君の右手に誓う永遠…

紫メガネ

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本当に愛している人は愛してけない人だった

真実を明らかにするとき

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 駅前のシティーホテル。
 ここは宗田ホールディングの取引先でもあり、お得意様でもあるためいつ来ても利用できるように特別室が用意されている。


 最上階のスイートルーム。
 一般の人が宿泊すると一泊3万~5万はかかる部屋。

 一面の広がるガラスはミラーが付いていて、外からは中が見えないようになっているが、中かからは外が見えて綺麗な夜景が見渡せる。

 フカフカなじゅうたんが敷き詰められ、高級ソファーにガラスのテーブル。

 奥にはゆったりとしたフカフカのダブルベッドが用意されている。

 まるでお城の中のような部屋に、トワはちょっと驚いていた。


「先にお風呂入ってこい。俺、用意するから」


 私が用意しますとトワは言いたかったが、北斗が手際よくサッと用意してくれた。



 言われた通り先にお風呂に入ったトワ。

 怒りに身を任せてしまったとはいえ、噴水の中に転んでしまってかなり濡れてしまったトワは正直ちょっと寒さを感じていた。


 お風呂に入ると体が温まりなんだかホッとしたトワ。


 濡れてしまった服は一式クリーニングに出してもらい、明日の朝までには仕上がるようになっている。


 お風呂から出てバスローブとパジャマがが用意されていて、トワはパジャマを選んで着る事にした。

 左手でボタンをかけるのがちょっと難しそうだったが、何とかできた。



  トワがパジャマを着て戻って来ると、北斗が入れ替わりにお風呂に入った。

 ホテルで用意されたパジャマにしては、シルクで女性用は色がピンクでちょっと可愛い感じである。



 ソファーに座ったトワは、改めて状況を把握してちょと赤くなった。


 服が明日まで来ないという事は、今夜は北斗とお泊りになる。
 お泊りという事は…

 ハッとなりトワはチラッとパジャマの下の下着を見た。

 スイートルームには新しい下着が購入できる自販機が用意されていた。

 上はシンプルな白いれーずのついた下着だが、下はちょっとセクシーな白いショーツ。
 どちらのシンプルで勝負下着ではないような…。

「どうしよう…」

 トワはちょっと困ってしまった。

 だが…

 北斗はいつも関係を求めなかった。
 今回は状況から、こうするしかなかったからホテルに来ただけだろう。
 何もしないかもしれない。
 勝手に期待して一人で舞い上がっても仕方ない。

 呼吸を整えて、トワは気持ちを落ち着かせた。


 勢いに任せてお泊りになったけど、きっと何もしないだろう。
 トワはそう自分に言い聞かせた。



 暫くすると北斗がお風呂から戻って来た。

 北斗もパジャマを選び、シンプルだがブルー系の上下でいつもより若々しく見える。


 ちょっと緊張した面持ちで座っているトワの隣に、北斗はそっと座った。


「大丈夫か? どこも怪我はしていないか? 」
「はい…大丈夫です…」

 トワがそう答えると、北斗はそっとトワの右手に触れた。

「…この手、義手なんだろう? 港で触れた時、気づいたよ」
「そうですけど、誰も悪くないですから」

「そうだな…。でも俺、トワの右手になる覚悟あるから」
「そんな事…望んでいません。…貴方のせいではありませんから」

 そう答えるトワを、北斗は愛しそうにじっと見つめた。

「…その優しさに、俺はどれだけ救われて来たか。…ずっと、トワには助けられてばかりだ。…ねぇ、俺がプロポーズした時の事覚えているか? 」
「はい…」

「あの時、考えさせてほしいと言ったのは。トワが刑事だって、俺に知られる事が怖かったからだろう? 」
「それもありますが。私なんか、貴方に相応しくないと思っていましたから」

 
 ギュッと唇をかみしめたトワ。
 その表情は頑なに、何かをガードしているようにも見える。

「トワは、俺にはもったいないくらい素敵な女性だよ。こんなに愛した人は、今までいなかったから。記憶を無くしていても、トワの顔が無意志に出思い浮かんでいていたのも。俺のハートが、トワの事を忘れないでって言ってくれていたんだと思う。でも…トワが一番恐れていたのは、職業を知られる事じゃないって俺は思っているよ」

 え? 

