20 / 138
20
しおりを挟む「は!?」
「うんうん、点滴しましょうね~」
何だか呑気な声を出す看護師さんともう一人、普段此処のΩ専用病院でΩの緊急避難所である銘花病院の受付のおばさんである一戸…えーと下の名前なんだったっけ?そう言えば聞いたこと無いな、名札にも一戸しか書いていないし。
その一戸さんが書類を持って俺の前に椅子を持って座り「此方に記入お願いね~」とのほほんと言い、看護師さんはテキパキと点滴の支度をしている。
と言うかもう刺した。
俺が一瞬目を離したすきに。
だがしかし、全く痛くない!
「一瞬だけプスッと言う感じがありますよ~」と言う声でつい身構えてしまったのだけど、痛みを感じなかった。
はぇぇ…この看護師さん手際半端ない。
熟練のワザと言うやつか。
どうでも良いけどこの病院ってドア閉めないのかな?さっきも俺が大声出して飛び起きた時、ドアが半開きだった。もしかしてこれから入って来るつもりだったから開いていたのかな?
「えっと、昨日此処に入院したのでは無いかと…」
「いいえ~もうね、今日で3日経過してしまったの」
「マジっすか…」
「そうなのよ~。心配だったのよ?気が付いて良かったわ」
ヒートでぶっ倒れたのは良いが、嵯峨さんに投薬して貰った抑制剤は俺には効き過ぎたのかも知れないと疑っているとのこと。
そう言えば普段俺って市販の薬とか抑制剤とか滅多に使わない。
自然に身を任せという訳ではないが、ヒートが起こったら部屋に籠もるようにしていたし、店を持つ様になってからは自宅の一室で籠もっているぐらいで滅多に薬を飲むことは無かった。
せいぜいこの病院で出してくれる抑制剤ぐらいだ。
「小林さんが通っている病院は此処よね?」
「はいそうです」
市販で売っている薬を使っているのかどうかを疑っていたようだ。
薬というのは飲み合わせで人によってはアレルギー症状等が出たり出なかったりする。今回俺が倒れたのはヒートのせいもあるだろうが、薬品の可能性もあると考えて一応記録を取っているのだろう。
薬のことは残念ながら専門では無いので詳しくは無いが、何かあった時に記録を取っておけば後々参考になる。…等と昔通っていた小児科の先生がお小言のようにこぼしていた。
「風邪薬とか、薬は全部此方で処方されているのを使っています」
嵯峨さんに渡された抑制剤以外は。
そう言うと「それじゃアレルギー症状とかでは無いわね」と看護師さん。俺が担がれて来た際に嵯峨さんが俺に飲ませた薬を此方に提出しているらしい。
「あらあら、それは嬉しいわね」と一戸さん。手に持った紙に何事かを書き込み、その間に先程俺に点滴をした看護師さんは脈を測ったり検温をしたりと忙しそうだ。
その看護師さんを何となく見ていたら、看護師さんが「そうそう」と此方に視線を向け、
「倒れた小林を連れて来た男性はαなので当病院には待合室までしか入れなかったのですが…その」
何だか言いづらそうだな。
と言うか、『連れて来た男性』とは嵯峨さんのことだろう。
後でお礼をしないと駄目だよな、お店のこともあるし。と言うか嵯峨さんちゃんと朝御飯とか食っているのだろうか?もしかしてまた栄養失調でぶっ倒れるなんて事があったら、再度嵯峨さんの親戚の人とかに色々言われてしまうのだろうか。
うわ~…面倒だ…。
よっし、スマホで連絡を取ろう。
そう思って今更だがベッドの周囲を伺うと、ベッド横に大きめの見たことがない鞄が一つ。それと何本かのお茶が入ったペットボトルに綺麗な花束が花瓶に生けてあった。
「花束…」
何だか色とりどりな花がやたらと飾られている。
今目に付くだけでも5束程花瓶に生けてあるんですが……。
「小林さんを担いで来た男性が朝と夕方、毎日届けてくれるんですよ。花瓶込で」
「ええ?」
「申し訳無い」と私達に謝りながらだからちょっと、ね?と看護師さんに言われて困惑。花って毎日水を取り替えないとならないしね。
すいませんと謝ると、いいのいいのと苦笑される。
「小林さんのイイ人なのでしょ?」
と言われてしまい、どう返事をしたら良いのか困惑していると、
「あら、時間ね」
急に廊下から食欲を刺激するとてもいい香りが……!
「意識がないうちは点滴で栄養を取って貰ったけれど、今日からは普通に食事が取れるわね」
と微笑まれて出されたモノ。
「おぅ、全粥……」
「急に食べると胃に悪いからね」
ですよね~と、100%お粥でドロドロの状態をしげしげと見る。
因みに看護師さんが持って来てくれたトレーの上にはお粥のみ。他は無い。次の食事から徐々に慣らしていき、80%お粥、50%お粥と御飯の粒が増えていくそうだ。それからおかずも増えていくらしい。
「そうそう、花束を持って来てくれる彼からのお見舞いの品があるわ。先に見た方が良いわよ」と言われてベッド横の紙袋を見ると、
「……嵯峨さん、わかっていらっしゃる」
各種色々なふりかけが入っていた。
多分栄養失調で入院した経験から判断して入れてくれたのでは無いだろうか。
14
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
王子に彼女を奪われましたが、俺は異世界で竜人に愛されるみたいです?
キノア9g
BL
高校生カップル、突然の異世界召喚――…でも待っていたのは、まさかの「おまけ」扱い!?
平凡な高校生・日当悠真は、人生初の彼女・美咲とともに、ある日いきなり異世界へと召喚される。
しかし「聖女」として歓迎されたのは美咲だけで、悠真はただの「付属品」扱い。あっさりと王宮を追い出されてしまう。
「君、私のコレクションにならないかい?」
そんな声をかけてきたのは、妙にキザで掴みどころのない男――竜人・セレスティンだった。
勢いに巻き込まれるまま、悠真は彼に連れられ、竜人の国へと旅立つことになる。
「コレクション」。その奇妙な言葉の裏にあったのは、セレスティンの不器用で、けれどまっすぐな想い。
触れるたび、悠真の中で何かが静かに、確かに変わり始めていく。
裏切られ、置き去りにされた少年が、異世界で見つける――本当の居場所と、愛のかたち。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる