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合議
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場所をステファン殿下の執務室に変えて、私達は話し合いを続ける事になった。
「畑の放棄はしない方が良い気がするの、飢饉対策でもあるから。」
「それじゃ人手が足りなくならないか?」
「高齢者はともかく負傷者が前線近くにいるのはどうなんだ?」
「あの…殿下。畑は行ってすぐに種蒔きや苗植えが出来る訳じゃないんですよ。」
みんながそれぞれ意見を述べて、みんなの話を聞いた。
そして一つの結論に達した。
「農園の本格移転は少なくても3年後」
まだ島の整備が終わっていないし、畑の開墾が先。畑の開墾が済み次第順次人をやりくりしていく。
農夫達の中で開墾から島に行きたい人を募集し、城の農園に残りたい人は予備歩兵の身分からただの農夫へと転職してもらう。
「じゃあ、私はもう行きますね。」
「送る。」
とエルンスト殿下が立ち上がるのを押し留めた。
これからエルンスト殿下とステファン殿下は島の整備計画について練り直さなくてはならない。
それは私の守備範囲の外だし、それに来年度の予算は現状維持とクラリーチェ様に報告しに行かないと。
「お仕事ですもの、合理的に行きましょう。」
「…そうだな。」
これから長く長く続くのだ。最初が肝心なんだと思う。
「では、失礼します。」
そう言って私は部屋を出た。
廊下に出て数歩、向こう側からブリトーニャ様が歩いてくるのが見えた。
…面倒な事になったな。
ブリトーニャ様は真っ赤なお顔で私を睨みつけて。
「何をしていたの?ステファンの部屋で。」
私の前に仁王立ちで立ち塞がった。
「ダリアン島の件で少しお話を。」
「…あなたには関係ないでしょう?」
「いえ、厨房の食糧購入の費用の予算から、ダリアン島への移住計画を知る必要が出来ましたので。」
「何故、あなたが?お城の予算はカトリーナ様の範囲でしょう?」
…だから。
カトリーナ様からクラリーチェ様に相談があり、クラリーチェ様がそれを私に下げ渡した、それだけの話なのに。
今ブリトーニャ様はどのような案件を抱えているのか、私の手助けは必要なのか?
お互いが抱えている案件を共有する必要性を感じては下さらないのか…。
もしそうなら決裂だ。それなら仕方がない。ブリトーニャ様が私を必要としてくれないなら、私には何も出来ない。
「クラリーチェ様にお伝えしなければならない事がありますので、これで失礼致します。」
「待ちなさい!まだ話は終わっていません!」
…どうしろと言うのだろう。
どうしたいと言うのだろうか。
「ブリトーニャ?」
騒ぎを聞きつけたステファン殿下とエルンスト殿下が部屋から顔を覗かせていた。
「やっぱり送る。」
とエルンスト殿下は私の手を取り、
「何か用か?話なら中で聞く。」
とステファン殿下がブリトーニャ様を手招きした。
「エル、こっちは手短に済ませるから、すぐ戻れ。」
「ああ、すぐ戻る。行こう、レーチェ。」
「…はい。」
もう断れなかった。
「すみません、私のせいで。」
ああ、お仕事の邪魔をしてしまった。
廊下を歩き出して程なく、エルンスト殿下が、
「何があった?」
とことの顛末を尋ねてきた。
隠すこともない、だからありのままに答えた。
「ステファン殿下の部屋で何をしていたの?と。」
「ああ、そうか。俺の部屋にすれば良かったな。」
「…今回はそうかもですね。…でも。」
今回はそれで良かったのかもしれないけれど、これからの事も考えなくてはならない。おそらくブリトーニャ様は私やエルンスト殿下のテリトリーには来たがらないだろう。
「本当はブリトーニャ様もあの場にいらしても良いんですよね。というかいるべきでしたよね。」
「ああ、本当は、だな。」
ブリトーニャ様と私が話し合い、ステファン殿下とエルンスト殿下が話し合う。その中で協議すべき事があれば4人で話し合う。
理想だけど。決して手が届かない理想とも言えない。
カトリーナ様とクラリーチェ様はそうしている。カルロ陛下とブルーノ殿下もだ。
「父達はあまり4人では話し合わないな。
必要があれば夫婦で報告しあってる。」
じゃあ私達もそうすべきなのかしら?
私とステファン殿下はなるべく接する事なく、全てエルンスト殿下を通して…。
「俺たちは俺たちの形を作ればいい。」
とエルンスト殿下は言うけれど…。
「まずはブリトーニャ様と話し合える関係にならないとなりませんね。私が…。」
「…俺たちが、だな。」
別に仲良しこよしのお友達になりたい訳じゃない。
ただ、普通に政について相談しあったり助け合えたら…と思う。
「無理しなくていい。俺とステフが頑張れば良いんだから。母達も助けてくれるだろう。」
「そうですね。クラリーチェ様にも言われました。」
「ああ、俺も父に言われている事がある。」
「おいおいでいいのよ。って。」
「おいおいでいいんだ。って。」
って!!