 チラッと、トワは北斗を見た。

「トワが恐れていたのは。俺が、何かに巻き込まれて傷つく事だろう? 」

 
 そう言われると、トワの胸がズキンと痛んだ。

 そう…トワが一番恐れていたのは、父と同じように巻き込まれて大切な人が死んでしまう事だった。
 職業柄、何かに巻き込まれ不本意な死を迎える人は少なくないと聞いている。
 でも中にはまったく関係ない家族が狙われてしまたケースもある。
 結婚してすぐに刑事を辞めれば何も問題はないのだろうが、その時のトワには「家族を護りたい」と言う気持ちが強くあった。
 その為に全てを受け入れる事が怖かったのだ。


「ねぇトワ。…人を愛するって事は、全てを受け入れて赦す事だって俺は父さんから教えてもらったよ。父さんと母さんも、結婚するまでの間。ずっとすれ違っていたんだ。…俺は、父さんとは5年も離れ離れになっていたから。…母さんも弁護士だったから、家族を巻き込む案件もあるかもしれないって覚悟はしていたと言っていた。それでも、再会した父さんは離れていた5年間。ずっと母さんへの気持ちは、変わったことがなかったと話していたよ。二度目のプロポーズの時は、感動して涙が止まらなかったって言っていた。…父さんはね、母さんと離れた原因は、社長の娘と「契約結婚」をさせられたからだって話してくれたんだ」


 契約結婚?
 じゃあ、一度は別の人と結婚していたって事なんだ。


 そっと北斗はトワの肩を抱いた。

 肩に触れている北斗の手が、とても逞しくて心地いい…。
 半年前よりずっと強く感じる…。

 なんとなくトワはほっとしていた。


「俺の家系も複雑な家系だから。父さんは、母さんと結婚が決まっていたんだけど。その時の社長の娘が、不治の病にかかっていて。交際していた相手が事故死してしまって。でも、お腹には子供がいたんだ。産む決意をしたものの、出産したら命が短くなるから。子供を残して死んでしまうのは子供に申し訳ない。そう思って、なんとか父親になってくれる人を探していたんだ。そんな時に、父さんの事は目に入って。…その時の父さんは、両親ともが病気で多額のお金が必要だったんだ。その弱みに付け込まれて、3年間の約束で契約結婚をさせられる事になって母さんと別れる事を選んだんだ。…でも5年後に、母さんと再会してずっと内に閉まっていた想いが溢れるばかりで。俺の事を見て、自分の子供だと気付いたと言っていた。…契約は既に終わっていたけど、産まれた子供。今の俺の兄さんだけどね。その子の事を思うと、置いて行けなくなってしまって5年も引きずっていたと言っていた。…兄さんが母さんい「僕のお母さんになって下さい」と言ってくれて。父さんと母さんは、結婚することが出来たんだ」


 一度自分の事を捨てた人を赦したの?
 一人で全部背負わせた人を赦せたの?


 そう思ったトワは黙って視線を落とした。


「一度自分の事を捨てた人を、母さんは赦せたと言っていた。…父さんは、契約結婚していたけど。相手とは入籍していなくて、宗田家に養子に入った形だったったんだ。色々複雑で、当時の社長は実は母さんの本当の父親だったんだ。…自分の事を捨てた父親と恋人、それらを全て赦すと母さんは決めて父さんと結婚したんだ。…どうして赦せたのか、俺は疑問だったけど。今ならその気持ちが、良く判るんだ。俺も、心から愛している人の事は全てを受け入れられる。そして何があろうと、全てを赦せるんだ。理由はうまく言えないけど」


 全てを赦す…。
 北斗の事を恨んでいたわけではない。
 記憶を失っている事を聞いて、あんな酷い事なんて忘れて北斗が幸せになってくれればそれでいいとトワは思っていた。

 未希の一件もトワは引き受ける事を迷っていた。
 母と姉を殺した犯人を見つけて逮捕したいと思って、ずっと捜査していた。
 右手をなくして刑事としては無理があると、自分でも判っていたが、大切な家族の命を奪った犯人を見つけるまでは、刑事を辞める事はできないと思って今まで頑張って来た。

 未希が犯人だと辿り着き、北斗と結婚が決まっていることを知り。
 未希を逮捕するにはどうしても北斗と関わる事になると思ったトワは、他の刑事に担当を代わってもらう方がいいのかとも考えた。
 でも家族の仇をうちたい…北斗の記憶は失われているから、自分の事に気が付くことはない…北斗の両親とは一度も会ったことがないかわ判る事もないだろ。

 そう思って未希を逮捕する為にやって来たトワ。

 だがそれがきっかけで、北斗が全てを思い出してしまうとは…。

 
 私は全てを赦せるの?


