若松2D協奏曲

枝豆

文字の大きさ
120 / 242
文化祭 準備

原価 花音視点

しおりを挟む
その日もバイトの日で、私は店に出ていた。
美大卒で、絵を描きながらここで社員として働いている、篠宮大和さんが店長だ。

「ねぇ、大和さん。前に話していた布インクのアレ、文化祭で企画を練ることになりました。」
客足が途絶えて、レジで並んでただ立っている時に大和さんに相談してみた。
そもそも「布インク」を思いついたのは、本社から送られた販促のチラシを見て、「コレ楽しそうで良いなぁ。」と大和さんが話したのが始まり。

担任から話があった、「いくらで売るか?いくつ売るか?」の話もした。

「文化祭だろ?あんまり高いのは売れないな。」
大和さんはそう言いながら発注のカタログを持ってきて開いた。

「安いのはこのキャンバス、まあエコバックだな。一番小さいのが、コレかな。」
折り紙が入るくらいの小さな袋。
「次が縦が少し長くなったの。コレ何が入るかなぁ、小さいペットボトル2~3本ってとこかな?」

「いくらですか?」
「100枚で折り紙の方が15800円、ペットボトルくらいのが19800円。」
インクは1色1280円。
花音なら俺の社割使って良いよ、と大和さんはここから3割引いてくれる、と言ってくれた。

「シルクスクリーンの道具は…学校にないかな。」
「確かあったと思います。」
「無かったら声かけて、ツテはあるから。」
「ありがとうございます。」

他にもクッションカバーやバンダナもあった。
価格的に合うのはバンダナ。100枚で8800円。

「いっそのこと、木綿の無地の日本手拭いなんてのも良いかもな。うちじゃ扱ってないけど。」

「クレヨン、どう思います?」
「うーん。俺は絵描きだから描くけど、絵心ない人は…な。大量生産には向かないし。
だったら消しゴムハンコ作って、ポンポン押させた方が良いかもな。」

…なるほど。

「確か本店で見本を展示してるはずだ。ちょっと聞いておいてやるよ。もしかしたら借りれるかもしんない。」

「ありがとうございます。」
ぺこりと頭を下げると、大和さんはニコニコと、気にすんな、俺こういうのは嫌いじゃないんだ、と言ってくれる。

…なんか、なんかな。

バイトの高校生のために、色々考えて、助けてくれる大和さん。
…今回みんなに画材屋で働いている事を利用したみたいな企画を投げ掛けたのは、私の少し邪な気持ちがある。

絶対言えない…けど。

…多分。
大和さんは未来の私、な気がする。
美大に行って、作品が売れなくて、だけど諦めきれなくて。
働きながら、コンクールやコンペに応募して…。

もう社会人なった大和さんは未だに夢を見続けている。
私はそんな大和さんがちょっと気になっている。

どうしたら心折れずに夢を見続けられるのかな?

…絶対に誰にも言えないけど。







しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わり、転校してきたのは、初恋の相手だった——。 鬱々とした気分で二学期の初日を迎えた高須明希は、忘れかけていた記憶と向き合うことになる。 名前を変えて戻ってきたかつての幼馴染、立石麻美。そして、昔から気になっていたクラスメイト、河西栞。 親友の田中浩大が麻美に一目惚れしたことで、この再会が静かに波紋を広げていく。 性と欲の狭間で、歪み出す日常。 無邪気な笑顔の裏に隠された想いと、揺れ動く心。 そのすべてに触れたとき、明希は何を守り、何を選ぶのか。 青春の光と影を描く、"遅れてきた"ひと夏の物語。   前編 「恋愛譚」 : 序章〜第5章 後編 「青春譚」 : 第6章〜

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

after the rain

ノデミチ
青春
雨の日、彼女はウチに来た。 で、友達のライン、あっという間に超えた。 そんな、ボーイ ミーツ ガール の物語。 カクヨムで先行掲載した作品です、

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...