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オマケ
里帰り1
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王太子妃となったブリトーニャが、シュタインを訪問した国王陛下夫妻に帯同して里帰りをした時の話。
ブリトーニャはシュタイン風のドレスではなく、ウエストからふっくらとスカートを膨らませたキッテンシルエットのドレスを纏って、玉座に座るシュタインの国王陛下夫妻の前に夫と並んで立っていた。
今回の里帰りに際し新調したドレスのうちの1着。
ただのドレスだけれど、カトリーナとステファンが誉めてくれた、それだけでブリトーニャには堅固な鎧を纏っている気がするから不思議だ。
里帰りとはいうけれど、それが家族の再会を喜ぶ温かい雰囲気にはならないであろう事を思うと、ブリトーニャの気持ちは沈んでいき掛ける。それをなんとか止めてくれる浮袋のようなドレスでもある。
謁見室で着座のシュタイン国王夫妻に対し、立位のままのキッテン王太子夫妻。
ハッキリと明確に示された両者の立場、私的ではなく公的な謁見だとあからさまに誇示されてしまった。
「お久しぶりでございます。お兄様。」
「息災だったか?」
「はい。」
完璧な所作で膝を曲げ堅苦しく挨拶を交わす。
緊張してるのはブリトーニャだけではなく、国王である兄もである。
兄妹の会話は決して弾まない事を私は知っていた。
余計なことを言えば、兄嫁からの嫌味が止まらなくなるのは兄も私も、嫌というほどに学習していた。
まあしかし、余計な事を言わなくても止まらない時はあるのだけれど。
どうやら今日はその日であったらしい。
したはずの警戒レベルを更に引き上げる必要があることを覚悟しなくては。
「噂はこちらにまでよーく聞こえてきていますよ、ブリトーニャ。なかなか苦労していそうね。」
と兄嫁は嬉しさを隠しきれない笑みを口元に載せて言った。
ブリトーニャに向ける視線は義妹への愛しみなんてものではなく、おそらく獲物がノコノコと目の前に差し出されたからだとブリトーニャは確信し、身構えて俯いた。
どうせろくな噂じゃないわ、良い噂だったとしたら、兄嫁はこの場では決して触れはしないから。
そう思ったとしても、ブリトーニャはそれを口に載せたりはしない。
それに、違うと否定できない。キッテンで私を取り巻く空気感は決して私には温かくはない。
だから視線を下げ、嵐が去るのを待つ事にした。
キッテンでも、故郷でもいつも同じ様に。
「いい加減に顔を上げなさい。相手の目を見ないだなんて失礼にも程があるわ。ステファン殿下、こんな子で本当に申し訳ないわね。あなたも大変だと思うけれど。」
…あなたも?だって。
些細な言葉尻につい反応してしまうのは、私が兄嫁が嫌いだからだろうか、それともこの兄嫁に嫌われている自覚があるからなのだろうか…。
私を押し付けられてステファンはさぞ大変だろうけれど、少なくても兄嫁は厄介払いができて嬉々としているに違いない。
ステファンと兄嫁とを同類とし、言葉にするのはやめて欲しい。
しかし失礼だとストレートに言われてしまえば、逆らうこともできない。
仕方なく視線を兄嫁に向けた。
目を合わせても攻撃されて、逸らしても攻撃される。苦肉の策として見ているようで見ていない場所を見つけるようになった。鼻や唇、時に足下。
今日はやけにいつもよりも濃く紅い唇に視線が向かった。
食い尽くされてしまいそうな大きな紅い唇に…。
兄嫁に反論出来ない自分が、兄嫁と戦えない自分の弱さがなんとも歯痒い。
「いえ、ちっとも大変なことなんかないですよ。」
隣に立つステファンが何故かいつにも増して優しかった。
だってその手のひらが私の背中に添えられている。
居た堪れない…。
おそらくステファンは賢い人だから察しているだろう。
とてもとても里帰りした姫やその伴侶を歓迎するような甘い雰囲気は全くなくて、こんな刺々しい雰囲気を晒されると想像すらしてはいなかっただろうに。
キッテンは家族の絆がとても温かいものだから。
「まだまだ慣れないことばかりなのに、愚痴ひとつ零さずに、ブリトーニャはよくやってくれていますよ。」
至らない私を庇うようなステファンの発言に兄嫁は露骨に不機嫌さを顔に出した。
「…無理する事はありませんよ、ステファン殿下。
不用意に醜態ばかり曝け出して、挙句になかなかキッテンの習慣に染まらないと聞いていましたが?」
「いえ、準備不足はこちらの不手際ですし、肝心の要所はキッチリと抑えておりますから十分です。細かいところはそのうちに慣れてくれるでしょう。」
「あら、随分とお優しいこと。そうだと良いわね、お婆さんになる頃にはなんとかなるものなのかしら?
ブリトーニャったらね、本当に昔から何にも出来ない子で。義父や夫の手を煩わせてばっかり。
後先考えないで感情だけで動くでしょう?