「夫婦だな、同じことを言うなんて。」
「ふふふ、そうですね。」
エルンスト殿下は気付いているだろうか。
きっとエルンスト殿下はブルーノ様とクラリーチェ様が同じ事を考えていると言いたかった。
「おいおいでいい。」と言われたから、のんびり行こう!と私達夫婦がお互いを慰め合おうとしたって事。
エルンスト殿下は気付いてくれただろうか。
「畑の放棄はしない方が良い気がするの、飢饉対策でもあるから。」
「それじゃ人手が足りなくならないか?」
「高齢者はともかく負傷者が前線近くにいるのはどうなんだ?」
「あの…殿下。畑は行ってすぐに種蒔きや苗植えが出来る訳じゃないんですよ。」
みんながそれぞれ意見を述べて、みんなの話を聞いた。
そして一つの結論に達した。
「農園の本格移転は少なくても3年後」
まだ島の整備が終わっていないし、畑の開墾が先。畑の開墾が済み次第順次人をやりくりしていく。
農夫達の中で開墾から島に行きたい人を募集し、城の農園に残りたい人は予備歩兵の身分からただの農夫へと転職してもらう。
「じゃあ、私はもう行きますね。」
「送る。」
とエルンスト殿下が立ち上がるのを押し留めた。
これからエルンスト殿下とステファン殿下は島の整備計画について練り直さなくてはならない。
それは私の守備範囲の外だし、それに来年度の予算は現状維持とクラリーチェ様に報告しに行かないと。
「お仕事ですもの、合理的に行きましょう。」
「…そうだな。」
これから長く長く続くのだ。最初が肝心なんだと思う。
「では、失礼します。」
そう言って私は部屋を出た。
廊下に出て数歩、向こう側からブリトーニャ様が歩いてくるのが見えた。
…面倒な事になったな。
ブリトーニャ様は真っ赤なお顔で私を睨みつけて。
「何をしていたの?ステファンの部屋で。」
私の前に仁王立ちで立ち塞がった。
「ダリアン島の件で少しお話を。」
「…あなたには関係ないでしょう?」
「いえ、厨房の食糧購入の費用の予算から、ダリアン島への移住計画を知る必要が出来ましたので。」
「何故、あなたが?お城の予算はカトリーナ様の範囲でしょう?」
…だから。
カトリーナ様からクラリーチェ様に相談があり、クラリーチェ様がそれを私に下げ渡した、それだけの話なのに。
今ブリトーニャ様はどのような案件を抱えているのか、私の手助けは必要なのか?
お互いが抱えている案件を共有する必要性を感じては下さらないのか…。
もしそうなら決裂だ。それなら仕方がない。ブリトーニャ様が私を必要としてくれないなら、私には何も出来ない。
「クラリーチェ様にお伝えしなければならない事がありますので、これで失礼致します。」
「待ちなさい!まだ話は終わっていません!」
…どうしろと言うのだろう。
どうしたいと言うのだろうか。
「ブリトーニャ?」
騒ぎを聞きつけたステファン殿下とエルンスト殿下が部屋から顔を覗かせていた。
「やっぱり送る。」
とエルンスト殿下は私の手を取り、
「何か用か?話なら中で聞く。」
とステファン殿下がブリトーニャ様を手招きした。
「エル、こっちは手短に済ませるから、すぐ戻れ。」
「ああ、すぐ戻る。行こう、レーチェ。」
「…はい。」
もう断れなかった。
「すみません、私のせいで。」
ああ、お仕事の邪魔をしてしまった。
廊下を歩き出して程なく、エルンスト殿下が、
「何があった?」
とことの顛末を尋ねてきた。
隠すこともない、だからありのままに答えた。
「ステファン殿下の部屋で何をしていたの?と。」
「ああ、そうか。俺の部屋にすれば良かったな。」
「…今回はそうかもですね。…でも。」
今回はそれで良かったのかもしれないけれど、これからの事も考えなくてはならない。おそらくブリトーニャ様は私やエルンスト殿下のテリトリーには来たがらないだろう。
「本当はブリトーニャ様もあの場にいらしても良いんですよね。というかいるべきでしたよね。」
「ああ、本当は、だな。」
ブリトーニャ様と私が話し合い、ステファン殿下とエルンスト殿下が話し合う。その中で協議すべき事があれば4人で話し合う。
理想だけど。決して手が届かない理想とも言えない。
カトリーナ様とクラリーチェ様はそうしている。カルロ陛下とブルーノ殿下もだ。
「父達はあまり4人では話し合わないな。
必要があれば夫婦で報告しあってる。」
じゃあ私達もそうすべきなのかしら?
私とステファン殿下はなるべく接する事なく、全てエルンスト殿下を通して…。
「俺たちは俺たちの形を作ればいい。」
とエルンスト殿下は言うけれど…。
「まずはブリトーニャ様と話し合える関係にならないとなりませんね。私が…。」
「…俺たちが、だな。」
別に仲良しこよしのお友達になりたい訳じゃない。
ただ、普通に政について相談しあったり助け合えたら…と思う。
「無理しなくていい。俺とステフが頑張れば良いんだから。母達も助けてくれるだろう。」
「そうですね。クラリーチェ様にも言われました。」
「ああ、俺も父に言われている事がある。」
「おいおいでいいのよ。って。」
「おいおいでいいんだ。って。」
って!!
「夫婦だな、同じことを言うなんて。」
「ふふふ、そうですね。」
エルンスト殿下は気付いているだろうか。
きっとエルンスト殿下はブルーノ様とクラリーチェ様が同じ事を考えていると言いたかった。
「おいおいでいい。」と言われたから、のんびり行こう!と私達夫婦がお互いを慰め合おうとしたって事。
エルンスト殿下は気付いてくれただろうか。
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