(私妊娠しているの。北斗さんの子供よ)

 ハッと未希の妊娠の件が頭によぎり、トワはキュッと肩を竦めた。


「トワ…。今日はなにかあったのか? あんなに、怒っている事今までなかったと思うから」

 
 尋ねられるとトワは少し迷った。

 素直に話すべきなのか、結果が出るのを待つべきか。
 素直に話して、実は関係があったとか聞かされるのが怖かった。


「何があったのか、話してくれないか? 何を聞いても、俺は大丈夫だから」

 そう尋ねられると、観念したようにトワは俯いた。


「ごめんなさい。本当は、聞いてはいけないのだけど。…未希さんが、妊娠していると言い出して検査したら陽性だったんです」
「え? 」

「未希さんは…貴方の子供だと言っていたそうです」
「ちょっと待て! 俺は、そんな事実ないぞ! 記憶なくしてたが、そんな事してない! 絶対にそれだけは言えるぞ」


「はい…。今なら、そう信じられます。…すみません、離れていた半年があったので。もしかして、ありうるのかもしれないと思ってしまって…」
「それで、あんなに怒っていたのか」

「それだけでは、なかったと思うのですが。…多分…怒っていたのは、自分にだと思います。貴方に嘘をついている事が、嫌だったので…」
「俺は嘘つかれているなんて、思っていなかった。きっと、何か事情があるんだって思ていたから。だから言ったろう? 名前なんて、どうでもいいって」

「はい…」

 北斗はそっとトワを抱きしめた。

「トワがそんな怒るって事は、俺への気持ちがトワにもあるって事だろう? 変な言い方だけど、嬉しい…。でも、怒らせてしまってごめんな」


 スーッと顔を近づけてけて来た北斗がトワの額に額をくっつけてきた。



「トワの気持ちがどうでも、俺はずっと愛して行くよ…」
「そんな…」

「もう、何も言うな」

 と、トワの言葉を遮るように北斗はそっとキスをした。


 車の中でのキスよりもずっと深く。
 優しく包み込んで、口の中を全て犯されてしまうくらいで。

 探るようなキスからお互いが求めあうキスに変わってゆく…。

 
 ギュッとトワが北斗にしがみついて来た時。

 そっとトワを抱きかかえた北斗。


 そのままトワをベッドに連れて行き、そっと寝かせると北斗は熱い眼差しで見つめてきた。


 え? まさか…。

 ちょっと驚いた目をしたトワに、北斗はそっと微笑みトワのメガネを外して枕元に置いた。


 メガネを外したトワは、とても綺麗な顔をしている。

 ぱっちりとした切れ長の目が魅力的で、瞳が透き通るブラウンで見ているだけでも胸がキュンとなる。


「…ずっと、トワとこうしたかったんだ。…」

 え? まさか…

 赤くなったトワを見て、北斗はゆっくりとパジャマのボタンを外していった。


 パジャマのボタンが外され、トワの肌が露になると、北斗はそっと首筋を指でなぞった。

 北斗の指先はとてもしなやかで、その指先を感じたトワはギュッとシーツを握りしめた。


「トワ。愛しているよ…」


 北斗の唇がトワの首筋に這う…。

 鎖骨から鎖骨へ…鎖骨から胸へ…。


 絹の様に滑らかな白いトワの肌に、北斗がギュッと愛した跡が真っ赤なバラの蕾の様に小さくついてゆく…。

 下着がはずされ、マシュマロの様に柔らかいトワの胸に北斗の唇が降りてくる…。
 その唇は優しくトワのマシュマロの中を滑り回ってゆき、可愛く綺麗なサクランボの部分へと向かっていった。

 北斗の唇がサクランボの部分に触れ、キュッと吸い上げるとトワの吐息が小さく漏れてきた。

 何度も北斗の唇が触れ、キュッと吸われたり、口の中で転がされたり…
 その度にトワの吐息が漏れてきてだんだんと激しくなっていった。


 激しくなったトワの吐息を感じながら、スーッと北斗の手が降りてきてトワのショーツをゆっくりと降ろしてゆく。


 

 産まれたままの姿になった北斗とトワ。

 直接触れ合う体温がたまらなく心地よくて、お互いを激しむ求めあってし合う。


「トワ…愛している…。ずっと…我慢していたんだ…こうして、トワと繋がりたかった…」

 胸からお腹に降りて来た北斗の唇は、そのままトワの入口へと向かってゆく…。

 トワの入り口は溢れんばかりの清らかな川の水で、潤いつつあった。
 清らかな水に歓迎されるように、北斗の唇がトワの入口へと向かって行った。

 トワの入り口はまだ強張ていて狭かった。

 口と指先で強張っているトワの入り口を解して開いてい行く北斗。

 
 トワからは吐息と共に声も漏れて来た。

 

