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文化祭 準備
さくら市の磯山学園
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さくら市立、磯山学園は特区学校という括り。全寮制で、1学年10人ほど、1年生から6年生まで、約70人が在籍している。
元々は喘息などの持病、虚弱、肥満などの健康上の理由で、自然に囲まれた場所で集団生活を送りながら、生活や健康を改善するという学校だった。
しかし平成に入って、少し事情が変わり始める。
いじめ、不登校、育児放棄、片親による養育困難…。
様々な事情を抱える子供達にも門戸を開き始める。
「俺の弟の場合は、肥満なんですけど。」
元々の身体が大きいという遺伝体質に加えて、食生活が壊滅的だった林の家は、朝から揚げ物を食べて、おやつに甘いパンやドーナツを食べて…という感じで、いつも家には食べ物が溢れていたそうだ。
米は1人2合は一食で食べたりもしてたらしい。小学生でだ。
「林、よく体型維持してたな。」
「バスケしてましたからね。」
「あっ、なるほど。」
三兄弟で、兄と次男の林はバスケで身体を動かして、外で遊ぶのが大好きで、自然と食べた分動く、動いた分食べる、と良いサイクルが出来ていた。
しかし、末の弟だけが運動嫌いで、なのに兄たちと同じ量を食べていたそうだ。
一緒に暮らす祖母がその辺りの認識が甘くて、皆が欲するままに与えてくれていた。
練習や試合で林たちが家にいない間も未の弟は家にいる。
その間に食べる。帰ってきた兄達と合わせてまた食べる…という具合。
「弟はどんどん大きくなったんです。縦にも横にも。」
入学する前には大人並みの体重になり「超肥満」と診断され、生活習慣の改善を求められたが、うまく行かなかったらしい。
お母さんは認識を改めて、きちんと食事を作る様になったのに。
けれど、目の前で林たち兄が食べているのだ。
それを見ながらダイエットをするのを「可哀想」だと思う祖母がいた。
お母さんの努力も、常に家にいるお祖母さんが帳消しにしていく。
弟の体重は増えていくばかり。
「母が参っちゃって、役所に相談しに行って…。聞き取り調査をしていた役所の人が、磯山学園を勧めてくれた。
ぶっちゃけると、祖母から離さないとダイエットは無理だと判断したんだと思います。」「…そうか。」
弟クンが磯山学園に行くまで、お母さんとお祖母さんのケンカは絶えなかったそうだ。
「食べさせるな!」という母と「それは可哀想だ!」と言い張る祖母。
その前でご飯を食べないとならない、運動系の林と兄。
食べたいのに食べさせて貰えない、弟。
食べるな!という親と気にせず食え!という祖母に挟まれた弟は、自分のせいで家族がギクシャクしていると、少し精神的に病んだという事情もあったらしい。
「卒業まで磯山学園に通ってました。」
ある程度自己管理ができる様になり、お祖母さんも亡くなった。
それでも慣れ親しんだ磯山学園を離れられず、中学入学を機に家に戻ったそうだ。
まだお世辞にも「痩せている」とは言い難いが、超肥満からちょい肥満にまではなったそうだ。
「でもなんで疾風先輩が、磯山学園を気にするんですか?」
と聞かれて…。
家の事や弟のことを信用して話してくれた林に嘘は付きたくなくなって、正直に全部話した。
「…なるほど。良いと思いますよ。
この間の土砂崩れで、磯山学園は人には被害はなかったんですけど、一時断水になっちゃったらしくて。」
「元々親元から離れて暮らしている、事情を抱えた子供達ばかりですから、かなりストレスはあったと思うんです。」
「そういえば、うちの担任がボランティアで行ったみたいなこと言ってた。」
「慰問っていうか、交流みたいなものはよくありましたよ。
気軽にレジャーに行ける子供達ばかりじゃないんで、先生達は子供を楽しませる事に腐心してました。
地元の劇団が公演したり、中高生が校外学習に行ったり。
俺も中2の職業体験で行こうかと思ったんだけど、福祉や教育の人気は高くて、俺は選ばれませんでしたけど。」
あっ!なんか少し閃いた。
