若松2D協奏曲

枝豆

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体育祭

応援団デモンストレーション

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「それではD組、お願いします。」
開始のアナウンスが流れる。

応援団長がポツンと校庭の真ん中に1人立つ。
「押忍!」
重々しく大きな声が響く。
団長はこの一声をたくさん練習し続けてきた。

グラウンドの隅にいる私のトランペットがワンフレーズ響く。
ダァーン!!和津くんの太鼓が一発。
太鼓の音が校舎に跳ね返って余韻を残しながら消え、しばしの静寂。
ダンダンダンダン。小刻みに叩かれる太鼓に合わせて応援団が入ってくる。

…良かった。うまく吹けた。

トランペットは同じ指使いでも息の入れ方で音を変えるし、気を抜くとスッキリとした音が出ない。
指で抑えて吹けばそれなりの音になるリード楽器とはまた違う緊張感がある。

隣にいる和津くんを見つめる。
いつもはすぐにこちらを見てくれる和津くんの視線は今は私を向かない。

真剣に校庭のみんなの動きを注視して太鼓を叩く和津くんの横顔は真剣そのものだ。

…やっぱり綺麗。

普段穏やかな笑顔が多い和津くんは、時々こうやって怖いくらい真剣な表情をする事がある。大抵はバスケをしている時で、その顔はとても綺麗。

ダァーン!!

団長が口上を述べている間はちょっと小休止。

和津くんがこちらを向いてふわりといつものように笑ってくれるから、つい私も笑顔になる。

さあ、次は私。
よく野球の応援で使われるという有名時代劇のワンフレーズを吹くと、和津くんの太鼓が大きくひとつ鳴る。

みんなの演武が始まる。
途中途中で和津くんの太鼓が響く。
みんなを見ながら、ときどき和津くんと視線を合わせて、吹くタイミングを図る。

生徒は静まり返り、身じろぎもせずに見つめている。呼吸の音すら憚られる静寂。それを切り裂いて響く太鼓とトランペットの音。
(ふふふ、楽しい。)

色々大変だった。特に部活への影響が全くなかった訳でない。
吹奏楽部は学校行事の時にはクラスのみんなからは切り離される場面が多い。
でも、今回はみんなと一緒に過ごす事が出来た。
特に和津くんと練習できた事が物凄く支えになったな、と思い出す。

…やって良かったな。


「撤収!」
団長の声かけで和津くんの太鼓が小刻みなリズムを刻む。
応援団が退場すると、また校庭には団長がひとり。

和津くんの太鼓はリズムを変えて、響き続ける。
団長がゆっくりと退場していく。

ダァーン!!
太鼓の音が校舎に反響を残しながら、ゆっくりと消えていった。

そしてまたしばしの静寂。誰もいないグランド。

一瞬の間を置いて、大きな歓声と拍手が始まった。

嬉しくて嬉しくて、手を広げた和津くんとハグをする。

「ちゃんと出来て良かった。」
「うん。ありがとう翠。」
「ありがとう、和津くん。」
「…疾風でしょう。」
「ありがとう、疾風くん。」
「うん…。」

実行委員の意図は大成功で、自画自賛かもしれないけれど、ものすごくカッコいい良いデモンストレーションになったと思う。

後は吹部デモだ。
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