何度も尻拭いをさせられて。
本当にあなたも大変だわよね。」
紅い口がスルスルと動いて毒を吐く。
だから「も」って、少なくても今はあなたには迷惑を掛けてはいないのだから。
「里帰り」が私の為だというのなら、里帰りなんか必要なかった。
2度とシュタインに足を踏み入れる事はないと思っていたのだから、今すぐにでもキッテンに帰りたい。
ただ、カトリーナ様もステファンも、「必要」な事だから、と私を説き伏せた。
だから私はこうしてここへ来て、ただ黙って耐えている。
ブリトーニャはシュタイン風のドレスではなく、ウエストからふっくらとスカートを膨らませたキッテンシルエットのドレスを纏って、玉座に座るシュタインの国王陛下夫妻の前に夫と並んで立っていた。
今回の里帰りに際し新調したドレスのうちの1着。
ただのドレスだけれど、カトリーナとステファンが誉めてくれた、それだけでブリトーニャには堅固な鎧を纏っている気がするから不思議だ。
里帰りとはいうけれど、それが家族の再会を喜ぶ温かい雰囲気にはならないであろう事を思うと、ブリトーニャの気持ちは沈んでいき掛ける。それをなんとか止めてくれる浮袋のようなドレスでもある。
謁見室で着座のシュタイン国王夫妻に対し、立位のままのキッテン王太子夫妻。
ハッキリと明確に示された両者の立場、私的ではなく公的な謁見だとあからさまに誇示されてしまった。
「お久しぶりでございます。お兄様。」
「息災だったか?」
「はい。」
完璧な所作で膝を曲げ堅苦しく挨拶を交わす。
緊張してるのはブリトーニャだけではなく、国王である兄もである。
兄妹の会話は決して弾まない事を私は知っていた。
余計なことを言えば、兄嫁からの嫌味が止まらなくなるのは兄も私も、嫌というほどに学習していた。
まあしかし、余計な事を言わなくても止まらない時はあるのだけれど。
どうやら今日はその日であったらしい。
したはずの警戒レベルを更に引き上げる必要があることを覚悟しなくては。
「噂はこちらにまでよーく聞こえてきていますよ、ブリトーニャ。なかなか苦労していそうね。」
と兄嫁は嬉しさを隠しきれない笑みを口元に載せて言った。
ブリトーニャに向ける視線は義妹への愛しみなんてものではなく、おそらく獲物がノコノコと目の前に差し出されたからだとブリトーニャは確信し、身構えて俯いた。
どうせろくな噂じゃないわ、良い噂だったとしたら、兄嫁はこの場では決して触れはしないから。
そう思ったとしても、ブリトーニャはそれを口に載せたりはしない。
それに、違うと否定できない。キッテンで私を取り巻く空気感は決して私には温かくはない。
だから視線を下げ、嵐が去るのを待つ事にした。
キッテンでも、故郷でもいつも同じ様に。
「いい加減に顔を上げなさい。相手の目を見ないだなんて失礼にも程があるわ。ステファン殿下、こんな子で本当に申し訳ないわね。あなたも大変だと思うけれど。」
…あなたも?だって。
些細な言葉尻につい反応してしまうのは、私が兄嫁が嫌いだからだろうか、それともこの兄嫁に嫌われている自覚があるからなのだろうか…。
私を押し付けられてステファンはさぞ大変だろうけれど、少なくても兄嫁は厄介払いができて嬉々としているに違いない。
ステファンと兄嫁とを同類とし、言葉にするのはやめて欲しい。
しかし失礼だとストレートに言われてしまえば、逆らうこともできない。
仕方なく視線を兄嫁に向けた。
目を合わせても攻撃されて、逸らしても攻撃される。苦肉の策として見ているようで見ていない場所を見つけるようになった。鼻や唇、時に足下。
今日はやけにいつもよりも濃く紅い唇に視線が向かった。
食い尽くされてしまいそうな大きな紅い唇に…。
兄嫁に反論出来ない自分が、兄嫁と戦えない自分の弱さがなんとも歯痒い。
「いえ、ちっとも大変なことなんかないですよ。」
隣に立つステファンが何故かいつにも増して優しかった。
だってその手のひらが私の背中に添えられている。
居た堪れない…。
おそらくステファンは賢い人だから察しているだろう。
とてもとても里帰りした姫やその伴侶を歓迎するような甘い雰囲気は全くなくて、こんな刺々しい雰囲気を晒されると想像すらしてはいなかっただろうに。
キッテンは家族の絆がとても温かいものだから。
「まだまだ慣れないことばかりなのに、愚痴ひとつ零さずに、ブリトーニャはよくやってくれていますよ。」
至らない私を庇うようなステファンの発言に兄嫁は露骨に不機嫌さを顔に出した。
「…無理する事はありませんよ、ステファン殿下。
不用意に醜態ばかり曝け出して、挙句になかなかキッテンの習慣に染まらないと聞いていましたが?」
「いえ、準備不足はこちらの不手際ですし、肝心の要所はキッチリと抑えておりますから十分です。細かいところはそのうちに慣れてくれるでしょう。」
「あら、随分とお優しいこと。そうだと良いわね、お婆さんになる頃にはなんとかなるものなのかしら?
ブリトーニャったらね、本当に昔から何にも出来ない子で。義父や夫の手を煩わせてばっかり。
後先考えないで感情だけで動くでしょう?
何度も尻拭いをさせられて。
本当にあなたも大変だわよね。」
紅い口がスルスルと動いて毒を吐く。
だから「も」って、少なくても今はあなたには迷惑を掛けてはいないのだから。
「里帰り」が私の為だというのなら、里帰りなんか必要なかった。
2度とシュタインに足を踏み入れる事はないと思っていたのだから、今すぐにでもキッテンに帰りたい。
ただ、カトリーナ様もステファンも、「必要」な事だから、と私を説き伏せた。
だから私はこうしてここへ来て、ただ黙って耐えている。
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