「子供達を楽しませる。」
という林の言葉がダイレクトに心の中に居座った。
磯山学園に必要なのはお金だけじゃないのかも。
そんな気がした。
元々は喘息などの持病、虚弱、肥満などの健康上の理由で、自然に囲まれた場所で集団生活を送りながら、生活や健康を改善するという学校だった。
しかし平成に入って、少し事情が変わり始める。
いじめ、不登校、育児放棄、片親による養育困難…。
様々な事情を抱える子供達にも門戸を開き始める。
「俺の弟の場合は、肥満なんですけど。」
元々の身体が大きいという遺伝体質に加えて、食生活が壊滅的だった林の家は、朝から揚げ物を食べて、おやつに甘いパンやドーナツを食べて…という感じで、いつも家には食べ物が溢れていたそうだ。
米は1人2合は一食で食べたりもしてたらしい。小学生でだ。
「林、よく体型維持してたな。」
「バスケしてましたからね。」
「あっ、なるほど。」
三兄弟で、兄と次男の林はバスケで身体を動かして、外で遊ぶのが大好きで、自然と食べた分動く、動いた分食べる、と良いサイクルが出来ていた。
しかし、末の弟だけが運動嫌いで、なのに兄たちと同じ量を食べていたそうだ。
一緒に暮らす祖母がその辺りの認識が甘くて、皆が欲するままに与えてくれていた。
練習や試合で林たちが家にいない間も未の弟は家にいる。
その間に食べる。帰ってきた兄達と合わせてまた食べる…という具合。
「弟はどんどん大きくなったんです。縦にも横にも。」
入学する前には大人並みの体重になり「超肥満」と診断され、生活習慣の改善を求められたが、うまく行かなかったらしい。
お母さんは認識を改めて、きちんと食事を作る様になったのに。
けれど、目の前で林たち兄が食べているのだ。
それを見ながらダイエットをするのを「可哀想」だと思う祖母がいた。
お母さんの努力も、常に家にいるお祖母さんが帳消しにしていく。
弟の体重は増えていくばかり。
「母が参っちゃって、役所に相談しに行って…。聞き取り調査をしていた役所の人が、磯山学園を勧めてくれた。
ぶっちゃけると、祖母から離さないとダイエットは無理だと判断したんだと思います。」「…そうか。」
弟クンが磯山学園に行くまで、お母さんとお祖母さんのケンカは絶えなかったそうだ。
「食べさせるな!」という母と「それは可哀想だ!」と言い張る祖母。
その前でご飯を食べないとならない、運動系の林と兄。
食べたいのに食べさせて貰えない、弟。
食べるな!という親と気にせず食え!という祖母に挟まれた弟は、自分のせいで家族がギクシャクしていると、少し精神的に病んだという事情もあったらしい。
「卒業まで磯山学園に通ってました。」
ある程度自己管理ができる様になり、お祖母さんも亡くなった。
それでも慣れ親しんだ磯山学園を離れられず、中学入学を機に家に戻ったそうだ。
まだお世辞にも「痩せている」とは言い難いが、超肥満からちょい肥満にまではなったそうだ。
「でもなんで疾風先輩が、磯山学園を気にするんですか?」
と聞かれて…。
家の事や弟のことを信用して話してくれた林に嘘は付きたくなくなって、正直に全部話した。
「…なるほど。良いと思いますよ。
この間の土砂崩れで、磯山学園は人には被害はなかったんですけど、一時断水になっちゃったらしくて。」
「元々親元から離れて暮らしている、事情を抱えた子供達ばかりですから、かなりストレスはあったと思うんです。」
「そういえば、うちの担任がボランティアで行ったみたいなこと言ってた。」
「慰問っていうか、交流みたいなものはよくありましたよ。
気軽にレジャーに行ける子供達ばかりじゃないんで、先生達は子供を楽しませる事に腐心してました。
地元の劇団が公演したり、中高生が校外学習に行ったり。
俺も中2の職業体験で行こうかと思ったんだけど、福祉や教育の人気は高くて、俺は選ばれませんでしたけど。」
あっ!なんか少し閃いた。
「子供達を楽しませる。」
という林の言葉がダイレクトに心の中に居座った。
磯山学園に必要なのはお金だけじゃないのかも。
そんな気がした。
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