商店街のお茶屋さん~運命の番にスルーされたので、心機一転都会の下町で店を経営する!~

柚ノ木 碧/柚木 彗

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「は!?」

「うんうん、点滴しましょうね~」

 何だか呑気な声を出す看護師さんともう一人、普段此処のΩ専用病院でΩの緊急避難所である銘花病院の受付のおばさんである一戸…えーと下の名前なんだったっけ?そう言えば聞いたこと無いな、名札にも一戸しか書いていないし。
 その一戸さんが書類を持って俺の前に椅子を持って座り「此方に記入お願いね~」とのほほんと言い、看護師さんはテキパキと点滴の支度をしている。
 と言うかもう刺した。
 俺が一瞬目を離したすきに。

 だがしかし、全く痛くない!

「一瞬だけプスッと言う感じがありますよ~」と言う声でつい身構えてしまったのだけど、痛みを感じなかった。

 はぇぇ…この看護師さん手際半端ない。
 熟練のワザと言うやつか。

 どうでも良いけどこの病院ってドア閉めないのかな?さっきも俺が大声出して飛び起きた時、ドアが半開きだった。もしかしてこれから入って来るつもりだったから開いていたのかな?

「えっと、昨日此処に入院したのでは無いかと…」

「いいえ~もうね、今日で3日経過してしまったの」

「マジっすか…」

「そうなのよ~。心配だったのよ?気が付いて良かったわ」

 ヒートでぶっ倒れたのは良いが、嵯峨さんに投薬して貰った抑制剤は俺には効き過ぎたのかも知れないと疑っているとのこと。

 そう言えば普段俺って市販の薬とか抑制剤とか滅多に使わない。
 自然に身を任せという訳ではないが、ヒートが起こったら部屋に籠もるようにしていたし、店を持つ様になってからは自宅の一室で籠もっているぐらいで滅多に薬を飲むことは無かった。

 せいぜいこの病院で出してくれる抑制剤ぐらいだ。

「小林さんが通っている病院は此処よね?」

「はいそうです」

 市販で売っている薬を使っているのかどうかを疑っていたようだ。

 薬というのは飲み合わせで人によってはアレルギー症状等が出たり出なかったりする。今回俺が倒れたのはヒートのせいもあるだろうが、薬品の可能性もあると考えて一応記録を取っているのだろう。
 薬のことは残念ながら専門では無いので詳しくは無いが、何かあった時に記録を取っておけば後々参考になる。…等と昔通っていた小児科の先生がお小言のようにこぼしていた。

「風邪薬とか、薬は全部此方で処方されているのを使っています」

 嵯峨さんに渡された抑制剤以外は。
 そう言うと「それじゃアレルギー症状とかでは無いわね」と看護師さん。俺が担がれて来た際に嵯峨さんが俺に飲ませた薬を此方に提出しているらしい。

「あらあら、それは嬉しいわね」と一戸さん。手に持った紙に何事かを書き込み、その間に先程俺に点滴をした看護師さんは脈を測ったり検温をしたりと忙しそうだ。
 その看護師さんを何となく見ていたら、看護師さんが「そうそう」と此方に視線を向け、

「倒れた小林を連れて来た男性はαなので当病院には待合室までしか入れなかったのですが…その」

 何だか言いづらそうだな。
 と言うか、『連れて来た男性』とは嵯峨さんのことだろう。

 後でお礼をしないと駄目だよな、お店のこともあるし。と言うか嵯峨さんちゃんと朝御飯とか食っているのだろうか?もしかしてまた栄養失調でぶっ倒れるなんて事があったら、再度嵯峨さんの親戚の人とかに色々言われてしまうのだろうか。
 うわ~…面倒だ…。

 よっし、スマホで連絡を取ろう。

 そう思って今更だがベッドの周囲を伺うと、ベッド横に大きめの見たことがない鞄が一つ。それと何本かのお茶が入ったペットボトルに綺麗な花束が花瓶に生けてあった。

「花束…」

 何だか色とりどりな花がやたらと飾られている。
 今目に付くだけでも5束程花瓶に生けてあるんですが……。

「小林さんを担いで来た男性が朝と夕方、毎日届けてくれるんですよ。花瓶込で」

「ええ?」

「申し訳無い」と私達に謝りながらだからちょっと、ね?と看護師さんに言われて困惑。花って毎日水を取り替えないとならないしね。

 すいませんと謝ると、いいのいいのと苦笑される。

「小林さんのイイ人なのでしょ?」

 と言われてしまい、どう返事をしたら良いのか困惑していると、

「あら、時間ね」

 急に廊下から食欲を刺激するとてもいい香りが……!

「意識がないうちは点滴で栄養を取って貰ったけれど、今日からは普通に食事が取れるわね」

 と微笑まれて出されたモノ。

「おぅ、全粥……」

「急に食べると胃に悪いからね」

 ですよね~と、100%お粥でドロドロの状態をしげしげと見る。
 因みに看護師さんが持って来てくれたトレーの上にはお粥のみ。他は無い。次の食事から徐々に慣らしていき、80%お粥、50%お粥と御飯の粒が増えていくそうだ。それからおかずも増えていくらしい。

「そうそう、花束を持って来てくれる彼からのお見舞いの品があるわ。先に見た方が良いわよ」と言われてベッド横の紙袋を見ると、

「……嵯峨さん、わかっていらっしゃる」

 各種色々なふりかけが入っていた。
 多分栄養失調で入院した経験から判断して入れてくれたのでは無いだろうか。
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