「トワ、俺に捕まって…」

 そう言われるとトワは北斗の背中に手をまわした。


 強張っていたトワの入り口がほぐれて、広がって来たのを確認した北斗はゆっくりと入り口から入って行った。


 入ってきた北斗を感じると共に、トワは今まで感じたことがない激痛が走り思わず悲鳴に似た声を漏らしてしまった。

 その声を聞いた北斗は、自分の右手の人差し指をトワの口の加えさせた。

「俺の指、思いきり嚙んでいいから」

 そう言われると素直に北斗の指をくわえたトワ。

「大丈夫、気持ちいね。ゆっくり息吐いて」


 グッと入って来る北斗。
 それと共に激しい痛みを感じて、トワは北斗の指をギュッと噛んだ。


 指を噛まれた痛みを感じながら、北斗はそのままトワの奥へと進んで行く。


 北斗の背中にトワが爪を立ててきてギュッとしがみ付きてきた。


 そのままグッと奥までつい進んだ北斗。


 北斗が奥までたどり着くと、トワは痛みが快楽に変わったのを感じた。   

 そして「好き…愛している…」そんな気持ちが体の奥の方まで伝わってきて酒匂の喜びを感じた。


 
 お互いが一つになると気持ちが伝わって来る…。

 北斗の苦痛で空白だった半年の気持ち…
 トワがずっと一人で背負ってきた悲しみ。

 その気持ちが伝わって来るとなんとなくホッとした。





 しばらくして。

 北斗はトワをギュッと抱きしめていた。

 トワは感動して泣いてしまっていた。

 そんなトワをそっと慰めている北斗。


「トワ。今日は、本当に有難う。…ずっと、トワとこうしたかったんだ」
「…すみません。…私が、臆病なので…」

「そんなことないよ。自分の事、大切にしているだけじゃないか。俺も初めての相手が、トワで嬉しいよ」
「え? そうだったんですか? 」

「ああ、そうだよ。俺が、そんなに経験あると思っていたのか? 」
「だって…ほっとかないでしょう? 他の人が…」

「付き合った人はいたけど、最後までしたことは一度もなかったよ。だって、本当に心から愛した人しか、抱きたくないって思っていたから」 
 
 ギュッと、トワを抱きしめて北斗は微笑んだ。


「トワ。…無事で、本当に良かった。…いなくなったのを思いだして、ずっと心配していたんだ」
「あの後…救急車が来たのを確認して、姉に電話して来てもらいました。…一緒だっとこと、貴方のご両親に知られてはいけないと思ってしまって」

「お前の事を知っても、俺の父さんと母さんは、何も言わない。大歓迎してくれるだけだよ」
「…はい…」

「あんな大怪我して、良く一人で対応できたな」
「総合病院には、親戚の伯父さんが勤務していたのですぐに処置してもらえました」

「そうか。でももう、1人じゃないから。ちゃんと俺を頼れよ」
「はい…」


 北斗はギュッとトワを抱きしめた。


 ふと、トワの肩や鎖骨に、赤い跡が沢山残っているのが目に入った北斗。


「あ…。ごめん、ちょっと、やりすぎちゃったかもしれない…」
「え? 」

「いや、跡…沢山ついちゃったから…」

 照れくさそうな北斗を見ると、トワも一緒に照れてしまった。

 ふと見ると、北斗の肩にも赤い跡が数ヶ所ついてた。


「すみません、私も跡つけちゃってます…」
「ん? あ、本当だ。まっ、いいけど」


 お互い顔を見合わせて笑いあった。

 
「ねぇ、明日は仕事は? 」
「休みです」

「本当? 俺も休みなんだ。ねぇ、父さんと母さんに会ってくれないか? ちゃんと、トワの事紹介したいんだ」
「でも…未希さん事があったばかりじゃないですか」

「そんな事、気にするなよ。紹介するくらい、構わないだろう? 俺、一応だけどトワのお父さんに会っているんだぜ」
「はい…」

「よし、決まりだな」


 両親に紹介してもらえることは、トワも嬉しく感じていた。
 解決しなくてはならない事もあり、未希の妊娠の件もハッキリ結果がくる。

 でもちゃんと目の前の人を信じてゆこうとトワは思った。


 外には綺麗な月が輝いていた・・・。
 


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