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happy birthday
翠の家族
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翠の実家のバーに行くのは結構な人数になった。
俺と北斗と皇、仁志と悠太そして富田。
優と花音と菜々子と絵里、西、中野…。
そしてクミ達1年の時に仲の良かった3人。
吹奏楽部の仲間。
そうして迎えた当日。
俺は大切な事を忘れていた事に気付いた。
「いらっしゃい、今日は楽しんでね。」
入り口で迎えてくれたのは、マダムのナギさんだけじゃなかった。
黒の皮パンに紺のサテンのシャツ、ボタンは上2つが止まっていない。髪はテカテカにワックスで固められて、ちょいワル風の男の人、そう翠のお父さんだった。
クミ達はよく知ってるらしく、
「パパさんお久しぶりです。」
なんてにこやかに挨拶してサッサと奥に入っていく。
うわ、どうしよう。
(何?疾風気付いてなかったの?)
と固まる俺を見た皇が呆れ顔で聞いてくる。
そうだ、そうだった。
ここに翠の両親がいない訳がないじゃないか。
ヤバ…。なんか緊張する、ってかちょっと足がすくむ…かも。
なんとなくみんなを先に行かせて、最後に扉を潜った。
「こんばんは。お世話になります。」
と立ち止まって挨拶をした。
ジロっと俺をひと睨みだけして、返事はなかった。
うわぁ、無視だ、無視された!
「ちょっとニイ、大人気ない。
和津くん、いらっしゃい。久しぶりだね。元気だった?」
「…はい。」
気にしない、いこっ、とナギさんが俺の背中をそっと押した。
押されるまま、店内を進む。
「ごめんね、ニイ、子離れ出来てなくて。」
「あ、あの…。知ってるん…ですよね。」
何をとは怖くて口に出せない。
もちろん俺と翠の関係を、なんだけど。
あはは、もちろん、とナギさんは笑う。
「最初だけよ、そのうち諦めるから。」
ナギさんはそう言うけれど…。
今日呼ばれているのは翠の友達だけじゃなくて、ご両親の演奏家仲間や古くからのご友人も呼ばれだらしいが、まだ高校生の俺達に合わせて夕方からパーティーは始まる。
大人の人達は深夜まで楽しむそうで、だからか今はほぼ翠の友達の貸し切り状態だった。
この間座らせてもらった一段高くなっていた後ろの客席へと案内してもらった。
「翠は?」
先に席についていたみんなに聞くと、ステージに上がってからここへ来るそうだ。
「翠、吹くんだ。」
「そう、凄いよ。」
…凄い?何がだ?
ステージの中央にドラムセット、その脇にピアノ、アンプやマイクがたくさん並んでいる。
「じゃ、始めようか。」
ナギさんの一言でパーティーは始まった。
…スゲェ。
ナギさんはピアノ、翠がトランペット、ちょいワル翠パパがサックス、そして…ドラムを叩いている男の人がいる。
「うわ、そっくり。」
翠の髪を短くしただけのドラマーは翠の兄だそうだ。
「…お兄さんいたんだ。」
「はっ!?何そんな事も疾風知らなかったんか?」
って北斗に突っ込まれて。
「北斗…知ってたん?」
「お前が知らない事、俺が知ってる訳ないじゃんか。」
と当たり前のことを返された。
俺、翠の家族のこと何も知らなかったんだな。
「こんばんは、いつも翠と仲良くしてくれてありがとう。」
飲み物のグラスを大量に乗せたお盆を持って運んできたのが翠のお母さんだった。
「こちらこそ…。」
言い掛けて、人差し指立てて、しーだとされる。
「聞いてて。」
口パクでそう言われて演奏中だったことを思い出した。
コクン、と首だけ振ってステージを見た。
翠は楽しそうだ。
学校で、吹奏楽で吹いている時とは明らかに違う。
心から楽しんでいる感じが伝わる。
翠らしくない、少し荒々しい感じも新鮮だった。
クミが「ね、凄いでしょ?」
と聞いてくる。
家族でバンドが組める、音楽家族。
「お母さんもトランペット吹くんだ、今だけ翠に譲ってる。」
翠は2曲だけ吹いて、こっちにやってきた。
「お粗末様でした。」
と笑うけど、
「いや、凄かったよ。」
とみんなが褒める。
演奏はまだ続いている。抜けた翠の代わりにお母さんがトランペットを吹いている。
「本当はね、トロンボーンやれって言われてた事もあったの。だけどどうしてもトランペットがやりたくて。」
家族で演奏するときはお母さんが譲ってトロンボーンを吹いてくれる事もあるんだ、なんて事も話してくれる。
「俺…何にも知らなかったなぁ。」
「何を?」
「うん、翠の家の事。」
こんなに仲の良い家族なんて知らなかった。いや、悪いとも思ってなかったけども。
「そう?普通じゃない?」
「普通じゃないよ。ウチなんて最悪。」
と皇が言ってて。
「北斗んとこは家族か親戚かよくわからない。」
とか仁志が言い出して。
しばらく話題はみんなの家族の話になった。
俺と北斗と皇、仁志と悠太そして富田。
優と花音と菜々子と絵里、西、中野…。
そしてクミ達1年の時に仲の良かった3人。
吹奏楽部の仲間。
そうして迎えた当日。
俺は大切な事を忘れていた事に気付いた。
「いらっしゃい、今日は楽しんでね。」
入り口で迎えてくれたのは、マダムのナギさんだけじゃなかった。
黒の皮パンに紺のサテンのシャツ、ボタンは上2つが止まっていない。髪はテカテカにワックスで固められて、ちょいワル風の男の人、そう翠のお父さんだった。
クミ達はよく知ってるらしく、
「パパさんお久しぶりです。」
なんてにこやかに挨拶してサッサと奥に入っていく。
うわ、どうしよう。
(何?疾風気付いてなかったの?)
