若松2D協奏曲

枝豆

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天使が舞い降りる 皇

弟のおねがい

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「お兄ちゃん、お願いがあるんだけど。」
冬休み少し前、学童からの帰り道に壮が遠慮がちに手を繋いできた。

「何?」
「クリスマスイブ、美和子さんの家に行きたい。」

うん、別にいいんじゃないかな。どうせ両親は仕事だ。
ソラと練習する日は1人で行って、俺が帰りは迎えに行く。
相手の家にご迷惑…という域はとっくに脱してしまった。
俺は嶋田さんの弟子?みたいなもので、壮を美和子さんは親戚の子どものように扱ってくれている。

何を今更…。いちいちお伺いを立ててまで確認するような事じゃない。
「夕方迎えに行けば良いんだろう?」

そう言う俺を壮は何か訴えたい事があるように涙目で見つめる。
「…違うのか?」
いつもと違う何かがあるのか?

「…あのね。美和子さんのお教室の生徒さんが…。」

お教室の生徒さん?ああ和裁のか。
「クリスマスパーティーをやるんだって…その…夜に。」

壮…それは…。
「大人の集まり、だろう?」
「…うん、多分。」

壮が言うには…。


「ねえ、壮くんも来ない?」
そう言い出したのは田辺さんという長く先生のお教室に通っている生徒さん。
大学生の息子さんと高校生の娘さんがいて、息子さんの幼稚園の行事で着る甚平を仕立てる為にお教室に通ったのがきっかけで、おばあちゃんのタンスの肥やしになっていた古い着物の仕立て直しを始めて、もう15年通い続けている。
美和子さんとは先生と生徒というよりは友達に近いらしい。

「クリスマスに先生と生徒で食事会をするんだけど、ババアだけじゃつまらないわ、壮くんみたいに可愛い子が混ざったら楽しい集まりになるんじゃない?」

たまたま壮がソラに会いにきた日に、個人レクチャーを受けに来ていた田辺さんが壮を誘ったらしい。


「…行きたいのか?」
美和子さんの家で、そしてお兄ちゃんが来てくれるなら、ソラもいるし…。

「クリスマスパーティーした事ない…から。」

正確にはある。
学童でも毎年やるし、まだ母が家に比重を掛けざるを得なかった頃はそれなりにやっていた。
ただ壮が覚えていないだけ。母が仕事にのめり込んでからは家でのクリスマスパーティーはない。
辛うじてツリーは飾るし、枕元にプレゼントが置いてある。
しかしここ数年は壮に取っては「ハズレ」プレゼントが続いている。
…流行りのおもちゃやゲームソフト。
おそらくだけど、母の周りの人達の話を鵜呑みにして買い与えたプレゼント。

両親の責任だけどは言えない。
壮に聞いても具体的に「コレ」とは言えない壮だから、仕方ないとはいえ…な。
俺と、壮の好きな唐揚げを買って、ケーキを食べて終わるつもりのいつものクリスマス。

壮に取ってはクリスマスは周りの子のようにワクワクするイベントじゃなかった事だけは確か。
「クリスマスは家族で過ごす。」
子供には当たり前のクリスマスじゃない家だから。

「とりあえず美和子さんと相談、それからだ。」
ポンポンと壮の頭を軽く叩いた。

うん、と言いながら、僅かな期待を壮は隠さない。
多分美和子さんなら…。きっと嶋田さんなら…。

そう思えてしまうくらい、俺たち兄弟は嶋田さんご夫婦に甘えてしまっている。
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