修道院に行きたいんです

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準王族リンクス侯爵

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「叔父上、今夜はありがとうございます。」
準王族となった叔父リンクス侯爵とその夫人に丁寧にお礼を述べる。

「いや、なんのなんの。大した事じゃない。」

父の弟のチェスター殿下はリンクス侯爵家に婿入りという形で王族離脱をされた。
サーシャ様がひとり娘でなかったら、まだ王族だったかもしれないが、チェスター殿下はさっさと離脱の道を選び取った。

準王族は普段の政務には全く関わらない、議員となり国政に目を光らせることもない。
しかし、外交や社交の場面になると良いように扱き使われる、ただの名誉位でしかないというのに。

「エル、大変だっただろう、よく頑張ったな。」
「何がですか?」
「ははは、レイチェルの事だよ。」
「それは…。」

チェスター殿下はこの度のレイチェルや俺、ステファンとの経過を具に報告されていた数少ない貴族のひとりだ。
ステファンの妃の相談役にはチェスター殿下の娘のマヌエラが候補に上がっていたからだ。
もちろんそれは俺にまだ婚約する気すらさらさら無かったからだけれど。

「レイチェルの身の振り方次第では随分と厄介なことになっていただろう。エルはそれを一番良い形で収めたと思うよ。」
「そうでしょうか。ただ欲のままに行動したまでなんですけれど。」
「みたいだな。ブルーノが呆れていたよ。
ただこれ以上ない策だったことは間違いがない。」

もしあのままレイチェルが妾としてステファンに囲われたままじゃどうなっていたか。
どこかの貴族の家に嫁がされていたらどうなっていたか。
まして教会や修道院に行かされていたら…。

「本人達がどう思い、どう望んでいたとしても、周りはそれを都合よく解釈する。自分達にとって得になるように画策していっただろう。
だからエル、よくやってくれた。礼を言う。」
「ありがとうございます。」

自分の気持ちのままにした行動だったのは間違いがないが、キッテンの王族にとって得策であったこともまた間違いはない。

レイチェルをどこかの貴族の家に行かせるわけにはいかなった。それは王族の弱みを掴ませることでもあったからだ。

「それよりだ。ダンスパートナーなんて良く引き受けたな。」
「仕方がありません、公務ですから。」
「…気をつけなさい。虎視眈々と狙っている輩は未だに沢山いる。」
「はい、父からも言われております。しっかり肝に銘じておきます。」

ふむ、とチェスターは満足そうに頷く。そして妻に、
「お前も頼むよ。これはマヌエラには荷が重すぎる。」
「はい。」

エルンストとチェスターとサーシャの3人はにこやかさを全面に出しながらも、瞳はしっかりと目の前の新成人達を見据えていた。



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