修道院に行きたいんです

枝豆

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オマケ

里帰り4

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兄と義姉との謁見は後味の悪い形で終わった。

場の雰囲気が険悪になったのを察したのか、「時間です。」と侍従が割り込んできてしまった。
言質を取られ足元を掬われかけた兄と兄嫁 
はそそくさと席を立ち部屋から出て行った。

残された私達も謁見室を追い払われた。
「…やり過ぎただろうか?」
そう尋ねるステファンに、
「いえ、胸がすく思いをさせていただきました。」
と答え、申し訳ないと謝り続ける私にステファンは、嬉しそうに微笑んだ。

「ブリトーニャがいいというのならこれで良いんだ。
長い間辛い思いをさせてすまなかった。
ブリトーニャ、お前に付いてきたシュタインの侍女は全て置いて帰る。それでいいか?」

頷くしかない。

「お前に公務を割いてやれなかった理由はたくさんある。
レイチェルとの事が大きい理由ではあったけれど、それだけじゃない。
シュタインに政務が筒抜けのままじゃ任せられなかった。」

コクコクと頷くしかない。

「…申し訳ありません。」
気付かないままで侍女に頼り切っていた自分が情けなかった。

「…謝らなくて良い。そう仕向けたのはこちら側でもある。
…話を聞いてくれるか?」
「はい、もちろんです。」

とりあえず場所を変えよう、とステファン殿下は私を庭へと連れ出した。
もちろん控えていた私付きの侍女達が付いてくることを私とステファンは許さない。

庭に出て、少し歩く。
ステファンが選んだのはただの芝生の上だ。周囲に身を隠せるような茂みはない。

「元々、王太子妃の侍女はレイチェルのために主にグレイシア公爵家の派閥から選出されていた。」

選考の初めに各候補に付けられていた侍女は元々が城中に寝起きしていた侍女官で、比較的歴が浅いが、将来の女性王族の侍女候補として薫陶を受けていた者達ばかりだった。
さらにそこに派閥から侍女が入る。

レイチェルがほぼほぼ内定していた状態で人事が行われ、エッタをトップに数名でチームを組む予定になっていた。
王太子妃がブリトーニャに変わってもエッタを除き人事はとりあえずスライドされた。シュタインから連れてきた侍女と混ぜ合わせ、ブリトーニャのチームを即席で作った。
しかしある程度の時点でカリトーナ様がキッテン側の侍女全員を解雇しなければならなくなった。

「全員?」
「ああ。ベリーズ公爵からクレームが付いた。グレーデン筆頭公爵からも。
グレイシア公爵派の者ばかり、バランスが悪いと。
貴族の派閥のバランスは崩れやすい、2人の公爵からのクレームに母は侍女のチームを再構築するしかなかった。

しかし、辞める者、続ける者、新たに雇用される者に政治的な思惑はないとしなければならない。
任期満了を待って一旦皆を解雇し冷却期間を設けなければならなかった。」

更に問題が起きた。レイチェルが王族になったことだ。
家の意向で再雇用先にレイチェル付きを希望する侍女もいる中で、私を見限りレイチェルに侍るようにも見える形には出来ないとカトリーナ様は私の体面も重んじてくれていた。

ブリトーニャとレイチェルの侍女の人選はさらに複雑化していった。

ステファンは言わないが、カトリーナ様はその頃から間者スパイの存在を意識してしていたのだろう。兄嫁が「悪評を立てているのはキッテンの侍女ではないのか?」と言い訳する道を塞いだに違いない。

「幾人かはそのまま城には戻ってこない。しかし戻って来るものもいる。全く違う部署やレイチェルを希望するものもいるが、ブリトーニャを希望するものもいる。
元々選考に耐え抜いた者達だ、身元も技量も保証出来る。

ブリトーニャの為にもシュタインの者も残したいとも思っていた。
間者スパイを炙り出す為に時間を少し掛けた。
…どうしても残したい者はいるか?」

いません、と答えた。
ステファンは先ほどシュタインの侍女は全員置いて帰ると言った。炙り出して誰も残らなかったのだ。
兄嫁に忠誠を持つ者を身近には置きたくは無い。

「私を希望してくださる方もいるのですか?」
「ああ、いる。ベリーズ公爵派の家だったり、王太子妃という立場に惹かれている者だったりはする。
しかし、ブリトーニャその人を望む者もいる。
ルチアとハナを覚えているかい?」

…ルチア。ああそうだ。婚約者候補だった時私に尽くしてくれた人。結婚して城を出たはずだ。
ハナは結婚してすぐの時にしばらく付いてくれた子だ。

「ルチアは結婚したと聞いています、ハナはグレイシア公爵派ですよね?」
「ああ、ルチアの夫は父の護衛騎士だ。城内の官舎に住んでいる。いつか子を設けたいという条件はあるけれど、まだまだ先で良いとも言ってくれている。
ハナはグレイシア公爵派だけれど、レイチェルとの仲立ちをしたいそうだ。
王太子妃の侍女に複数の派閥の家が入るのは悪い事じゃない。

…2人の想いに応えてやっては貰えないか?」

嬉しかった。理由なんてなんでもいい。私が良いと言ってくれている者がいることがただ嬉しかった。

「さっき、私の為に怒ろうとしてくれてありがとう。よく頑張ってくれた。だから…もう泣くな。」
ステファンのスラリと細く長い指が私の瞼をそっと拭う。
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