88 / 100
オマケ
お披露目1
しおりを挟む
キッテンの新年は冬至を大晦日とし、その翌日から5日間を新年の祝いの期間と定めている。
だけど今年はそれが7日間に延ばされた。
例年通りに新年祝賀のイベントを粛々と済ませた後、大公子息であり公爵でもあるエルンスト殿下の結婚のお披露目会が行われる事になったからだ。
新年新月の6日、雪にも関わらず、早朝から街は賑やかだった。
エルンスト殿下の結婚に纏わる様々な儀典は、王太子の婚約から結婚の儀典と重なり、またレイチェル妃殿下の体調も考慮され、全てが非公開とされてきたため、2人に直接お祝いを申し上げられる唯一の場で、その晴れ姿を一目見ようと国民達が国中から集まっていた。
昼前に城で王族と準王族によって儀が行われた後、エルンスト殿下とレイチェル妃殿下が揃ってバルコニーにお姿を現す。馬車に乗って街をパレードしつつ、大聖堂にて新しく王族となったレイチェル妃殿下に国教会から使徒の位が授けられる予定だ。
残念なことに、当のレイチェルはその殆どが直前か事後の報告ばかりで、中にはいつやったのか知らないし、どれがそれに当たっていたのかもよくわからないものもある始末。
人生の大きな節目だというのに、残すはお披露目のみとなっていた。
唯一、国民の前にエルンストの晴れ姿を立たせてあげられるのは、その日だけ。
その日に向けてレイチェルは万全の準備をしていた…はずだった。
「ふー、ふー、うっ!」
床に甕を抱えて蹲り、全く動けなくなっているのは今日の主役の1人であるレイチェルだ。
その側には侍女のエッタ、そしてもう1人の主役のエルンストがいるが、レイチェルには2人を慮る余裕なんてどこにもなかった。
もう吐き出せるものは胃袋の中には一滴も残ってはいないはずなのに、この甕が手放せない。
「お口濯がれますか?」
「…無理。」
「お背中摩りますか?」
「うっ!…ごめ…やめて…。」
「レイチェル様、失礼しますね。」
エッタがドレスの合わせの紐を緩めていく。
「やっぱりこのドレスは…お止めになられた方が。」
「…だって…。」
エッタの言い分はわかっているの、頭ではね。
けれど、このドレスはクラリーチェ様が着た花嫁衣装をレイチェルのサイズに合わせてエッタが徹夜で直してくれたもの、あの突貫結婚式でも着た思い出のドレスなの!
「…悔しい。なんでこんな時に…。」
ポロリと一筋の涙が溢れる。
そして、
「うっ!やっぱり…無理。」
込み上げる吐き気に抗えず、レイチェルは今日はもう幾度目か、数えるのも面倒な程、胃の中のものを吐き出し続けている。
もう既に予定の時刻はとっくに過ぎている。
それなのにレイチェルは今だに自室から外に出られずにいた。
「やっと、やっとこの日が来たのに…なんで。」
あまりの悔しさに涙が溢れる。
レイチェルはステファンとの婚約の発表を国王陛下のスケジュールで僅か数日ずらした。その結果ステファンとは婚約が白紙になり、立場は二転三転コロコロと転がり続け苦しい日々を耐え忍ぶ事になった。
でもそれはいい、もう過ぎた事だ。
ようやくエルンスト殿下とすったもんだの挙げ句に今の暮らしに落ち着いた。
しかし婚約の披露目はしてないし、結婚式でさえも限られた家族のみの前。
陛下がエルンスト殿下の結婚の報せを国民に向けて出した時、自分達は領地から王都に戻る馬車に揺られていた。
エルンストはその身分ならステファン王太子にも負けないほど大々的な祝典の儀式を行なって貰えるはずなのに。
私なんかを救済しようとしたばっかりに、引かされたのはまさに貧乏クジとしか言えず…。
婚約や結婚に際して唯一行われるはずのお披露目のパレードだった。
しっかりとお努めを果たして、エルンストの凛々しい姿を国民の前に立たせてあげなきゃならないのに。
妊娠、そして悪阻…。
しかもこの数日は特に酷い。
「レーチエ、やっぱり今日は止めよう?
顔色も悪いし、手も冷たい。
こんな日に外に出て幌無し馬車に乗るなんて無理だ。」
「嫌ぁ。大丈夫…です。もう何も吐けないから。」
「…それだから無理なんだって!」
このやり取りも今日はもう何回目かしら?