と固まる俺を見た皇が呆れ顔で聞いてくる。
そうだ、そうだった。
ここに翠の両親がいない訳がないじゃないか。
ヤバ…。なんか緊張する、ってかちょっと足がすくむ…かも。
なんとなくみんなを先に行かせて、最後に扉を潜った。
「こんばんは。お世話になります。」
と立ち止まって挨拶をした。
ジロっと俺をひと睨みだけして、返事はなかった。
うわぁ、無視だ、無視された!
「ちょっとニイ、大人気ない。
和津くん、いらっしゃい。久しぶりだね。元気だった?」
「…はい。」
気にしない、いこっ、とナギさんが俺の背中をそっと押した。
押されるまま、店内を進む。
「ごめんね、ニイ、子離れ出来てなくて。」
「あ、あの…。知ってるん…ですよね。」
何をとは怖くて口に出せない。
もちろん俺と翠の関係を、なんだけど。
あはは、もちろん、とナギさんは笑う。
「最初だけよ、そのうち諦めるから。」
ナギさんはそう言うけれど…。
今日呼ばれているのは翠の友達だけじゃなくて、ご両親の演奏家仲間や古くからのご友人も呼ばれだらしいが、まだ高校生の俺達に合わせて夕方からパーティーは始まる。
大人の人達は深夜まで楽しむそうで、だからか今はほぼ翠の友達の貸し切り状態だった。
この間座らせてもらった一段高くなっていた後ろの客席へと案内してもらった。
「翠は?」
先に席についていたみんなに聞くと、ステージに上がってからここへ来るそうだ。
「翠、吹くんだ。」
「そう、凄いよ。」
…凄い?何がだ?
ステージの中央にドラムセット、その脇にピアノ、アンプやマイクがたくさん並んでいる。
「じゃ、始めようか。」
ナギさんの一言でパーティーは始まった。
…スゲェ。
ナギさんはピアノ、翠がトランペット、ちょいワル翠パパがサックス、そして…ドラムを叩いている男の人がいる。
「うわ、そっくり。」
翠の髪を短くしただけのドラマーは翠の兄だそうだ。
「…お兄さんいたんだ。」
「はっ!?何そんな事も疾風知らなかったんか?」
って北斗に突っ込まれて。
「北斗…知ってたん?」
「お前が知らない事、俺が知ってる訳ないじゃんか。」
と当たり前のことを返された。
俺、翠の家族のこと何も知らなかったんだな。
「こんばんは、いつも翠と仲良くしてくれてありがとう。」
飲み物のグラスを大量に乗せたお盆を持って運んできたのが翠のお母さんだった。
「こちらこそ…。」
言い掛けて、人差し指立てて、しーだとされる。
「聞いてて。」
口パクでそう言われて演奏中だったことを思い出した。
コクン、と首だけ振ってステージを見た。
翠は楽しそうだ。
学校で、吹奏楽で吹いている時とは明らかに違う。
心から楽しんでいる感じが伝わる。
翠らしくない、少し荒々しい感じも新鮮だった。
クミが「ね、凄いでしょ?」
と聞いてくる。
家族でバンドが組める、音楽家族。
「お母さんもトランペット吹くんだ、今だけ翠に譲ってる。」
翠は2曲だけ吹いて、こっちにやってきた。
「お粗末様でした。」
と笑うけど、
「いや、凄かったよ。」
とみんなが褒める。
演奏はまだ続いている。抜けた翠の代わりにお母さんがトランペットを吹いている。
「本当はね、トロンボーンやれって言われてた事もあったの。だけどどうしてもトランペットがやりたくて。」
家族で演奏するときはお母さんが譲ってトロンボーンを吹いてくれる事もあるんだ、なんて事も話してくれる。
「俺…何にも知らなかったなぁ。」
「何を?」
「うん、翠の家の事。」
こんなに仲の良い家族なんて知らなかった。いや、悪いとも思ってなかったけども。
「そう?普通じゃない?」
「普通じゃないよ。ウチなんて最悪。」
と皇が言ってて。
「北斗んとこは家族か親戚かよくわからない。」
とか仁志が言い出して。
しばらく話題はみんなの家族の話になった。
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