルだ。
貧富の差が激しい王都では式服の着用は義務ではない。
また似たような色味で同じようなデザインの服は生地や仕立てで格差が出やすい事もあり、貴族もいつしか着なくなった。競い合う事は教会の本意とするところではないからだ。
でも、この村では頑なにそれが守られているらしいし、長く着られる服が欲しいのだから礼拝用の服はピッタリお誂え向きだと思うのに。
何故サラがこんなに反対するのかがわからない。
「なんかよくわかりませんけどね。ライナス公爵領の歴代の領主様は正教派ですからね、礼拝用の服は持っていても良いと思いますけどね。」
私とサラのやりとりを横で聞いていたマリアンも私の味方になってくれた。
「あなたはお黙りなさい!」
サラがピシャリと言い放った。
サラにしては珍しい、高飛車に過ぎる物言いだった。
「サラ?本当にあなた変よ?」
「今日は、夜会服と外出着を作るんですよね。だからエルンスト殿下はレイチェル様をここに送り出してくれた。」
「ええ、そうね。」
「どこにも寄らず必ずお屋敷に帰る、そういうお約束でした。」
「ええ、そうね。」
「何故、礼拝用の服をお作りになるなんて仰るのですか?」
「えっ!?なんでって…。」
持ってないから。
「それを着てどこへ行かれるおつもりだと仰るんですか?」
「えっ、それは…。」
教会以外にあるの?と私は聞きたい。
…だけど我慢。寄り道しないという約束を思い出して耐える。
マリアンの店の奥には様々な反物が並んでいた。
殆どは綿。村の人々が町に出かけたりする時に着るための服地。けれど意外な事に絹も充実していた。これは夏の避暑に訪れた人達用らしい。
そして、濃いのから薄いのまで灰色の服地がある一角を埋め尽くしていた。
その用途は流石に私でもすぐにわかった。
「マリアン、これは礼拝用よね。」
「ええ、そうですよ。」
何の気なしに灰色の木綿の布を手に取った。
「レイチェル様?」
サラの様子がおかしい。どこか慌てたような?
「レイチェル様、今日はクラリーチェ様からの…。」
「ええ、それはわかってる。」
わかってるんだけど。
思い出しちゃったんだもの。私は礼拝用の服を持ってないって。
「マリアン、礼拝用の服もお願い出来る?」
「ええ、構いませんよ。」
「マリアン様!ダメですってば!」
…何故?エルンスト殿下は何着でも良いって。
3着というのなら、外出着を礼拝用に変えてもいいとも思うんだけど。
「サラ。今、私に必要なのは礼拝用よ。」
「必要ありません!」
涙混じりになりかけているサラはやっぱり変だ。
「サラ?どうしたの?」
「レイチェル様…。私は、いいえ、エルンスト殿下は…。」
「エルンスト殿下が何?」
エルンスト殿下は正教徒じゃないのかしら?いいえ、違うわ。王族は正教徒の職務も担っているはずだもの。ただ…。
「この辺りは伝統的な礼拝を行っている、違う?」
マリアンに尋ねた。
「ええ、そうですよ。あっ、王都の方は略式なんですよね。そうそう、クラリーチェ様もブルーノ殿下もそうでしたもの。ご結婚されて直ぐにこちらでの礼拝用にお召し物を拵えさせて頂いて。懐かしいですわ、あれならもう30年近く経つなんて。それから数年おきに必ず私に礼拝服をご注文くださるんですよ、エルンスト殿下は…昨年お作りになられたばかりですから、今年はお作りにはならないかもしれませんわね。」
…でしょう?頑なに略式に拘るお人でもなさそうだわ。
なのに私は一枚も礼拝用の服を持っていない。これはマズイのではないだろうか?
灰色の服を着て礼拝に参列するのはキッテンの国教の正教派の伝統的スタイルだ。
貧富の差が激しい王都では式服の着用は義務ではない。
また似たような色味で同じようなデザインの服は生地や仕立てで格差が出やすい事もあり、貴族もいつしか着なくなった。競い合う事は教会の本意とするところではないからだ。
でも、この村では頑なにそれが守られているらしいし、長く着られる服が欲しいのだから礼拝用の服はピッタリお誂え向きだと思うのに。
何故サラがこんなに反対するのかがわからない。
「なんかよくわかりませんけどね。ライナス公爵領の歴代の領主様は正教派ですからね、礼拝用の服は持っていても良いと思いますけどね。」
私とサラのやりとりを横で聞いていたマリアンも私の味方になってくれた。
「あなたはお黙りなさい!」
サラがピシャリと言い放った。
サラにしては珍しい、高飛車に過ぎる物言いだった。
「サラ?本当にあなた変よ?」
「今日は、夜会服と外出着を作るんですよね。だからエルンスト殿下はレイチェル様をここに送り出してくれた。」
「ええ、そうね。」
「どこにも寄らず必ずお屋敷に帰る、そういうお約束でした。」
「ええ、そうね。」
「何故、礼拝用の服をお作りになるなんて仰るのですか?」
「えっ!?なんでって…。」
持ってないから。
「それを着てどこへ行かれるおつもりだと仰るんですか?」
「えっ、それは…。」
教会以外にあるの?と私は聞きたい。
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