またエッタにドレスの紐を締めてもらって、崩れた化粧を直して、乱れた髪を結い直して。
少し歩いて王様に挨拶して馬車に乗り込んでしまえば済むのに。
そのあと少しが出来ない…。
レイチェルは自身の情けなさに涙が出てくる。
エルの晴れ姿なのに…私が足を引っ張ってる。
それがなんとも悲しいし、悔しい。
だけど今年はそれが7日間に延ばされた。
例年通りに新年祝賀のイベントを粛々と済ませた後、大公子息であり公爵でもあるエルンスト殿下の結婚のお披露目会が行われる事になったからだ。
新年新月の6日、雪にも関わらず、早朝から街は賑やかだった。
エルンスト殿下の結婚に纏わる様々な儀典は、王太子の婚約から結婚の儀典と重なり、またレイチェル妃殿下の体調も考慮され、全てが非公開とされてきたため、2人に直接お祝いを申し上げられる唯一の場で、その晴れ姿を一目見ようと国民達が国中から集まっていた。
昼前に城で王族と準王族によって儀が行われた後、エルンスト殿下とレイチェル妃殿下が揃ってバルコニーにお姿を現す。馬車に乗って街をパレードしつつ、大聖堂にて新しく王族となったレイチェル妃殿下に国教会から使徒の位が授けられる予定だ。
残念なことに、当のレイチェルはその殆どが直前か事後の報告ばかりで、中にはいつやったのか知らないし、どれがそれに当たっていたのかもよくわからないものもある始末。
人生の大きな節目だというのに、残すはお披露目のみとなっていた。
唯一、国民の前にエルンストの晴れ姿を立たせてあげられるのは、その日だけ。
その日に向けてレイチェルは万全の準備をしていた…はずだった。
「ふー、ふー、うっ!」
床に甕を抱えて蹲り、全く動けなくなっているのは今日の主役の1人であるレイチェルだ。
その側には侍女のエッタ、そしてもう1人の主役のエルンストがいるが、レイチェルには2人を慮る余裕なんてどこにもなかった。
もう吐き出せるものは胃袋の中には一滴も残ってはいないはずなのに、この甕が手放せない。
「お口濯がれますか?」
「…無理。」
「お背中摩りますか?」
「うっ!…ごめ…やめて…。」
「レイチェル様、失礼しますね。」
エッタがドレスの合わせの紐を緩めていく。
「やっぱりこのドレスは…お止めになられた方が。」
「…だって…。」
エッタの言い分はわかっているの、頭ではね。
けれど、このドレスはクラリーチェ様が着た花嫁衣装をレイチェルのサイズに合わせてエッタが徹夜で直してくれたもの、あの突貫結婚式でも着た思い出のドレスなの!
「…悔しい。なんでこんな時に…。」
ポロリと一筋の涙が溢れる。
そして、
「うっ!やっぱり…無理。」
込み上げる吐き気に抗えず、レイチェルは今日はもう幾度目か、数えるのも面倒な程、胃の中のものを吐き出し続けている。
もう既に予定の時刻はとっくに過ぎている。
それなのにレイチェルは今だに自室から外に出られずにいた。
「やっと、やっとこの日が来たのに…なんで。」
あまりの悔しさに涙が溢れる。
レイチェルはステファンとの婚約の発表を国王陛下のスケジュールで僅か数日ずらした。その結果ステファンとは婚約が白紙になり、立場は二転三転コロコロと転がり続け苦しい日々を耐え忍ぶ事になった。
でもそれはいい、もう過ぎた事だ。
ようやくエルンスト殿下とすったもんだの挙げ句に今の暮らしに落ち着いた。
しかし婚約の披露目はしてないし、結婚式でさえも限られた家族のみの前。
陛下がエルンスト殿下の結婚の報せを国民に向けて出した時、自分達は領地から王都に戻る馬車に揺られていた。
エルンストはその身分ならステファン王太子にも負けないほど大々的な祝典の儀式を行なって貰えるはずなのに。
私なんかを救済しようとしたばっかりに、引かされたのはまさに貧乏クジとしか言えず…。
婚約や結婚に際して唯一行われるはずのお披露目のパレードだった。
しっかりとお努めを果たして、エルンストの凛々しい姿を国民の前に立たせてあげなきゃならないのに。
妊娠、そして悪阻…。
しかもこの数日は特に酷い。
「レーチエ、やっぱり今日は止めよう?
顔色も悪いし、手も冷たい。
こんな日に外に出て幌無し馬車に乗るなんて無理だ。」
「嫌ぁ。大丈夫…です。もう何も吐けないから。」
「…それだから無理なんだって!」
このやり取りも今日はもう何回目かしら?
またエッタにドレスの紐を締めてもらって、崩れた化粧を直して、乱れた髪を結い直して。
少し歩いて王様に挨拶して馬車に乗り込んでしまえば済むのに。
そのあと少しが出来ない…。
レイチェルは自身の情けなさに涙が出てくる。
エルの晴れ姿なのに…私が足を引っ張ってる。
それがなんとも悲しいし、悔しい。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」
その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。
「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる